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騎士×嘘つき/玉座の間


■  ()()く神の名の下に  ■


 嘘を吐いている人間は甘い匂いがする。


 少し、ほんの少しだけだ。多分、普通の人間じゃ分からない。犬なら分かってくれるかもしれない。


 この地下の大空間で、儀式とやらで使ったのか、辺りは香木の匂いで満ちているが、1メートルも離れて居なければ流石に分かる。


 ルシスは嘘を吐いている。内容までは分からないが、間違いない。


 俺に嘘を吐いている。


 自分に嘘を吐いている。


「一体、僕が何の嘘を吐いていると?」


「何もかもだ。理想の国を造るだとか、竜騎士の大隊だとか……お前の話をずっと聞いていたがよ。全部、薄っぺらく聞こえるんだよ。いや、本気で国をひっくり返そうとしている奴とは思えない」


 ダンの言葉に、ルシスは立ち尽くして黙ったまま。代わりにカロンが言い返した。


「何を言っていますの!?ルシスは、私達は友愛の世を造ろうと、ここまでやってきたのですのよ!?」


「そりゃ、白羊。アンタ達は本気だったかもな。だが、ルシス。お前は……」


 ダンはそう言うと玉座から部屋を見回した。無数の竜騎士がいるというのに、さっきから動いているのは、自分を羽交い締めにしている一体だけだ。


「この部屋に居る竜の騎士……たしかに、これだけの竜がいれば、国にとっては脅威かもしれない。お前、こいつらを操るとか言っておいて、何故一人だけしか操っていない?本当は、一体だけしか操れないんじゃないのか?全部、ハッタリじゃないのか?」


 彼の煽りに、ルシスが口を開こうとしたその時だった。


 軽い金属音とともに、ダンを拘束している竜騎士の首が刎ねられた。


 突然の事態に驚いてルシスに飛びつくカロン。だが、ルシスもダンも全く慌てる様子は無い。


 頭を失い、身体を痙攣させて膝から崩れ落ちる竜騎士の後ろに現れたのは、治療を終えてダンの下へと駆けつけたユート達だった。ライラとルンはベルの方へ駆け寄る。


「話は聞いたぜ、ルシス。こりゃあ、随分と大量の兵士を揃えたが、反応すら出来ないたぁ、数が多いだけで木偶の坊だな。まぁ、確かに、竜がこれだけいれば脅威だが。マナ王国は他の国とも軍事協定を結んでいる。何かあればアスラ王国からすぐに軍が派遣される。お前らの理想は、絵空事に過ぎない」


 ユートがルシスの喉に剣を突き立てる。「ふ……ふふっ……ははは」だが、彼は肩を震わせて笑う。


「何がおかしい?もう、下手な芝居は終いにしよう」


「何度も言わせないでくれ……何も知らないくせに、分かった気になるのは止めた方が良いと」ルシスは自嘲と侮蔑に歪んだ瞳でダンを見つめ、自分の耳をトントンと叩いた「その優秀な耳を、よく澄ましたまえよ」


「何?」ダンが耳を澄ますと、遠くの方に、僅かな水の流れる音が聞こえる。ここは地下。水脈でも近くにあるのだろうか。「水が流れているだけ……いや、なんだ?おかしいぞ?」


 ダンが驚くのも無理はない。その水の音は瞬く間に、ドウドウという轟音へと変化しているからだ!


「な、なんだ?この音は!?」「音?どういう事だ、ダン?」


「一体しか操れない?違うね、君等を足止めするには一体で十分だっただけさ!!」


 彼の高笑いとともに、地下空間の天井に大きな穴が開く。


「この穴は、山の頂上付近へと繋がっている!さあ竜騎士達よ、今こそマナ王国、王都へと侵攻を開始せよ!」


 彼の言葉とともに、整然と並んだ竜騎士が次々と竜へと変身していき、天井に空いた穴へと飛び立っていく!


「これを待っていたんだ!堰の切れるこの時を!ブラン川の淵源はタウロス山に眠る巨大な地下水脈!そしてこの王墓には、もう一つ、古代竜人の最先端の治水技術の粋、堰堤(ダム)という重要な機能がある!ダムを完全に破壊した今、一年前に王国を襲った氾濫の数十倍の激流が、全てを洗い流すのだ!」


 ルシスは、右手を再び竜の鉤爪へと変化させ、その力を以てユートの剣をへし折ると、勝ち誇ったように叫んだ。水流の音が更に大きくなる。


「確かに、もう終いだ!大洪水(おおみず)は全てを破壊しながら、やがて王都をも飲み込む!!そうすれば、軍事協定も何も関係はない、竜騎士の大軍が蹂躙するだけだ!」


「お前ッ!なんてことしやがるッ!そんなことしたらお前も……ッ!」


 ダンがルシスの胸ぐらに掴みかかる。しかし、背中から竜の翼を生やし眉を上げて笑う。「僕には、こうやって翼があるからね。空の上から、世界が壊れる様をじっくりと観察させてもらおう」


 呆然とするダンに、ルシスは念押しするように言った。


「ダン。たしかに僕は嘘を吐いたかもしれない。確かに、僕にとって新しい世界なんていうのは些末なことだ。それよりも、もっと重要な事は……初めてここで会った時、言っただろう?──僕の望みは、いや、使命とは、この嫌いな国と人々を、破壊することだって」


──()()く神の名の下に。


 ルシスはそのように言った。

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