人狼×竜人/王墓②
言葉を失ったダンの身体を放すと、カロンはまた笑った。
「ふふっ、そんなに身構えなくて結構。私は本物の竜みたいに、牙も翼も大きなお口もありませんもの」
「本物……?」
ダンは、同じ竜人であるベルの姿と、目の前にいるカロンの姿を、頭の中で比較してみる。すると、確かに人間の姿をしている時のベルの身体は完全に人間そのものであって、身体の何処にも鱗など付いてはないし、体温も普通の子どもと同じ様に温かい。同じものは縦長の瞳だけだ。
「私は紛い物ですの」彼女は自分を指して口元だけで笑う。「竜人の血はとても薄まっているのでしょう。お父様やお母様も、祖父母も曾祖父母も、皆、普通の人間でしたわ。私だけこんな姿なんですの。それに私は本物の竜人のように竜の姿になって飛ぶことはできない。かと言って、こんな姿では太陽の下を歩くことすら出来ませんでしたわ……私は竜にも人にもなれない。紛い物の竜人ですの」
ダンは唇を噛んだ。彼女の口からは殆ど語られていないが、呪いにかかった頃の自分と同じ、その目が物語っている。『姿が違う』。たったそれだけの理由で、彼女も日陰に追いやられているのだ。
「まぁ、そんな神妙な顔なんてしないで。私達が受け継ぐのは、決して竜人の血ではありません。私達が継ぐのは、竜人の『意志』。そして、彼らの王国の『理念』」
「意志?理念?」
「全ての民が自由を享受し、共に愛し合っていた、かつての竜人の『意志』。そして、そこに暮らす人々は平等であるという、古代マナ王国の『理念』。これこそ、白羊が彼らから受け継いだ意志と理念ですわ」
「平等を掲げる王国か……」そう呟くと、ダンはおもむろに懐からタバコを取り出して一服する。「面白いことを言う」
煙と共に皮肉を吐く彼に、彼女は少し顔を顰める。「確かに。太古の竜人も、王が民を支配するという構造を考えれば、完全な平等とは言えませんでしたわ」そう言うと、ダンの口からタバコをひょいと取り、そこらに放り投げた。
「ですが、白羊にとってそんな問題は最早解決されたも同然!」彼女は目を輝かせる。まるでスポットライトが当たっているかのようだ。「人は、唯一絶対の神を信じることで、誰かに支配されること無く、自らの意志で国家を創り上げられますの!」
巨大な石扉に手を触れて陶酔しながら語る彼女に対し、ダンは再びタバコを口にくわえ、彼女の世迷い言を一蹴するように鼻を鳴らした。
「残念だが、アンタらの夢は実現しねぇ。まず、マナ王国は、アンタらなんかにゃ滅ぼされない」
「あら、どうしてそんな事が言えるの?」
ダンは短くなったタバコの火を足でもみ消すと、剣を引き抜き、その切っ先を彼女に向ける。
「俺が王国を守る。そして、ルシスも連れ戻す」
彼女は、一瞬驚いて目を見開いたかと思えば、すぐに平静を取り戻し、微笑みを作った。
「ふふっ。アナタこそ、面白いことを言うのね。二つも欲しがるなんて」
「二つ?」
「『右手で剣を握り、左手で愛する者を抱くならば、汝は三つを失うだろう』……『ブラン川の歌』。知ってるでしょう?私、あのお話が大好きで、いつか演劇を観に行くのが夢ですの。勿論、ルシスと一緒に」
──カロンとダンが話をしている頃、扉の向こうでは、ルシスがいよいよ儀式を終えようとしていた。
そこは玉座の間を模した広い墓室。広さはダン達の居る大回廊と同じだが、異なる点が二つある。
一つは、高台の上に造られた棺と玉座。
そしてもう一つは、墓室を埋め尽くすほどに整然と立ち並ぶ、竜人の騎士達。その数は一万体を超える。彼らは王の死と共に殉葬された忠臣である。
ルシスは催眠状態のベルを玉座に座らせ、ライラの作った竜語の表を片手に棺の蓋の裏に刻まれた長い碑文を唱えている。
これこそ、『竜人の王国』が真の危機に瀕した時、王を守るために行う儀式!
古の竜騎士を復活させる儀式である!
妖しい魔力が充満する部屋の中で、ルシスは祈るように復活の呪文を唱え続ける。
「あと少し。君に……見せてあげられる」




