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騎士×白羊/遺跡


「本当に、こんな所にルシスが居んのか?」


「たしかに匂いは残っている。間違いないはずだ。ユート。後ろは大丈夫か?」


「ああ、今の所、人の気配はない。お前の方こそ気をつけろよ」


 石柱に開いた遺跡の入り口から、ダンを先頭に四人は階段を下りていく。

 

 薄暗い一本道の通路を十数分ひたすら前に進むと、やがて彼らは地下に広がる大空間に出た。


「なんだ、ここは……?」


「王宮の広間でも、こんなに広くねぇぞ?」

 

 ダンとユートが大空間に圧倒されるが、すぐに気を取り直した。なぜなら、無数に存在する柱から突き刺すような殺気が自分たちに向けられて居ることに気付いたからだ。


「ルン、ライラ。俺たちの後ろに」ダンはそう言うと、剣を抜いて臨戦態勢をとる。


 鼻を動かし、匂いで敵を探る。だが、大空間にはお香のような匂いが充満しており、上手く敵の居所を掴むことが出来ない。恐らくルシスが彼の嗅覚に対し策を講じたのだろう(だとするならば、ここまで自身の匂いを消して来なかったことには疑問が残るが)。つまるところ、この空間ではまともに匂いで敵を判別できないということ。


 男二人がルンとライラを前後から守りながら、柱に取り付けられた松明に沿って広間を進んでいく。


だが、部屋の真ん中辺りまで来た所で、突然全ての松明がふっと消え、一瞬にして大空間は暗闇に包まれたッ!


「ッ!!?ルン、ライラ、伏せろ!ここは俺とユートでなんとかする!」


 だが、視覚と嗅覚を奪われた程度では、ダンとユートの動きは封じられない。耳を澄まし、人間の動きを感知すれば良いだけのこと。


 動いた。


 左と前。


 足音はなし。だが、空気を押す微かな振動が伝わってくる。


 二人。


 手練だな。だが、前から来る一人は殺意がダダ漏れだ。まだまだ甘い。


 そいつ鞘から剣を抜いた。この音は自分たちが握るロングソードではなく、内陸部の打刀の類いだ。

 

 打刀はロングソードと異なり、『叩き切り、敵を無力化すること』ではなく『切り裂き、敵を殺すこと』ことに特化した剣。対面での戦力では相手に分があると言える。殺される気などさらさら無いが。

 

 左、右。

 

 フェイントを数回入れている。

 

 しかし、動きが大きすぎる……それ自体がブラフか?

 

 地面を蹴る、トトン、と縮地法特有の音。

 

 敵は、一直線にこちらへ向かってくる。

 

 しかし、ホテルでは遅れを取ったが、来ることが分かっていれば、直線的な縮地の動きほど避けやすいものはない。


 刹那……見切ッた!


 剣を振り、敵の脚を叩き切るッ!


 ……だが、その剣が切ったのは、肉ではなく、空だった。


「外れじゃ。主には今興味ないんでの」


 敵は直前で軽やかに跳躍してダンの剣を躱すと、その剣身を蹴ったッ!彼女の体躯は彼の頭上を越え、もうひとりの騎士に切っ先を向けるッ!


「さっきの借りじゃッ!」


 銃弾に劣らぬ速度の刺突が、ユートの心臓を狙うッ!


「効かんッ!」だが、元騎士団副長の名は伊達ではない!


 彼はロングソードの平たい剣身で、その刺突を弾く。しかし、予想以上に敵の攻撃は重く、彼の身体は数メートルも吹っ飛ばされてしまった!


「ユートッ!?」刃がぶつかり合う鈍い音を聞き、ダンは声を荒らげる。だが、逆に「バカ野郎!油断すんな!」と戦場で注意散漫になったことを咎められた。


 そして、彼が息するまもなく、敵の次の一手が襲いかかる。「全くその騎士の言うとおりだ、人狼。『結界・遮断』」と魔法を詠唱する男の声。ユートの叱咤どおり、ダンの注意が逸れたことが仇となってしまったようだ。


「ダン!」「先輩!」ルンとライラの悲鳴に振り返る。いつの間にか松明に灯が戻っており、二人の姿がはっきりと見える。


「『結界魔法』?面倒なもん使いやがってッ!」


 彼と二人との間は、今、透明な壁で隔たたっている。結界とはつまり領域の設定、結界内外の移動は完全に遮断される。つまり、彼女たちは閉じ込められてしまったということだ。


──どうしたらいいッ!?この状況で、俺がすべきことはッ!?


 逡巡するダンの頬に、ぴとっと冷たく固い感触。


「狼の顔。となると、貴方がダン様ね?」


 いつのまにか、漆黒のドレスを纏った女性がもしゃもしゃとダンの頬毛を撫で回している。


「ッ!?あ、アンタ……は?」


 その目を見た瞬間、蛇に睨まれたように、ダンの琥珀の瞳孔は開きその身が固まってしまう。


「……ルシスが言っていたより、随分と可愛らしい顔ですわね」


 屈託のない顔でクスクスと笑う彼女に、未知の恐怖。背筋が震える。


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