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騎士×白羊/霊峰②


「だが、まぁ……つまりだ、気を失っているなら、叩き起こせばいいわけだ」



 ルシスの行方が掴めなくなり、行き詰まってしまったダン達であった。だが、悩んでいる時間など無い。この隙にもルシスは着実に権謀を進めているのだ。



 そこで、ユートが思いついた案は、気絶している白羊の信者の中から、催眠魔法を使ってルシスの行方を知っていそうな人間を覚醒させ、その居場所を吐かしてしまおう、という作戦と呼ぶには知性の欠片も無いものだった。彼が"作戦"という時はいつもこうだ。しかし、この窮地に四の五の言っていられないのも確か。



 だが、そうは言っても「ルシスの行方を知ってそうな人間」など、目の前に無数に横たわる信者から区別できるはずもない。ダンがため息を吐いて辺りを見回したその時だった。



「ん?あいつは……」彼が目をつけたのは、何処かで見たようなアホ面の若い男。いつだったかカラケシュの街で自分とライラを襲ってきた男によく似ている。



 丁度いい、とダンはその男の側まで行くと、この中で唯一魔法を使えるルンを呼んだ。「見つかりましたかー?」と呑気な返事をしながら近寄る彼女には、先程までこの惨状に慄いていた面影はない。何度も言うが、辺りには気絶した人間が散乱している。市井の人間からすれば狂気の沙汰だ。だが、そんな肝っ玉が据わっているというか、物怖じしない性格でなきゃ、騎士は務まらない。



 ルンは目を閉じて気絶している男に跪くと、彼の額に手を当てて魔力を込める。低い耳鳴りと共に、男の全身がビクンビクンと跳ね、彼は息を吹き返したように目覚める。



「ッはぁッ……ッあ、はぁ……ッ!」



 男は、自分が置かれた状況が理解できていないのか、周りを見回す……彼は、絶望の面持ちで息をつまらせた。その視界に映ったのは、仲間の信者達の死屍累々たるありさま。



「あ゛ッ!?な、んだ。こりゃ……あッ!」



「大丈夫だ。死んじゃいねぇよ」



 聞き覚えのある声に男が振り返ると、そこに居たのは、異形の人狼。

 


「バ、化物ッ!……悪、魔。悪魔の手先だぁ!」



 悲鳴を上げて尻もちをついたまま後退りするが、もう一人の女に阻まれる。人狼は「なんでそんな驚くんだ?……あ、そういや、あん時お前は俺の顔をよく見ていなかったな」などと独りで納得してうんうんと頷いている。



「おい、お前、ルシスはどこだ?」



「だッ……誰が言うかッ!悪魔の脅しになぞ、俺は屈しないッ!!」



 だが、男はそれでも根性を見せ、ダンを威嚇する。自分を見下す異形の化物にその手を震わせながら曲刀を向ける。



「意気は良いが、今は無駄だ」



「ふんッ!言っていろ!」



 二人は睨み合う。だが……男は「あ゛ッ!」という野太い声を発し、憑き物が落ちたように再び気を失ってしまった。



「どうした?何かしたか?」とダンはルンを睨むが、彼女は「失敗しちゃいましたね」あっけらかんと答える。



「催眠による覚醒状態って、とても不安定なんですよ。だから、強いストレスを受け続けるとすぐに効果が切れちゃうんです」



「もう一度コイツを起こせるか?」



「死んじゃいますけど、いいんですか?」



 ルンが真面目な顔で訊ねるので、ダンは少し困惑気味に「いや、止めとこう。胸糞が悪くなりそうだ」と断る。肝が据わっているどころではないな……こちらが慄いてしまう。



 その時、彼の後ろから、ライラの声。「ダン!ルン!ちょっとこっち来て!知っている人が居る!」



「本当か!?どこだ!?」



 二人が急いでルンの下に向かうと、ライラは「この人!」と言って足元に転がったあばた顔の男を指差した。こころなしか他の信者よりも顔のあたりが黒ずんでいて、髪が焦げてちりちりと縮れている。おそらく、ユートの『雷霆』を真正面から喰らったのだろう。


「この人、髪型は変わってるけど、たしか私の家に来た中の一人よ」



「こんな胡散臭い奴に騙されたのか?」



「違うわ。もうひとり、もっとカッコいいというか、伊達な渋い男の人が居て、その人と話したの。この人は……なんか、色々命令されてたわ」



「ただの小間使いか。で、その伊達男は?」



「居なかった」



「すると、そいつはもしかしたらルシスの側にいるかもな、ってーと、その男の小間使いのコイツなら、なにか知っている可能性は高いか……ルン。起こしてやってくれ」



 ルンは頷き、先程と同じ様にして小男を蘇生させる。

 


「ふぅーー……はぁーー……」浅い呼吸を繰り返しながら起き上がる男を確認すると、ダンはライラに、ルシスの居場所を訊ねるように言った。先程のゴロツキのようにびっくりさせて再び気絶されても困るからだ。



 えぇ~私がぁ、と横目でダンを見る彼女。ダンは「お前みたいな子どもに怯える奴もいねぇだろ」と、無理やり背中を押す。



「こ……ここ……は…?「あ、あの、ルシス先生の場所って分かりますか?」



 疼く頭を抱える小男の視界に、潜り込むようにしてライラが訊ねる。だが、彼の心臓は蚤よりも小さかったようだ。目玉が飛び出てしまうのではないかというほど見開き、悲鳴を上げ、身体を引っくり返して怯え、彼は喚き散らした。



「はいぃッ!ルシス様は、あの石柱から地下の遺跡に入って行かれましたぁッ!お願いです!殺さないで下さい!私は無実ですぅッ!」

 

 

 彼は、ルシスの匂いが途絶えてダンが足を止めた、正にあの石柱を指してそう叫んだ。



 アポリアと言う男は、身も心も小物であった。



 まさか、ここまで簡単に吐くとは。ダンは少々面食らったが、しかし、ルシスの居場所が判明したことに違いはない。「大丈夫だ、殺しはしない」彼は背中越しにアポリアに語りかける。

 


「ありがとうございますぅ!ありがとうございますぅ!」



 脂汗と涎でぐちゃぐちゃになった顔で小男がダンに振り返る。

 

 

 だが、人狼の顔を見た瞬間、「ばけもの……」と小さな声を上げ、彼は再び気絶してしまった。小物のストレスの限界値は低い。



「ったく。人のことを化物だとか、ひでぇ奴らだな」



 ダンは侮蔑の眼差しでアポリアを見下しながらぼやいた。



「ね。顔だけなら可愛いのに」



「そうですか?どっちかというとシュッとしてません?」



「シュッとしてるって何?」



 その後ろでは、神経の図太すぎる女と少女が、随分とずれた会話をしていた。

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