騎士×白羊/霊峰
■40 アポリア ■
ルシス達が遺跡を奥へ進んでいる頃、霊峰・タウロスに集った白羊の信徒たち。彼らはルシスの思し召しに従い、ルシスの儀式を邪魔しようとする者を排除するため、各々が武器を取り、遺跡の入り口である石柱を囲んでいた。
「よいかッ!?我々白羊以外の人間は全て敵と思えッ!」
その声の主はピュロスの部下、あばた顔のアポリアであった。彼の過激な言葉に同調するように、信徒は武器を掲げて、地を揺さぶる大声で応える。
「敵は殺しても構わんッ!いや、殺せッ!敵を見つけ次第、その拳を振りかざせッ!」
「「おおおーーッ!」」
「我々を散々痛めつけてくれた国の連中共に、目に物見せてやるのだ!」
「「おおおーーッ!」」
「ルシス様も言っておろう!我々の意志は神に依って認められた正義である!躊躇するな!信じるのだ!」
「「おおおーーッ!」」
アポリアの掛け声はどんどん過激になっていく。いやはや自分の言葉で人が動くというのは、かくも面白いものなのか、と彼は黄ばんだ歯を見せて笑う。
さて、アポリアと言う男は、身も心も小物であった。失業を機に白羊に入信する前、彼は奴隷商の小間使いとして働いていた。彼はヒザンのスラム街で生まれ、常に貧困と暴力に曝されていた。満足に腹も満たせないような幼少を送った為に男としては背が低く、また病気を治す金も無いので、瞼の上には大きな出来物が残ったまま。
そのような生い立ちを考えると、彼が非合法な仕事に手を染めてしまったことも無理のない話かもしれない。だが、上司に媚びへつらい、奴隷を虐めるような性分は果たして環境のせいなのか、生まれ持ったものなのか、それは誰にも分からない。
ピュロスがそんな小物のアポリアに遺跡入り口の守護を任せた真意は不明だが、彼の苛烈な扇動に信徒の士気が上がっているのは確かだった。なるほど、信徒の多くは貧困に喘ぎ、日頃から抑圧を受けている。故に、自分たちを苦しめる国家に対して反撃の機会を与えられ、おまけにその行動が正当化されているとあれば、先鋭化する信徒の狂気も納得できよう。
「全ては夜を明く神の名の下に!」
「全ては夜を明く神の名の下に!」
彼らを包む熱狂が絶頂に達した時、群衆の一人が叫んだ。
「あれは、なんだッ!?」
彼が指したのは、ルシスの時と同じ西の方角。
他の信徒も目を見開いて一斉にそちらを見る。闇空の中を何かが迫ってきている!
それが最早、神の使いなどではないということは明らか!
「者共ッ!あれこそ、憎き国王の魔の手、騎士団の尖兵に違いない!石柱の守りを固めろ!」
「「うおおおぉぉッ!!ルシス様を守れぇッ!」」
信徒は武器を構え、迫りくる騎竜を睨むッ!
決してここを通しはしないッ!
彼らは声を張り上げ、騎竜に乗っている騎士を威圧する!
だが、騎竜はどんどん迫ってくるッ!
「我らには神の加護がある!怯むなッ!」
アポリアも眉間に皺を寄せ、鬼気迫る勢いで信者を奮い立たせる。
だが──
「武器持ってんな。ユート、攻撃して構わん」
「応ッ!『雷霆』!」
呪文とともに、信徒に向かって稲妻が走るッ!
「んなッ!『防──
自分たちの身を守ろうと、咄嗟に魔法で防御を図るアポリア。
だが、雷の速さには敵わない。防護壁を展開する前に、稲妻は彼の脳天に直撃!
その身体を伝い、地を這う電光が信徒を襲うッ!
「「~~ッッ!!?!??!」」
彼らは声を上げる暇さえ無く、痺れ、硬直し、バタバタと倒れてゆく。
──少し遅れ、タウロスの山に雷轟が響いた。
たった一撃で白羊の信徒を無力化したダン達は、そうして、タウロス山に悠々と着陸したのだった。「ったく。今日武器を持ったばっかの素人がいくつ束になっても、騎士に勝てる訳ねぇだろ」
竜から降りたユートが気絶した信徒を見て、ボリボリと頭を掻きながら吐き捨てる
しかし、その後ろでルンとライラの二人は引き気味に肩をすくめる。
「ですがユートさん。何もここまで……」
「やりすぎよ。これじゃ、私達が悪者みたいじゃない」
悠長な事を言う彼女たちに、ユートはやれやれと首を振る。
「まだ民間人だ。殺しちゃいねぇよ。ルシスも居るかも知れねぇし。だがな、白羊は明確に国家に敵意を抱いている。そういう存在を無力化するのが騎士の役目だ」彼は念押しするようにライラを指す。「あと、国を守るのに善も悪もねぇ。分かったか」
だが、ライラには少し難しかったのか、彼女は口を曲げると、ユートにそっぽを向けてダンに訊ねた。「ダン、この人達って、本当に白羊なの?いきなり攻撃しちゃってるけど」
「ああ。間違いない。利くのは鼻だけじゃない。俺は耳もいいんだ」彼は鼻先を親指で撫でながら、耳を振り、「10キロメートル程度なら余裕だね」と歯を見せる。
ダンはその優れた嗅覚と聴覚で、早速ルシスの捜索に入った。耳を研ぎ澄まして鼻を動かしながら、倒れる信者を避けつつ、ルシスが残した匂いを探る。他の三人は彼に続いて周りを警戒しながら、ルシスの影を探した。そうして、やがて大きな石柱に辿り着くと、ダンは怪訝な顔で呟いた。
「おかしい。ここで匂いが途切れている」
「おいおい。倒れている中にルシスは居ねぇぞ。ちゃんと探したのか」
「バカ、手を抜くわけねぇだろ」そう言いつつ、ダンはもう一度注意深く匂いを探る。しかし、どうやってもこの広場を出ていった痕跡は無い。
「だめだ。完全に匂いが消されてるし、俺たち以外の人の声もない」
「仕方ねぇ。誰か知ってそうな奴に聞くと……あ」
ユートは、自分の魔法によって倒された人々を見て口をあける。後先考えずに全員を気絶させたばかりに、話を聞く相手はどこにも居なくなっていた。
「皆さん気絶してますけど、誰か起きてるんですか?」
「やっぱりやりすぎだったじゃない」
ルンの純粋な眼差しと、ライラがジトッとした視線がユートをの背中に集まった。




