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人狼騎士×魔導士 / 祭のおわり

 ■33 加護 ■


 上空から二人の一部始終を眺め、ミメイは感嘆の声を上げた。


「ほぉー……ダンとか言う奴、ようやるわ。敵ながらあっぱれな狼じゃ」


 ピコピコと狐の耳を動かし、良いものを見たと上機嫌な彼女に、ルシスは「落としておいて、君がそれを言うか?」と目を細める。


 助かったのだから、過ぎたことは気にするなと、あっけらかんと答えたミメイは、逆に彼に訊ねる。


「じゃが、どうする? あの娘が居らんと錠は開けられんではなかったか? また奴らの下へ飛んで行くか?」


「いいや、ベルの懐に一冊の帳面があるだろう?」


「ベル?」


「……君の抱えている、竜の子だ」


「なんじゃ、そうならそうといえばよかろうに」


 彼女が未だ意識のないベルの小さな身体を弄ると、腰のあたりに紙の感触。服を脱がせてみると、ルシスが言う通り、紐で綴じられた手製の帳面がズボンの腰部分に挟んであった。


 それを取って見るミメイ。それは、ライラが王に頼まれて作っていた竜語の対応表だった。だが、そんな事など知らない彼女は、帳面をパラパラとめくると、神妙な顔になる。「こりゃなんじゃ?……よぉ分からん落書きと……言葉?これが何の訳に?」


「僕が求めていたのは、彼女自身ではなく、竜の言葉も理解できるその能力だよ。それを使って竜の言葉を解明する、それが彼女を攫った理由であり、彼女の役割。彼女は、完璧ではないが、十分それを果たしてくれたよ」


 ルシスは翼を繰り、ホバリングから飛行へと体勢を変えた。もう、ここに居る必要はないということだ。ミメイもそれを受け取ったのだろう。全身に魔力を込め、落下しないように騎乗姿勢を整える。


「後は、僕らが目的を果たすだけだ」彼はそう言うと、カラケシュの空を抜け、タウロス山へ向かって発った。



 やがて、飛行速度が安定して騎乗にも余裕が出てくると、ミメイは彼の話の中で疑問に思ったことを訊ねた。


「しかし、よく主の筋書き通りに娘っ子が動いたもんじゃの?直接指示した訳ではなかろうに」


「その子を見つけた時、学者として、王に進言しておいたからね」ルシスは横目でベルを見た。「彼は学問を重視している王だから、上手く行ったよ」


「じゃが、そんな手回しをしていたのなら、そもそもピュロスが娘っ子を攫う必要なんて無かったんではないか?」


「目的を果たす為の手段は、出来る限り複数用意しておくべきだろう?教団に指示する一方、国にも探させた。僕自身も商人や旅先で会った人に、ダメ元で訊ねて回ったりもしたけど……これは上手くいかなかったね。それにしても、まさか教団が誘拐した娘が、巡り巡って王の下に辿り着いていたことには驚嘆したね」


「いやはや、天は儂らに味方してくれとるのう、感謝、感謝」


 八重歯を見せてニヒヒと笑う彼女。しかし、ルシスは彼女の腕に引っかかっている銀のペンダントをチラっと見ると「彼女にも、加護はあったようだけどね」と嬉しそうに呟いた。




 ■34 元魔導士 ■


 ブラン川では、輝船のパレードがクライマックスを迎えている。

 

 人々はその輝かしい光に気を向けていて、闇に隠れたダンとライラには気づいていないようだ。


「ダンって空を飛べたのね」


 目尻を赤くしながら、ライラはまだ恐怖で震える身体をごまかすように、無理して笑いながら訊ねた。


「騎士なら誰でも使える」


「なんで?」


「竜から落ちた時、死なないようにな」


「……確かにそれは大事ね。あれ?でも自分で飛べるなら、わざわざ竜に乗る必要なんてあるの?」


「こんなキツイ魔法。5分も使ったら全身筋肉痛になっちまうからな」


「夢のない話ね……ふふ」彼女はエレナが言っていた『夢が壊れる』という言葉の意味が分かり、ちょっと可笑しくなって小さく笑った。


 ダンはその姿を見、彼女の緊張の糸が解けたと察して「しっかり捕まっとけよ」と忠告した。彼女が頷くと、その身体を落とさないようにしっかりと抱いたまま、川の上空を浮遊したまま、宿へと戻った。


 床が崩壊したテラスに降り立つと、そこにはサラとエレナの姿はなかった。どうやらユートが既に部屋のベッドに運び終えていたようだ。


 ベッドに横たわる二人を見て、「何があったの?」と目を丸くするライラ。ダンはその背中を「大丈夫だ」と撫でるように叩いた。


「ユート、二人は……」


 ベッドの端に腰を下ろした彼は腕を組んでため息を一つ。


「命に別状はない、だが、意識が混濁しているな。あの女、どぎつい『催眠魔法』を使ってやがる」


「女?」


「俺に化けてた奴だが、今そんな事はどうでもいい。それより、問題はこの魔法が俺達じゃ解けないってことだ」


 ユートが言うには、催眠魔法は相手の精神と身体に密接に絡み合っている為、専門知識の無い者が無理に解除すると、幻覚・幻聴など精神に異常をきたしたり、神経系疾患を引き起こすという。加えて、二人にかけられた魔法は、簡単に解除出来ないように術式が埋め込まれている高等催眠だそうだ。

 

「騎士団の衛生兵のレベルじゃ無理だな。それなりの医者か、専門家が診ないとなんとも言えない」


「心当たりは?」


「お前は?」


「……ないってことか」


 ダンは焦って舌打ちをした。妻と子にかかった催眠を解除しなくてはいけない。

 

 だが、ルシス達も追跡しなければならない。「新しい世」と宣う彼は、恐らくだが国家に対する反逆を企んでいる。

 

 それに、なによりベルも誘拐されている。


 妻子か、ルシスか。どちらを選ぶのが正解だ?


 逡巡するダンだったが、不意にユートが何かを思い付いたように手を叩いた。


「どうした?何かいい案でも浮かんだか?」


「ダン。『催眠魔法』にかかりやすい奴ってどんな奴か、知っているか?」


「はぁ?」


 いきなり何を言い出すかと思えば、今はそんな事を言っている場合じゃないだろうと急かすが、彼は「いいから」とダンに回答を求めた。


 ダンが渋々「そんなの、単純な奴だろ?騙されやすい」と答えると、彼ははずれだと笑った。

 

「それはマジックとか詐欺の場合だ。催眠魔法は逆に、疑り深かったり、頭の良い奴の方がかかりやすいんだと。理屈は知らんがな


「へぇ……ってそれが今、何の関係があるんだ?」


「俺の、いや、俺達の知っている専門家は、全く催眠魔法が効かないそうだ」


「?……俺たち?」


「知り合いに一人居るだろ?単純で、ポンコツな奴」


「……まさか」




──十数分の後、ダンはライラを連れて、催眠魔法の専門家の下へ来た。

 

 そこは、カラケシュ港に建てられた特設のパレード見物会場。その中でも一番見晴らしの良い特等席。


 今日、そいつはここで仕事をしている。


 そう、専門家とは……あの赤毛の眼鏡のことだ。

 

「なんですか先輩?今、パレードが丁度いいところなんでふけど」


 ぶつぶつ言いながら、手に持った牛串にかぶりつくルンを見て、本当にコイツで大丈夫なのか?と訝しがるダン。


 彼が事の経緯を話すと、ルンは目を見開き、わざとらしく手で口を隠し、驚きの声を上げた。


「ベル君が誘拐!?エレナさんとサラさんが催眠状態ッ!?私が居ない内に一体何が起こったんですか?」

 

 ここへ来て初めて話を聞いたライラも同様。目をパチクリとさせながら半ば放心状態になっている。


「許せませんね!許せませんよ!ルシスさんって、確か先輩の友達じゃないですか!裏切るなんてサイテーですよ!」


「まぁそれもそうだが、あの、お前には頼みたいことがあってな……」


「お二人のことですよね!任せてください!元魔導士の腕によりをかけますよ!」


──魔導士だったのか……あれ、魔導士って頭が良くないと成れないんじゃ?


 そう思ったが、黙っておくことにしたダンであった。

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