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少女×竜×学者×道化師 / 広場


■21 捜索 ■


 駅と王宮を結ぶ大通りの丁度中央地点。即ち王都の中心にフオルム広場は存在する。


 故に人の往来は激しく、その広大さに加え、行商や市場などがひしめき合っているので一度迷子になるとなかなか再会できない。好奇心旺盛で急にどこかへ消える我が子を迷子にしないために、わざわざ『金縛り魔法(フリーズ)』を覚える親もいる。ダンもその一人だ。

 

 さて、ライラは人いきれのなか、ベルを探していた。


「どこー?ベルー……」


 小さい背を目一杯伸ばしながら、キョロキョロと周りを見るライラ。その首には先程エレナから貰った銀のネックレスを付けている。そのエレナはと言うと、手分けして探したほうが早いということで、広場の反対側を探している。 


「もぉーどこ行っちゃったのよー……」


 彼女がうなだれて歩いていると、ポンポンと不意に誰かが彼女の肩を叩いた。


 誰だろう、と振り返る。


『やっと見つけた』


そこに居たのは……ベルだった


「見つけた、じゃないわよ、もぉ、なんで急に居なくなっちゃうのよ」


『ごめんね』そう謝ると、彼はライラの横に建っている芝居小屋を指差した。


『お芝居が見たい』


「えっ?でも、私達、お金持ってないし……」


『お金が要るの?』


「そりゃあ、まぁ……」


 彼女の返事に、ベルはすっかり元気をなくして、小さく鳴いた。



──そんな彼女たちを人混みの中から狙う、一つの影。

 

 カラケシュの夜、ダンとライラを襲い、一発KOされたゴロツキである。

 

「……なんだ、あのガキ、隙だらけじゃねぇか」

 

 覚える必要など全く無いが、彼の名はヴラカス。

 

「アポリアさんには絞られたけど、今日で汚名返上よ」


「周りに騎士の気配はない!今がチャンスじゃないか、ヴラカス?」


 そして彼の背後からは、あの日一緒に拳骨を貰った男女が当たり前のように顔を出している。

 

 彼らはヴラカスの手下。それぞれファナとカコ。勿論、覚える必要など無い。


 彼らは顔を白く塗り、派手で珍妙な衣装を着、大道芸人のような格好をして、一日中、ライラの後ろをつけていた。


 上長の指示を受け、もう一度組織に彼女を連れ戻す為に王都までやってきたのだ。


「あのクソ騎士の野郎……傷が疼くぜ……」


 ピエロの格好をしたヴラカスが頭を擦る。顔面を殴られ、5日も顔の腫れが引かなかったのだ。ダンを恨むのも無理はない。


「アイツの事は今どうでもいいでしょ。目標は()()()よ」


「そうだ!今はそれだけを考えよう!」


「お、おう。よし、行くぞ」


 手下達に後押しされたヴラカスは自分の頬を叩くと、人混みの中をすり抜け、ライラの元に静かに駆け寄る。


 同時に二人も、彼のフォローに入るため、それぞれ別方向から彼女を囲むように展開する。


 ヴラカスの魔の手が、ライラに迫る。



 20メートル──




 10メートル──



 5メートル……!


 彼女は一緒に居る褐色肌の少年を宥めるのに精一杯で、全くそれに気づいては居ない。


(よし!今度こそ!)


 心の内でほくそ笑みながら、ライラの身体に、今、手をかけようと──ッ!

 



■22 道化(ピエロ) ■



「そこの道化師。何をしているのですか?」


 その、穏やかで凛とした声に、ヴラカスの手が止まった。


 なんの因果か偶然か、幸運にも思いがけない人物が通りがかり、声をかけたのだ。


「おや、そこにいるのはライラさん……と、竜人ですか」


──その人物は、ダンの友人、ルシスだった。


「あ、ルシス先生。どうしたの?」そう訊く彼女は、彼の雰囲気に少し違和感を覚えた。いつもの黒い燕尾服は少しはだけ、顔も赤くなっている。


 そう言えば、今日の朝、ダンがルシスと食事に行くと言っていた。酒を飲んでいるのだろう。


「ダン達と飲んで居たんだが、彼らは大酒飲みでね。付き合い続けていたら飲み潰れてしまう。だから酔い醒ましに、少し抜け出させてもらったってところでしょうかね」


やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめて首を振った彼は、その視線をそっと怪しいピエロに移す。


「それで、貴方は一体?……見たところ、この子に用があるようですが?」


 知っていますか?と彼はライラに確認をするも、彼女は「知らない。何その顔?」と怪訝な顔で答えるだけ。


「……もしかして、あなた大道芸人のフリをして、スリでも企んでいたのではありませんか?」


「えっ?……や、まさか、俺、私は、この子に……そう!花を一輪プレゼントしてあげようと」


 想定外の事態に狼狽するピエロは、慌てて指を鳴らして、魔法で赤い花を出現させる。宴会で使おうと身に着けていた一発芸が、まさかこんな所で役に立つとは。


「わぁっ!すごい!いいんですか!?」


「あ、あぁ。モチロンさ。さ、お嬢さん、どうぞ」


 ライラに花を渡そうと身を屈める彼の手首をルシスの手が強く掴み、それを止めた。


「なりませんよ。この街では、対価なく品々を奪ったり、押し付けたりすることは禁じられています。どんな可憐な花だろうと」


「え、あは、そうなんですかっ!?すいません、僕まだ芸団に入って日が浅くて……ッ」


 ヘラヘラ笑って言い訳をするヴラカスだったが、ルシスと目が合った瞬間、彼は身体を強張らせ態度を翻した。まるで蛇に睨まれた蛙だ。


「半人前の道化師が3人じゃ、その程度の知識もありませんか……」


 ルシスは眉間に皺を寄せ、徐々に彼の腕を掴む力を強くする。痛みに耐えるヴラカスだが、その目にライラの背に隠れるベルの姿が飛び込んでくると、驚き目を丸くした。

 

──アレは、確か……ピュロス様が以前見せてくれた、竜人の人相にそっくりじゃないか!なんで娘と一緒に?


 十数秒のにらみ合いの末、彼は何かを悟り、ルシスの手を振り払うと踵を返して「じゃあ、僕はこの辺でッ!」と逃げ出した。


ライラはピエロが消えた方向を不思議そうに見つめて「……なんだったのかしら?」と零した。


「大方、貴重な竜人の子を狙った下賤な輩でしょう。全く、困った者達だ」


 困り顔で肩を落とすルシス。ライラの素性を知らない彼は、ヴラカス達の狙いをベルだと思っているようだ。彼女も、まさかあのピエロが自分を攫った組織だとは思いもしていなかったので、それに同意するように頷く。


「でも、逃げちゃったけど、いいの?」


「それは騎士の領分ですよ。ま、後でダン達には伝えておきますがね」


「……ところで、さっきから気になっているんだけど、一つだけいい?」


 話を終えようとする彼に、ライラは口を挟んだ。彼女は、今日彼と会ってから、ずっとその言葉に違和感を覚えていたのだ。


「……なんでしょうか?」


 微笑みを向けるルシスを見つめ、彼女は唾を呑みこむ。






「この子、"竜人の子"じゃなくて、"ベル"っていう名前を付けてあげたの」


「……え?」


「だから、先生も"ベル"って呼んであげてね?」


 ニコリと笑うライラに、彼は瞼を瞬かせた。


「あ、あぁ……はい、わかりました」





── 一方、3人の白塗りピエロは、路地裏を抜け、街の外れにある秘密通路から王都をから脱出していた。


「ヴラカス、あの娘はもういいの?」


「あの男は騎士か? なにをされた?」

 

 状況が飲み込めていない二人は、ヴラカスの後ろに続きながら口々に訊ねるが、彼はずっと何か他事を考えているようで、二人の質問に耳を貸そうとしない。


 だんだんと怪訝な顔になる二人。だが、やがて通路の出口になっている古井戸から島の裏の荒れ地に出たところで、彼はやっと口を開いた。


「カコ。ピュロス様に連絡を取ってくれ」


「ピュロス様? アポリアさんじゃなくてか?」


 命令された男は確認を取った。なぜなら、いつも自分たちに指示を出すのはアポリアという小男。

 

 アポリアの上司であるピュロスとやり取りをすることなど、今までほぼ無かったからだ。


「そっちの方が話が早い。伝えてくれ『竜人と娘は一緒に居る』ってだけでいい」


「ほんとにそれだけでいいのか?」


「ああ。たぶん大喜びだ。鴨がネギ背負っているようなもんだからな」


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