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少女×女騎士×竜 / 広場


■20 的あて ■



「やっぱり、いや、分かっていたけど。なかなか、面倒くさいわね……」


 ダン達が酒場で飲んでいる丁度その時、子どもたちは街の広場に来ていた。


 噴水のある広場では、毎日市場が開かれている。

 

 中には珍妙な商品を売り叩いている露天商がいたり、大道芸人や吟遊詩人などが芸を披露していたりする。

 

 また、仮設の遊戯場や小さな演劇小屋などが建てられることもあり、そう言った日には、一日中楽しめる場所になっている。

 

しかし、そんな楽しげな中でライラは、泉の縁に座って一人、メモ帳を睨んでいた。


「ライラ、なに怒った顔しているの?」


「うん。ちょっと宿題がね……」


 宿題というのは、王から命じられた古代竜人語の翻訳作業のことだ。

 

 やはり、というべきか最初から分かっていたことだが、非常に面倒くさい作業だ。

 

 大して脳は動かさないし、難しい事はないのだが、ベルと話す時はペンを片手に持っていなければいけないし、彼との会話のテンポが一々損なわれてしまう。


「そんなの後でどうだって出来るよ!ほら、ライラもこっち来て!面白そうなゲームがあるよ!」


 そう言うと、エレナは彼女の手を取って、とある屋台の前まで走った。


「これは?」


「"的当て"ゲームよ!5個のボールを的に向かって投げて、一つでも的に当てられたら景品がもらえるの!」


 的は地面に立てられたポールの先端に取り付けられており、半径15センチメートル位だろうか。少し距離があるが、絶対に当たらない、とは言い切れない絶妙な長さだ。


「へぇ。面白そうね。景品は何なの?」


「えっとね。加護付きネックレスだって!」


 彼女が指さした景品台には、赤色の装飾が情熱的に輝く銀のネックレスが展示されていた。


「加護?」


 すると、店の前で座って居た、鉢巻を巻いた胡散臭い店主の男が、野太い声でエレナたちに話しかけてきた。


「加護ってのはつまり、魔法耐性のことだな。これ一つで船が一隻買える位の高級品だぞ?」


「船ッ、本当ッ!?やる!やるよライラ!」


「えっ……でも、エレナちゃんお金は? というか怪しくない?」


 ライラが彼女を止めようとすると、後ろから「ちょっと待って下さい!」と女性の声。


「話は聞きました!私がやりましょう!」


 それは、ダンの後輩にして今日の子守役、親衛隊新人のルンだった。


 その後ろではベルがどこで買ったのか飴をペロペロと舐めながら、興味深そうにこちらを見ている。


「いや、ルンちゃん。やりたいのは私なんだけど?」


「大丈夫です。私もやりたいですから」


「えっと、大丈夫じゃなくて……話を」


「ダメだよエレナちゃん。ルンさんはこうなったら人の話を聞かないから」


「店長さん。私が挑戦します。おいくらですか?」


「1000ع(デナリ)だ」


「う……意外と高いですね」


「景品が本物だってことだよ。それに、ボールは5個もある。適正だと思うがな?」


 食堂で良い昼飯が食べられる位の値段に少し気後れしてしまう彼女だったが、子どもたちの前で「やる」と言った以上、もう引き返せなかった。


 彼女は震える手で店主に数枚の銅貨を渡すと、代わりにボールを受け取る。

 

 そして、数メートル先に設置された的を凝視し、しっかりと標準を定める。

 

 集中──大丈夫、鈍っているとは言え、数年前には騎士団にも所属していたのだ(後方支援係だったけど)。


 一投目。

 

 ボールは大きく弧を描き……

 

 ……外れ。


「少し上に逸れてしまったようですね。なかなか手ごわいです」


「2メートル位ズレてたけど」


 ゲームをやらせてもらえなかったエレナは、いじけて頬を膨らませ、つっけんどんな態度だ。


 そんな彼女の態度を気にもとめず、二投目。


 も外れ。


「これはたぶん、アレですね。眼鏡が邪魔なんですよ」


「的が見えなくなると思うけど」


 ライラは正論をかますが、ルンはなおも自信に満ちた顔。


「大丈夫です。騎士団には『騎士は心』という教えがあります。なので、きっと心の目もあるはずです」


「なにその精神論」


 しかし、三投目も四投目も外れ。ボールは全く的に当たる気配もなく、天高く射出された。

 

 当然心の目など有る訳ないのだ。


「やっぱり、眼鏡は有ったほうがいいですね。現代科学は裏切りません」


「そうね。騎士団の教えは裏切ったものね」


 そして、運命の五投目……


「えいっ!」


 彼女が投げたボールは、幸運にもまっすぐに的へ向かい──


 見事、命中


「やった!やりましたよ!当たりました!」


 子どもみたいにはしゃぐ彼女に、子どもたちも乗せられて騒ぎ始める。


「すごい!ルンちゃん!流石親衛隊ね!」


「へへっよしてください。照れるじゃないですか」


 しかし、側で見ていた店主が、大きく咳払いをしので、彼女達は気になって彼の方を向く。

 

 すると、彼はぶっきらぼうに言った。


「嬢ちゃん達。残念だが、的が倒れなきゃ、景品はやれないなぁ」


「そ、そんな!そんな事聞いてません!」


「俺が言う前に、嬢ちゃんが始めちまったからな」


 そう言ってガッハッハと下品に笑いながら、男はボールを手で弄ぶ。


「そ、そんな……」


 怒りで目に涙を浮かべるルン。しかし、男の言う通り、彼女はルールを聞かぬままゲームを始めてしまったので、言い返すことも出来ない。

 

 恐らく、店主もこうやって料金だけ取って、景品を獲られないようにしているのだろう。


 しかし、エレナは男が持つボールを掠め取ると、彼に向かって叫んだ。


「待って!店長さん、次は私がやる!ルンちゃんの(かたき)は私がとる!」


「エ、エレナさん……」


「ほう、嬢ちゃん。威勢がいいじゃねぇか。そういう奴は嫌いじゃない。じゃ、1000ع(デナリ)


「ルンちゃん。お願い!」


「えっ? 私?」


 結局、お金はルンが払って、エレナが念願のボール投げに挑戦することに。


 ライラは「仇とか息巻いてるけど、エレナちゃん自分がやりたいだけでは?」とも思ったが、ベルト一緒に黙って飴を舐めていた。飴はベルから分けてもらった。


 さて、エレナの一投目。


 十秒ほどの精神統一。

 

 振りかぶって、見事な女の子投げ。

 

 的には……届きすらしなかった。


「嬢ちゃん、それじゃあ、仇は取れないぞぉ!ハッハッハ!」


「ふん!言ってなさい!次こそ!」


 そう言って投げた二投目。

 

 今度は、距離こそ十分だったが、見事に的を外した。


「エレナさん!球走ってますよ!ナイボです!」


「……ナイボって何?」


 しかし、三投目も残念ながら当たらず。

 

 横では店主がニヤニヤと笑いを浮かべている。


(なんで当たらないのよ!)とかなり力んでいたエレナだが、その時、ライラからのアドバイスが耳に入る。


「エレナちゃん!怒るとコントロールが乱れちゃうよ!」


 その一言で我に返ったエレナは、次いで四投目。

 

 なんと、的のど真ん中にヒット!


 しかし、残念ながら的を倒すには至らなかった。


「あぁ!惜しいです!あと少しです!」


 そう言ってルンが激励するも、その横から、「ガッハッハ!嬢ちゃんみたいな子どもじゃ、パワーが足りないかな?」

 

 などと店主が大人げなく彼女を煽り、遂にエレナの怒りは頂点に達した!


「うるさい!集中できないから黙ってて!」


「何をッ!?」


 最後の一球!エレナは目を閉じてゆっくりと深呼吸。


 怒りという感情は集中力を損なう負の感情。しかし、その一方で、身に秘める力を引き出すことができる感情でもあるのだ!


 では、秘めた力を引き出した上で、集中力を維持する方法は存在するのか?


 ()()()()!そして、それは世に静かな怒りと表される!

 

 そして、その方法とは……ッ!怒りの矛先を研ぎ澄まし、狙い澄ますことッ!

 

 瞬間、刮目したエレナは、勢いよく振りかぶると、流麗なフォームでボールを、投げる!


「いっけぇぇぇッ!」


 彼女の右腕から放たれたボールは、まっすぐと、そして力強く空を裂き、遂に大きな音を立てて的のど真ん中にぶち当たる!


 そして、その衝撃は的を支えているポールを勢いよく揺らした。これが倒れれば、エレナの勝利、景品ゲットである!


「倒れてぇぇぇッ!」


「持ちこたえろぉぉぉッ!」


 ぐわんぐわんと弧を描くポールを、必死の形相で見守るエレナと店主。


 やがて、ポールは……


 

 ガチャァンッ 



 響く金属音と共に、地面に倒れた。


「チクショォォッ!」


「やったァァァァァッ!」


 大げさに頭を抱える男。

 

 万歳をして喜ぶ少女。


 駆け寄る眼鏡(ルン)


「やりましたね!戦いの中で成長してました!私感動しましたよ!」


「えッ!?……うんッ!ありがとうッ!」


 そして、少し遅れてライラがやってきた。


「おめでとう!ネックレスゲットだね!」


「うん!ありがとう!ライラにあげるね!」


「え?いいよ、エレナちゃんが取ったんだもん」


「ううん。最初からライラにプレゼントする為だよ!」


 そう言うと、彼女は景品台に乗ったネックレスを取って、それをそのままライラの首に手を回し、付けてくれた。


 彼女は恥ずかしくなって、ネックレスに付いた装飾品のように顔を赤くした。

 

「うん!似合ってる!」


 エレナは目を細めて、溌剌(はつらつ)と笑った。彼女の母親に似た、気持ちの良い笑顔だ。


「あ、ありがとう」


 微笑み合う二人の友情を暖かく見守っていたルンだったが、その時、あることに気づいた。


「あれッ? ベル君は!?」


「あぁ、ベルならそこのベンチに……居ないッ!? どこに行ったの!?」


国王の大事な(ペット)が、行方不明(まいご)になってしまったのだ。

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