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騎士×学者 / 酒場

■19 酒の席 ■



 ライラが初めて学校へ行ってから、七回日が沈み、七回月が上った。


 あれから、ライラは、エレナとベルの二人と毎日のように学校へ足を運び、共に学び、共に遊び、都市の生活を謳歌してしていた。


 今の彼女には、もはや誘拐事件の被害者としての悲壮など無いように思える。

 

 そもそも最初から、そんなものは有ったのかと問われれば、閉口するしか無いが。

 

 故郷とは全く異なる価値観や都市の生活様式に戸惑うことも多々あるが、彼女はすっかりこの生活に慣れていた。


 さてこの日、ユートがアスラ国から帰還したので、ダンは久しぶりに三人で酒でもどうだとルシスも誘って酒場へと来ていた。


「っかぁ~!昼間っから飲む酒は旨ぇなぁッ!」


「わざわざご苦労だったな。ありがとよ」


「てめぇ……まぁ、いいや。今は酒だ」


 そう言うと、彼は一人、麦酒を煽った。

 

 自分の言葉に突っかかって来ないということは、どうやらアスラの貴族たちとは上手く話が済んだらしい。ただ、この件は国王が少し慎重になりすぎている気もする。何か考えがあるのだろうか?


「お前はどうだ?ちゃんと家族サービスしてやってるか?」


「あたり前だろ。毎日学校に連れて行ってる」


 そう言ってマズルを高くするダンを、ルシスは鼻で笑った。


「お前、私の講義を聴きに来ても、大抵途中で寝ているじゃないか」


「き、気づいていたのか?」


「当たり前だろ。壇上からは全員が見えるようになっているんだ」


「相変わらず座学は苦手か、ダン。お前は訓練所の頃から変わってねぇな」


 ユートがそう言って大笑いすると、ルシスもつられて笑みを浮かべる。


 少し顔を赤くし、黙ってグラスを傾けるダンに、「そう言えば」とルシスが訊ねた。


「ダン。この前から、エレナと一緒に例の竜人が居るが、何故だ?」


「ジジィの気まぐれだよ。俺に世話を押し付けてきやがったんだ。おかげで寝不足だ」


「なるほど、彼ならやりそうだ。丁度エレナと同い年くらいだろうしな。もしかして、それで疲れてたのか?」


「ま、それもあるかな。一応は仕事だ」


「へぇ……コミュニケーションは大丈夫なのか?彼は人語を喋れないが」


「こっちの意思が伝わりゃなんとかなるさ」


「そんなので上手くいくのか?」


 ダンは、なるべくライラの事を悟られないように、ごまかしつつ答える。彼女の素性は、政府上層の人間以外には基本的に秘密事項だと王に言われているからだ。ルシスも例外でない。まぁ、ほぼ国際問題のような存在だから当然か。


 どことなくはぐらかされているような感じを覚え、訝しむルシス。

 

 しかし、ユートが突然、麦酒のグラスを机に叩きつけると、ギョッとしてそちらを見る。


「ルシス!騎士団なんて遠征先じゃ言葉も通じない異民族と同行することもある。だからな、言葉じゃなくて心でコミュニケーションするんだよ!」


「そ、そうなのか?すまない。性根が学者気質でね」


 酔っ払ったユートが放った訳の分からない精神論に気圧されたルシスは、ははっ、と気恥ずかしそうに微笑む。


「ところで、まぁ、彼は分かるが、もう一人居るだろう?黒髪の彼女。 彼女は誰だ?」


「彼女は…………アスラの令嬢だ。留学みたいなもんだよ」


「なんか間が長くないか?」


「そんな事は無い」


「……で、そのアスラのご令嬢が、何故お前なんかの家に?」


「気に入られたんだよ。狼の顔をな」


「気に入る?……はっは、ホントだったら笑えるな」


「何言ってんだ。俺はこの顔のおかげで、ジジィにも、アスラ王にも気に入られてきてんだ。狼面ナメんなよ?」


「まぁ、たしかに、そう……なのか?しかし、一体その顔のどこに、そんな魅力が?」


「さぁな。愛嬌があるんだろ」


「お前、愛嬌の意味を辞書で引いてこい」


 その時、ウェイトレスが追加の酒とつまみを持って彼らの席にやって来て、代わりにルシスがトイレの為に席を立った。

 

 彼の姿が消えたのを見計らって、ユートがダンの脇腹を小突くと、ひそひそと聞いてきた。

 

「おい、その二人は今日はどうした?見て無くてもいいのかよ?」


「ああ、後輩に預けたから、大丈夫だ」


 そう言って、ダンはオリーブの実を何個か口に放り込むと、麦酒で流し込んだ。


「後輩ぃ? 誰だ、そりゃあ」


「竜人と一緒に居た、ほら、あの眼鏡の」


「……あいつか? あの、真面目そうな?」


「皮だけだがな。 中身はバカだ」


「なんだ。お前と同じじゃないか。いいのか?」


「そんなことより、お前の方はどうなんだ。アスラの貴族とは上手くいったのか?」


「何年この仕事やってると思ってんだ。楽勝、楽勝。お偉いさんにゃ酒でも飲ませときゃいい、こうやってな」


 ユートはそう言うと、空になっていたダンのグラスになみなみと注ぎ込む。「それにな、俺がアスラに行った時点で、もう既に任務は終わってるようなもんだ」


「? どういうことだ?」


「ジジィに聞け。ま、大事なのは事実だけってことだ。"行った”という事実が」


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