4話
「仕事終わりですか?」
奈乃花が尋ねると、藤間は驚いた顔で「そちらも?」と尋ね返してきた。
「そうです」
答えたあと、同時に買いそうになった店頭のサンシャインレッドを指差す。
「もしかしてサンシャインレッド?」
「ええ。ネット検索したら、美味しいと書いてありましたし、売っていたのでこれは買いかなと思いまして」
「ほう〜そうなんですね」
今買おうとしていた物に信憑性が増し、商品を眺めながら間違いないようだと頷く。
「めちゃくちゃ偶然ですね。よく来られるんですか?」
藤間の顔は驚愕に満ちていた。奈乃花としては一度会っているようなものなので、あまり驚きはなかったが、藤間は違うようだ。
「い、一応、常連です」
普通から考えたら頻繁な頻度の来店の数々を思い出しながらそう答えた。宮川さんの反応からしても常連扱いされているはずだ。
藤間が納得したように頷いた。
「なるほど。じゃあ先日ナガノパープルお渡した時、怪訝な顔されていたのはここのだとご存知だったからですか?」
「ええ。紙袋と包装紙で「ミツハシ」のだなあと分かってしまいました」
ですよね、と言うように藤間がバツが悪そうな顔をする。
「あー色々調べたんですが、近場のフルーツショップってなかなか無くて唯一ヒットしたのがここだったんです」
「そうですね。スーパーはありますけど、専門店はここくらいですね。私もご褒美に買うならってここに来ます」
「同じ考えですね。フルーツショップの方が種類も豊富ですし、見た目も大きいです」
「ですです。あ、その点、こちらのお店はハズれないですよ」
その話を聞いて藤間がにこりと笑う。
「なるほど、良いことを聞きました」
二人して笑いあったところで宮川さんの申し訳なさそうな声が割って入った。
「お客様〜ご歓談中すみません。お会計をいたしましょうか……?」
「すみません!」
店内なのに店員そっちのけで話に夢中になってしまった。
今回はそれぞれ一房ずつで、店頭には三房並んでいたので奈乃花も無事に手に入れることが出来た。
親しげに話していたからか、お会計の際宮川さんに「お二人はお知り合いですか?」と突っ込まれた。
「僕が隣に引っ越してきたんです」
藤間が答えると、宮川さんの笑みが深くなる。
「それはそれは……! 是非またいらして下さいね」
そう言った瞳が嫌に輝いているように見えた。なんだが、妙な期待している人が一人増えたような気がしたが、そういうことはなるべく考えないように頭の隅に追いやった。
「帰るところ、一緒ですね」
会計を終えて、別れる理由もなくデパートの中を一緒に歩いていると藤間がそう告げる。
「そうですね」
「じゃあご一緒しましょうか? 夜の女性の独り歩きは危ないですし。エアバックくらいにはなれますよ」
エアバックが発動するくらいになると手遅れになっていそうだが。
ツッコミは置いておいて、断る理由もないので一緒に帰宅することとなった。夕方の電車はいつも人が多いが、藤間がなんとなく壁になってくれていたので呼吸がしやすかった。年上か年下か。未だに分からないが、感じた紳士的な面に、ななめ下から見える藤間の顔を少しぼうっと眺めていた。
最寄りの駅を出て、マンションまで歩く。合わせてくれているのか同じような歩幅で歩いていて、同じデザインの紙袋が同じように揺れていた。それを眺めていてなんとなく質問してみたくなった。
「昔からフルーツ好きなんですか?」
「そうですね。昔からよく母にりんごとか梨とか剥いてもらって食べてました。その流れでフルーツ好きというか、まあ最近はマニアの領域に入っているかもしれないです。柳さんは?」
「私はお酒がダメで……あ、全く飲めないわけではないんですが、弱いのでその代わりに自分へのご褒美考えたら行き着いたのがフルーツでした」
「でもお酒よりも身体に良いですし、ビタミンも取れますから、理にかなってますよ」
「そうなんですけど、だからそれを免罪符に拍車がかかってしまってますね」
「まあそれは僕も他人のことは言えませんね」
二人して乾いた笑いを浮かべる。なんとなくそうじゃないかと思っていたが、どうやら自分へのご褒美がフルーツの似たもの同士らしい。
「ちなみに、藤間さんはフルーツで何が一番好きなんですか?」
「僕はスイカです。特にハウス栽培の物のスイカが好きですね」
ハウス栽培のスイカは、初夏が旬の普通のスイカと違って寒い頃に出回る高級品だ。
「え! えっと、ハウス栽培のスイカって相当甘いって聞きますけど結構……その、お値段しますよね?」
「ええ。ですからとっておきの時に買います。流石に頻繁には買えないですね、破産します」
奈乃花の頬が引きつる。最も、これはドン引きしたとかではなくて他人の事を言えないからだ。
「それ、私は笑えないですよ。私も……私はフルーツならなんでも好きなんですが、結局行き着くのはメロンなので」
メロンと言っても色々あるが、奈乃花が一番だと思っているのは静岡産の高級メロン、その名もクラウンメロンである。クラウンメロンは生産者が分かる王冠シールがつけられ、一つの枝に一つの実しか収穫しないという栽培方法と、見た目と味の厳しい審査を経てつけられるより優られたメロンだ。
「あークラウンメロンですよね。フルーツの代表、王様ですよね。これも高いですよね」
当然のように分かってくれたことに安堵した。
「そうです。ですから私もとっておきです」
藤間が楽しそうにハハッと笑う。
「同じですね。しかも同じウリ科の果物です」
「あ! ほんとですね!」
思ってもいなかった共通点に口を大きく開いた。
そうこうしている間にマンションに着いた。同時にエレベーターに乗り込み、これもなんとなく興味本位で聞いてみる。
「スイカってお一人で食べられるんですか?」
ハウスのスイカは大玉サイズほどではないものの、メロンくらいのサイズはある。あれを一人で消費しようと思ったら大変だ。
「今は基本一人ですね。彼女がいたりしたら、分けて食べますが、今はいないので」
聞き間違いでなければ、〝今はいない〟が強調されているように聞こえた。いや、勿論奈乃花の興味の度合いが増してきているからそう聞こえただけかもしれない。
「柳さんこそ、メロンは?」
「真っ二つに割って半玉まるまる一人食いです。スプーンで果汁ごと頂きます。それを二回繰り返します」
藤間の顔が光が差し込んだように明るくなった。
「最高じゃないですか。めちゃくちゃ贅沢です」
奈乃花は少し考え込んだ。同じウリ科で一個買ったら消費するのも大変。となると行き着くところは一つだ。
「もし良かったらですけど、今度買ったらお裾分けしましょうか?」
「本当ですか? あ、じゃあ僕も今度買ったらスイカお裾分けしますよ」
「うそ! 嬉しいです! ハウス栽培のスイカ食べたことないので!」
「あー、それは是非一度食べて頂きたいですね。ジュースみたいに甘いので」
一通り盛り上がったのち、お互いの部屋の前に着いた。
「じゃあ、また」
「また」
そう笑って、互いに隣同士の部屋に帰った。




