第87話 カタリナさんたちと再会
次の日。
朝から僕は冒険者ギルドにいた。
カウンターにいる受付のお姉さんが引きつった笑みで言う。
「ではユート様、こちら大理石ブロック75個に耐火煉瓦7個、鋼のインゴット2個、ムカデ甲殻122にコウモリの牙と皮膜130など――依頼料もろもろ込みで214万2100ゴートになります」
「はい、それでお願いします」
僕が気軽に答えた。
採集依頼は、素材を手に入れた後からでも依頼を受けられたので、できるだけこなしてみたのだった。
冒険者ランクをCにして、国境を超えられるようにするため。
ちなみに黄色の魔結晶やオーラオーブなど強化に使えるアイテムは売らなかった。
お姉さんはお金を乗せたトレイを置きつつ、疑い深そうな目で見てきた。
「……本当に、ミスリルゴーレムはいなくて、ミスリルのインゴットや糸は手に入らなかったんですね?」
「はい。そこそこ見て回りましたがいませんでした。初めてでしたから、見逃したかも知れません」
「そうですか。もしミスリルゴーレムを倒して手に入れたらお願いしますね」
お姉さんは冒険者カードを返しながら言った。
僕は冒険者ランクがDのままなのを確認して尋ねる。
「今のでどれぐらい冒険者ポイントは入りましたか? Cランクまでは遠いですか?」
「今日ぐらいの依頼料なら、30回もあればCになると思います」
「そうですか。ありがとう」
僕はお礼を言ってカウンターを離れた。
しかし内心、依頼ポイントが倍になっててこれでは無理だなと思った。
今回はモンスターハウス的に魔物が大量に溜まっていたからできたことであり、同じぐらいこなそうと思ったら数ヵ月はかかるだろうと思われた。
「そんなに時間はかけていられないな……」
まあMISOでもランク上げは時間かかったけど。AからSに上げるのなんて一年かかった。
僕は別の方法で冒険者ランクを上げようと思いながら、冒険者ギルドを出た。
暖かい朝日の降る中、大通りを歩いて広場へと向かう。
広場に面した喫茶店ではオープンカフェ的に、広場の端にイスとテーブルを出していた。
そこで僕はカタリナさんたちと会った。
「おはようございます、カタリナさん、皆さん」
「おはよう、ユート君」「おはようございます」「おはよー、ユートさん」
「さっそくですが、これを」
手のひらの中へ隠すようにして、カタリナさんへミスリルのインゴットを渡す。
テーブルの上で手を握り合うような形となる。
カタリナさんはチラッと確認して言った。
「本当に手に入れてくれたのね。でもいいの? お返しは何もできないわ」
「いいんです。お世話になったし、自分でもこれぐらいしかできることがないですから」
「ありがとう」
カタリナさんはインゴットを鞄へ入れた。
アダンが言う。
「マルコスはいつも言ってたよ。冒険者はいつも死と隣り合わせだって。ユートが気にしなくていいんだよ」
「いや、でも。僕がもっと詳しく対処法を教えていたら、助かったかもしれないのに……」
僕の言葉に、ルシアが勢いよくテーブルの上に身を乗り出した。桃色の髪が広がる。
「そうそれ! 聞きたかったの! どうすればよかったっていうのっ!?」
「ああ、俺も聞いておきたかった」
「あれに対処法なんてあるのかしら?」
三人が真剣な顔で尋ねてくる。
僕は頷いて答えた。
「あります。サムライソードマンはレアなモンスターで、近距離と遠距離の攻撃方法を持っています」
「無敵じゃないですかぁ……」
「逆なんだよ、ルシア。遠距離と近距離が切り替わるラインがあって、そのライン上を行き来すれば……」
僕は三人にサムライソードマンの攻撃スキルと対処法を詳しく教えた。
しかし、話し終えると三人とも暗い顔でうつむいてしまった。
「理屈はわかるけどさぁ……」「それ、無理じゃないか?」「四人そろってラインを前後しないといけないのよね……」
「そうなりますけど。慣れれば意外と簡単なんです」
「それ、慣れるまでに何十回も死んでしまうのではないかしら?」
「確かに……やっぱりソロで戦った方が楽かも」
僕が攻撃の切り替えのラインを覚えていたのはゲームで何度も死んだから。
でも一回死んだら終わりの現実で、死に覚えなんてできるわけない。
「練習しようにも、ボス部屋だから戦いが始まったら逃げられないものね」
「どっちみちダメだったってわけだ」
カタリナの言葉に、アダンが悲しげな顔で呟く。
なんだか暗い雰囲気になって会話が途切れた。
僕は話題を変えるように言った。
「これからどうされるんですか?」
「そうねえ。話し合ったけど、ちょっと中級ダンジョンは無理かなって」
「二人だとね」
アダンがルシアを見ながら言った。
僕は首をかしげる。
「二人?」
僕の問いかけにカタリナさんが悲しそうに微笑む。そしてお腹を撫でた。
「お金が欲しかったのも、子どものためだったの。でも無理したら意味ないのにね」
「そうだったんですか」
妊娠なんてめでたいけれど、マルコスが亡くなったばかりなのにお祝いをするのもおかしいと思って当たり障りないことしか言えなかった。
カタリナさんは言葉を続ける。
「もっと簡単なところに移動しようかって、話し合ってるの」
「それだったらレハーノ村はどうですか? 下級ダンジョンしかないし、でも今は村の仕事がたくさんあると思います。はちみつが特産なので、今後発展するかも」
「そんな村があったのね。考えておくわ」
カタリナさんは微笑んで頷いた。
僕は立ち上がりながら言う。
「では、やることがあるので行きます。お世話になりました」
「こちらこそ随分と助けてもらったわ。ユート君、ありがとう」
ルシアが慌てて立ち上がる。
「あっ! ユートさん、ソイソース買いに行くのよね?」
「そうだよ」
「あたしが案内してあげるってば!」
「そこまでしてもらうと悪いよ」
「お礼だから気にしないで!」
ルシアは僕の手を引いて強引に歩き出した。
振り返って会釈すると、カタリナさんやアダンも苦笑していた。




