第82話 かたき討ち!
ゴーレムダンジョンの地下五階。
中ボスの部屋を前にして僕は毒竜の蛇剣を握りしめつつ、泣きそうな気持ちを奮い立たせて部屋へと入った。
後ろで重い音を立てて扉が閉まる。
涙でぼやける骸骨ゴーレム――サムライソードマン目掛けて僕は走る。
「でやぁぁぁ!」
全力で叫んだ。
そして近距離と遠距離の攻撃が切り替わるライン上で蛇剣を振るった。
キンッと硬質な音がして刀に弾かれた。
一歩踏み込む。骸骨が刀を上段に構える。
僕は後ろへ飛ぶ。すると骸骨が刀を中段に構え直す。遠距離攻撃のモーション。
しかし僕はまた大きく一歩踏み込んで蛇剣を振るった。
骸骨は遠距離攻撃をキャンセルし、三本の刀を上段に構えつつ――ガッ! と蛇剣の切っ先が胴体を掠めて傷つけた。
骸骨から緑の煙が沸き起こる。
「よしっ! 毒が入った」
遠距離攻撃と近距離攻撃の構えが違うため、切り替わるラインを前後に移動しまくるとモーション切り替え中に大きな隙ができるのだった。
これがサムライソードマンの弱点であり、攻略法。
ここで追撃! と思ったら、ぐるんっと空中を二回転した。
――アクロバットかよ!
骸骨が緑の煙をたなびかせながら駆け寄ってくる。
僕の着地と同時に三本の刀が振るわれた。シュシュシュッと空気を切り裂く。
しかし僕は回転の勢いそのままに、後ろに飛びながらくるくると回った。
『みかわしステップ』が発動してくれた。
骸骨の攻撃はすべて空を切る。
僕はバックステップしながら蛇剣を振るった。
骸骨は下腕の刀を交差させて蛇剣を弾く。――すぐさま距離を詰めて、上段から刀を振り下ろしてくる。
「くっ! 早い!」
僕は背を向けて壁際へと走った。
背後から迫る乾いた足音。
肩越しに振り返ると、三本の刀がきらめくのが見えた。
――連続斬りか!
僕は斜め前へと大きく飛ぶ。背後の空気を切る音がした。
かわしたはずなのに背中へ三度の激痛が走る。――回避不可だからしかたない。初見だったらパニックになってただろう。
痛みをこらえ、すぐに身を起こして走った。
振り返ると、骸骨は刀を中段腰だめにしていた。
「げっ」
『居合抜き』だ。斬撃も飛ぶ。
骸骨が刀を振り抜いた。
僕は壁際まで走ると、壁を切って飛び上がった。
斬撃は僕の下を通り過ぎる。さらに蛇剣を振り下ろした。
「ヤァァ!」
上腕の刀を打ち砕き、切っ先が兜にガツッと当たった。
そのときドクロのマークが浮かんで、骸骨は地面に崩れ落ちた。
遠くで入り口の扉がギギギッと開いていく。
僕は荒い息をしつつ、武器もしまった。
「中ボスでも即死が効くんだ……助かった」
立っていると刀が飛んできた。
アイテムボックスを見ると『無名・大太刀』が入っていた。
「ミスリルのインゴットがあれば『髭切』を作れるな……」
レア武器をゲットしたけど、僕の心は浮かなかった。
戦いが終わった広間を見渡す。
マルコスたちの戦闘の跡や、見覚えのある荷物が地面に落ちていた。
「みんな……」
僕は悲しい気持ちになりながら遺品である荷物を拾った。メイスや杖、ナイフなども拾っていく。
一応ボス部屋のアイテムは、後から来た冒険者の拾得物になると聞いていた。
でも、そんな気持ちになれなかった。
でも、遺品を誰に届けたらいいのかもわからなかった。
「あぁ……どうしたいいんだろうなぁ……」
悔しいのか苦しいのか、自分の気持がわからない。
ただ零れそうになる涙を、歯を食いしばって耐えていた。
――と。
黒いローブを持ち上げようとしたらズシッとした重みが手にかかった。
「え?」
中を見ると魔術師の少女ルシアが入っていた。
「え!? なんで!?」
驚いたけど、とりあえず部屋の外へ連れ出す。
床に寝かせて状態を確認する。
深い呼吸を繰り返している。熟睡しているようだった。
「まさか!」
僕は慌ててボス部屋に戻った。
ルシアがいた近くに、よく見れば黒い布が広がっていた。テントの布地だ。
布を取るとカタリナとアダンが寝ていた。
二往復して部屋の外に寝かせる。
すぐに戻ってマルコスを探した。
しかし、彼の姿だけは見つからなかった。
というか、さらに剣やメイス、杖に鞭。鉄の鎧にローブ、それにマジックバッグを見つけた。
マルコスの前のパーティーの持ち物だろうと思った。
「ああ……」
僕はがっくりと肩を落とした。
――倒し方を知っている僕ですら、かなり苦戦した。
初見だとまともに戦ってしまうから、Aランクパーティーでも倒すのは難しいだろう。
そしてマルコスが何をしたか理解した。
まさかMISOでよく知られた方法を、現地の冒険者が取れるとは思わなかった。
それは、一人がパーティーを抜けて、残りは薬か魔法を使って仮死状態になっておく。
それから抜けた一人が死ねば、パーティーが全滅した判定となってボス部屋の扉が開くのだった。
しかしここは現実だ。何度も生き返れるゲームじゃない。
自分を犠牲にしてパーティーを助けた人がいるんだ。
「マルコス……」
体格のいい、頼もしいおっちゃんといった感じの男性だった。
気さくに話せたのに。
もういないというのが信じられない。肉体もダンジョンに吸われてしまった。
全部回収してから僕はボス部屋を出た。
三人の傍にテントを張って看病する。
アダンとカタリナは怪我をしているので、ポーションを出して傷口にかけた。
ステータスを『鑑定』して無事なのを確かめる。
やれることが終わると、気分がどんどん沈んでいく。
彼らが目を覚ましたら辛い事実を伝えなくてはいけない。
カタリナたちの寝顔を見ていると、気分が落ち込む。
「いや、起きたときのためにスープでも作っておこう」
「ブブンッ」
とミツコが羽を鳴らして賛同した。励ましてくれているようだった。
僕はコンロや鍋を取り出して、簡単な料理を作り始めた。




