第81話 想定外のボス
ダンジョンの夜。もしくは朝。
外の景色がわからないから何時かわからない。
僕は、重い音と振動を聞いて目を覚ました。気持ちの悪い夢を見たような気がしたけど、起きたら全部忘れていた。
寝ぼけた頭で「地震かな?」と考えたが、すぐにダンジョンの中だったと考え直す。
テントから顔を覗かせると、広間の奥にある扉が開いていた。
よく眠れたけれど、まだ少し眠い。6時間ぐらい寝た感じがした。
じゃあ外は早朝かな?
たき火の傍にアダンが立っていた。
開いた扉を眺めていたが、マルコスたちのいる大きなテントに向かった。
僕もテントから出る。
畳もうかと思ったけど、このまま仕舞えば次から組み立てなくていいなと思ってそのままにした。
それに次はマルコスたちだから、二度寝してもいいかもしれない。
そんなことを考えてたら、マルコスたちがあくびしながら出てきた。
「よお、ユート。よく眠れたか?」
「はい、おかげさまで」
「ようやく俺たちの番か。長かったな」
マルコスが伸びをしながら言った。
カタリナとルシアも出てくる。
「では軽く朝食を食べてから挑みましょうか」
「眠ぃ……」
ルシアは目をこすりながら小さなあくびをした。
僕もたき火に近づきながらアイテムボックスからパンとチーズを出す。
「僕も手伝います」
「あら、ありがとう」
その後は軽く昨日の残りのスープと、チーズを挟んで焼いたパンを食べた。
賑やかで楽しいひとときだった。
そしてテントを片付けたあと、マルコスは金属製のメイスを肩に担いだ。
「そいじゃあ行くか! 気を引き締めてな!」
「「「はいっ」」」
「気を付けてください」
「もう十回は攻略してるから大丈夫だぜ! ユート、お前の方こそ気を付けな!」
「はいっ」
僕は元気に答えた。
でも、なぜかわからないけれど、だんだん不安がこみ上げてきた。
マルコスたちがボス部屋へと入っていく。
同時に、ギギギッと重い音を立てて扉が閉まっていく。
そのとき、マルコスの疑問に思う声が聞こえた。
「ん? なんだ? アンデッドか?」
その声にハッとして僕は、閉まりゆく扉の奥を見た。
ぼんやりとした輪郭が見える。四本腕の骸骨。鎧武者のような姿をしていた。
僕は早口になって必死で叫ぶ。
「そいつはアンデッドじゃない! 神聖魔法は効かない! 背後からもダメ! ――四回攻撃と距離に気を付け――ッ!」
全部言い終わる前に、ドォンッと扉が閉まった。
僕は胸に手を当てて荒い息を吐いた。
「ヤバい。中ボスってレベルじゃない。サムライソードマンだ……」
石造系のモンスター。公式のランク自体はCランク。
しかしプレイヤーで作ったランクでは、上の下に位置する。Aランク並みの強さ。
素の攻撃力は100と低いけど、防御値無視の『貫通』攻撃な上、四回攻撃は回避できない。
さらに後ろからの攻撃にカウンターを合わせる『死角斬り』が凶悪なダメージ倍率を誇る。
近距離戦を嫌って距離を取ろうものなら『真空斬り』という遠距離攻撃を繰り出してくる。
近距離遠距離ともに隙がないモンスターだった。
ただそれが唯一の弱点にもなり得る。知ってさえいればハメ殺せる。
扉が閉まった今、僕は祈ることしか出来なかった。
扉に額を押しつけて、彼らの名前を呼ぶ。
「マルコスさん……カタリナさん。アダン、ルシア……」
たまたま居合わせただけの、一期一会の出会い。
でも醤油を教えて貰い、僕の作った生姜焼きを喜んでくれた。ダンジョンの中だというのに和気藹々とした時間を過ごせた。
――もっと攻略法を伝えられていたら。
ゴーレム系ダンジョンなんだから、出現する可能性はゼロじゃなかったのに。
「くそっ」
僕は悔しくて拳で扉を叩いた。
頭の上でミツコが慰めるようにブーンブーンと静かに鳴いていた。
何時間たった頃だろう。
ゴゴゴッと重い音を立てて扉が開き始めた。
僕は数歩下がって祈るようにボス部屋の中を眺めた。
白い煙が立ちこめている。
煙が晴れると部屋の中に3本腕の骸骨が立っていた。
「ああ……そんな」
ダメージを負ったままのボスがいる場合、その前に入ったパーティーは全滅した証だった。
――僕も一緒に入っていたら。アダンかルシアの代わりにパーティーに入っていたら。
そもそも僕が先に入ってれば。
どんなに後悔しても、もう遅かった。
僕は毒竜の蛇剣を握りしめつつ、泣きそうな気持ちを奮い立たせて部屋へと入る。
後ろで重い音を立てて扉が閉まった。




