第77話 勇者条約と王位争い
交易都市コメルシアにあるお城の応接間で、僕はフェルディナンド王子から事情を説明されていた。
フェルディナンドは確認するように言う。
「ユートくん、勇者が現れたことは知ってるかい?」
「はい、知ってます。当然、魔王も復活しているだろうことも」
「じゃあ勇者条約は知ってるかい?」
「えーっと。十カ国以上が調印している条約ですね。勇者が現れたら最優先で保護をして、条約締結国は支援する、と」
「そう。その支援の仕方が問題なんだ」
「確か一番いいのは、勇者パーティーに参加する上級職を送り出すこと」
「そうすれば勇者を保護した国に次ぐ発言権を得られる。ただ我が国には力になれそうな上級職がいないんだ」
「じゃあ食料や兵力を送るのですか?」
「その前に、勇者パーティーが使う装備を送ると、高い評価を得られるんだ」
「なるほど。それで殿下はユニーク装備を探していると」
「まあ国王の命令なんだけどね。他国に差を付けられるような上級装備を持ってきた王子王女が次の王太子に任命されると言われた」
「うわぁ」
僕は思わず眉間にしわを寄せそうになった。
――面倒くさい。絶対、面倒だ。
王位継承のドロドロになんて巻き込まれたくない。
一瞬、適当なアイテムでも提出してお茶を濁そうかと思った。
ただ、冷静に考えると、欲しい情報が得られるかも知れないと思った。
イーリスと別れてから約一ヶ月。
今頃どうしているだろうか、ちゃんと正しく育っているだろうか? 無理難題を言われてないだろうか。
そういった情報はただの冒険者では手に入らない。
勇者条約締結国の王子なら、勇者の現状を知ることが出来るかも知れない。
考えているとフェルディナンドが言った。
「どうだろう。この剣以上の魔剣や聖剣を手に入れられるだろうか?」
「武器がいいんですか?」
「そうだね。勇者が使う武器を用意出来たとなれば、我が国の発言力も上がるよ」
「殿下はそれほどまでして王になりたいとお考えなのですか?」
少し話しただけだけど、あまり権力欲がなさそうに思えた。ガツガツと王座を狙いに行く人とは思えない。
僕の言葉にフェルディナンドは肩をすくめた。
金の前髪がさらっと流れる。
「消去法だね。別に弟や妹が王位を継いでくれるならいいんだ。ただ姉上にだけは、なって欲しくないかなと思ってる」
「んー。僕の少ない知識からすると、正妻である王妃からお生まれになったのが第一王女イザベラと第一王子フェルディナンド殿下で、その下の二人は側室の子だったと思いますが」
正妃の子を差し置いて側室の子が即位したら、国がめちゃくちゃ荒れる原因だと思う。
しかしフェルディナンドは何気ない笑みを浮かべる。
「問題ないさ。二人とも猫魔人の血を引いてるから、国民人気は高いんだ」
「この国は人間の王様とケットシーの王様が連合してる王国でしたっけ」
「そう。ケットシーは田畑や森を富ませ、人間は実務や外交を取り仕切ってる。国民は徴税してくる人間より国を富ませる猫の方が好きなのさ」
「なるほど」
よほど性格が終わってない限り、次の皇太子は第二王子や第二王女でもいいのかな。
フェルディナンドは身を乗り出して微笑む。白い歯がキラリと光った。
「それで、引き受けてくれるかい?」
「期日は?」
「できるだけ早く。遅くても二週間以内だね」
「報酬は?」
「望みのままに」
にっこりと微笑む。イケメンスマイルが眩しくて無条件で引き受けそうになる。
でも心を殺して冷静に交渉する。
「じゃあ、ユニークレアやレジェンドを用意出来たなら相場の倍の金額を支払ってください。さらに強化素材を買うための経費を前渡しでお願いします。あとは勇者の情報を知っていたら」
「お金は当然払うよ。一応、担保として血塗れの月夜は預かるけど。ただ勇者の情報というのは? どんな情報が欲しいんだい?」
「名前や性別、出身地はもう知ってますから、保護されている状況と待遇、育成状況ですね」
「なるほど……いくつか疑問は浮かぶけど聞かないでおくよ。しかしねぇ、勇者の状況かぁ……どうもおかしなことになっているという噂の噂は聞いているね」
「おかしなこと?」
「勇者のお披露目がまだなんだよ」
「え? まさか体調不良とかっ!?」
僕は少し焦って声が乱れた。
フェルディナンドは目を細めて、ふふっと優しい笑みを浮かべる。なんか心を見透かされた感じがした。
「勇者自身は無事だよ。でもパーティーが組めないせいで、お披露目での戦闘を見せられない、とかいう噂の噂が王宮で囁かれていると聞いたよ」
パーティーが組めない? なんでだろう?
勇者はどこでもパーティーが組める。三人指定すればいいだけ。
それともMISOとはシステムが違うのだろうか?
というか隣国なのに、なんで王宮内の噂を知ってるんだろう。
諜報員を確実に送り込んでるなと僕は思った。なごやかなイケメンなのに裏で暗躍も出来るタイプか。
僕は考えをまとめて言った。
「じゃあ、勇者のこと、どんなスキルを取っているのか、今のレベルはどれぐらいかとか、わかったら教えてください」
「依頼成立だね」
フェルディナンドは手を出してきた。
王子が庶民に対してこんなに気さくでいいのかと思いつつ、僕もテーブルの上に手を伸ばして握手した。
それから経費として大金貨100枚。2000万ゴートを受け取って、ミーニャと一緒に馬車に乗って街へと戻った。
何の武器を手に入れるか考えながら。




