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道化の僕が勇者の君を救いたい~追放された転生遊び人はゲーム知識で無双する~  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 カスティーニャ編

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第74話 旅立ち


 昼過ぎのレハーノ村。

 空地へ買い物に来ていた村人はみんないなくなっていた。


 僕と商人は馬車の傍で一息つく。


「やれやれ、売れましたねー。ほとんど売れたんじゃないですか?」


「まあな。生活必需品が多いからな」


「特に塩が売れましたけど、安くなかったですか?」


 大きい塩壺、たぶん5キロぐらい入ってて1500ゴート。

 僕の家で使ってたのだと5000ゴートぐらいしたはずだった。


 商人はひげを撫でながら言う。


「海があるからな。製塩所がたくさんあって安いんだよ」


「なるほど。あ、僕はユートっていいます。Eランク冒険者です」


「俺は行商人のカルロスだ。いつか自分の店を持ちてぇ、って思ってる」


「個人でやってるんですか?」


「いや、今はベヘモス商会ってとこで雇われてる。この国じゃ新興商会だが、本国じゃ有数の商会だ」


「ベヘモス商会……聞いたことありますね。確かビスティア獣王国の商会だったはず」


「ほう、すげぇな。よく知ってるじゃねぇか。――お前さん、実はいいとこの子だったりするのか?」


「……ただの冒険者ですよ」


「おっとすまねえ。過去は聞かねぇもんだよな」


 がははっとひげを揺らして大笑いするカルロス。

 僕も彼に合わせて苦笑しておく。



 ――と。

 ゲイルがソフィーを連れて空き地に入ってきた。ソフィーの頭にミツコが乗っている。

 後ろにはハニービーの女王蜂ヴィクトリアもいた。手には木の蔓で出来た籠を抱えていた。

 ヴィクトリアを見て、ぎょっと驚くカルロスに、ゲイルが言う。


「よう、カルロス。取引があるんだが」


「そ、そちらは大丈夫なのか?」


「こちらはハニービークイーンのヴィクトリアさんだ」


『初めまして。この村に住むことになったヴィクトリアです』


 ヴィクトリアがペコッとお辞儀する。

 カルロスが表情を取り繕いつつもみ手で迎える。でも笑顔が引きつっていた。


「俺はカルロス。行商人だ。取引ってのはなんですかい?」


『こちらのハチミツを定期的に売りたいのですが、付加価値を付けて少し高く買い取って貰えませんか?』


 ヴィクトリアが持つ籠には、素焼きの小瓶が10本ほど入っていた。

 カルロスが受け取って一本空けると、指先に少し付けて舐めた。


「ん、すげぇ! なんてまろやかな甘さだ! しかも苦みや刺々しい甘さもない! いや、こいつぁ極上品だ!」


『どうでしょう? いくらで買い取っていただけますか?』


「そうだなぁ……」


 カルロスは思案深げにあごひげを撫でて考える。

 しかし横からゲイルが身を乗り出してカルロスの肩に手を回した。


「俺とお前の仲だろ? 高く買ってくれよ? ――これでどうだ?」


「待て待て。輸送費がかかるだろ、そこまでは出せねぇよ」


「この取引まとめたら、商会の中でのお前の地位も、ぐーんっと上がるよな? 定期購入だぞ?」


「いや、だけどな――」


 二人はヴィクトリアを交えて商談を開始した。

 ちょっと長引きそうだった。



 ソフィーが僕の傍に来て、大きな緑の葉っぱに包まれた四角い何かを取り出した。


「ユートお兄ちゃん。これ、どうぞ」


 長方形の物体を受け取りながら尋ねる。


「これはなに?」


「お昼ご飯です。もうお昼になっちゃいましたけど。馬車で食べてください」


「ありがとう、ソフィー。今から食べるのが楽しみだよ」


「はう……っ」


 ソフィーは頬を染めて俯いた。

 僕はアイテムボックスに弁当を仕舞う。


 カルロスが渋い顔をしてやってくる。手には契約書を持っていた。


「これ逆に怒られちまう……」


「まあハニービーのハチミツなんて、本来は冒険者ギルド経由でしか手に入らないから、やりようはあると思いますよ」


「そうだといいがな……」


 ヴィクトリアが傍へ来て、籠を僕へ差し出してきた。小瓶がたくさん入っている。百本ぐらい。


『ユートさん、こちらミツコさん用のハチミツです』


「え?」


『ミツコさんはユートさんが気に入ったので、旅に着いていきたいそうです』


「働き蜂なのに、この村で働かなくていいの?」


『ミツコさんはお母様が産んだ働き蜂なので、実は私と同格なんです。新しい巣を作り終えたら、あとはしばらく遊んでいていいと言われていたそうです』


「リフレッシュ休暇みたいなものかな? いいよ、連れてくよ」


 ミツコは戦えないけど上空からの索敵ができるし、食費もかからないし、旅のお供として悪くないと思った。


 ハチミツの小瓶を籠ごと受け取ってアイテムボックスに入れた。

 ミツコが僕の頭に乗ってくる。ブブッと嬉しそうに羽根を鳴らした。


 ヴィクトリアが心配そうな声で言う。


『もしハニービーの生態で困ったことがあったら、籠の底にメモを入れておきましたので参考にしてください』


「わかりました」



 そのとき、御者台に乗ったカルロスが大声で呼びかけてきた。


「よしっ、ユート行くぞ」

 

「はいっ! ――じゃあソフィー、元気でね。ヴィクトリアも」


「絶対にまた来てください、ユートお兄ちゃん!」『ユートさん、さようなら。ミツコさん、健やかにお過ごしください』


 二人と別れて馬車に乗る。

 カルロスが手綱を振るった。馬がゆっくりと歩き出す。


「出発だ!」


 馬車は大通りに出てから西へと向かった。

 僕は幌馬車の後ろにいて後方を見ている。

 ソフィーは元気に大きく手を振っていた。僕も手を振り返す。

 ヴィクトリアは心配そうな顔で見送っていた。その顔がなんだか気に掛かった。


 二人は見えなくなるまで見送ってくれた。

 長く過ごした村を離れることに、僕は少しだけさみしさを感じたのかも知れない。

 ――いつかイーリスと一緒に来れたらいいな。


 ガタゴトと揺れる馬車の中、見えなくなったレハーノ村をしばらく眺め続けた。


ブクマと評価ありがとうございます! 執筆の励みになります!

まだまだ続きを頑張ります!

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