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道化の僕が勇者の君を救いたい~追放された転生遊び人はゲーム知識で無双する~  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第二章 カスティーニャ編

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第72話 久々の帰還で婚活支援


 夕暮れ時のレハーノ村。

 僕は久しぶりの宿屋に来ていた。

 一階は食堂になっていて、女将のマーサさんがてきぱきと働いていた。ハニービーがブンブンと羽音を立てて給仕をしている。


 僕を見るなりマーサさんは笑顔になった。


「おや、ユート。帰ってきたのかい?」


「はい、用事は済みました」


「また泊まるんだろ? 何泊だい?」


「うーん、えっと。とりあえず一泊で」


「……もう出て行くのかい?」


「そうですね。この辺りで出来ることは終わったと思いますし、大きな街へ向かおうかと考えてます」


「そうかい。寂しくなるねぇ」


 マーサさんは寂しそうな笑みを浮かべると、別の客の注文を取りに行った。

 僕は空いてる席に座って、夕食を食べた。

 猪肉のクリームシチュー。味が濃厚でとてもおいしかった。


 ――僕がいなくなったら、肉の入荷も止まるのかな?

 まあゲイルが頑張ったらいいか。



 そんなことを考えつつ夕食を食べ終える頃、女王蜂のヴィクトリアが入ってきた。

 僕の座るテーブルまで来て頭を下げる。


『お久しぶりです。ユートさん』


「こんばんは、ヴィクトリア。どうしたの?」


『姉のことで相談がありまして……』


 ヴィクトリアは申し訳なさそうに頭を下げつつ対面に座った。

 僕は身構えつつ尋ねる。


「なんだかすごく嫌な予感がするんだけど?」


『すみません……ですがなんとかしないと、姉を世話する働き蜂がいなくなってしまいます』


「ついに働き蜂から愛想尽かされた?」


『いえ、違います。交尾をしていないので卵が産めないそうなんです』


「じゃあどこからかオスを連れてこないと――って、そうか! ミツバチの交尾は空でするんだ!」


『姉は太りすぎてて飛べませんから』


 申し訳なさそうに縮こまって言うヴィクトリア。

 僕は頭を抱えた。


「えー、それはー、僕に言われてもどうにもならない気がする……」


 一応、所持してるアイテムを思い浮かべて方法を考えたけど。

 『浮遊』のついている指輪があるけど、そんなに高くは飛べない。というか自由に飛ぶことは難しい。


 ――いや、待てよ?

 自由に飛べる職業の人はいる。


『なんとかなりませんでしょうか?』


「うーん。飛ぶ時間はいつがいいの? 朝? 昼?」


『敵の少ない夕方から夜にかけてです』


「わかった。じゃあ今ならちょうどいいか。頼んでみるよ。断られても怒らないでね」


『わかりました。もうユートさんに頼るしかないんです。お願いします』


       ◇  ◇  ◇


 西の空が赤く染まる頃。

 僕とヴィクトリアは村の外れにいた。


 傍には箒に跨がった魔女のクラリッサがいる。

 しわだらけの顔をしかめて、不機嫌そうに言う。


「なんで、わしがこんな馬鹿げたことを……ユートにヴィクトリアよ、報酬を忘れるでないぞ!」


『はい、ローヤルゼリーとローヤルドリンク、生産が開始次第渡します』「ユニーク指輪ワンセット、もう用意してあるよ」


「では、行ってくるのじゃ――くっ、重い!」


 クラリッサは浮かび上がったが、箒から伸びたスパイダーシルクで出来た糸がぴーんと張っただけで、丸い巨体をズリズリと引きずった。


 引きずられたアザトースがわめく。糸が胸の辺りに巻かれていた。


『こんなの、横暴よ! 晒し者だわ!』


「うるさい、黙れ。少しは羽ばたいて飛ぶことに協力しろ」


『いやだぁぁぁ! どーせ私なんてモテるわけないのよ! 誰とも交尾できなくて、みんながよそよそしくなる未来まで見えるわ! 時間の無駄よぉぉぉ!』


「クラリッサさん、もう行っちゃってください」


「ほんとにしょうがないのう――ほいっ」


 クラリッサは気合いを入れて飛び上がった。

 糸に吊されたアザトースも空へと昇っていく。


『ぎゃぁぁぁ! 落ちたら死ぬぅぅぅ! すべての生き物は星の重力からは逃れられないのよぉぉぉ! やだぁぁぁ!』


 泣きわめきながら、その姿はどんどん小さくなっていった。


 声が聞こえなくなって、僕はため息を吐いた。


「どうなることやら」


『ちゃんと真の女王になってくれるか心配です』


 ヴィクトリアは不安そうに羽と触覚を垂らした。



 暇になった僕はヴィクトリアに話しかける。


「どう、この村での暮らしは? 少しは慣れた?」


『ええ、村の人たちはとてもよくしてくれます。お裾分けも貰えて、部下たちも喜んでます』


「それはよかった。……あとはアザトースがなんとかなってくれたら安心なんだけど……」


『お姉様は、自堕落を極めていますから……』


 僕らはぽつぽつとおしゃべりしつつ、彼女たちの帰還を待ち続けた。



 一時間後。

 すっかり日が暮れて夜空に星が瞬く頃、クラリッサが戻ってきた。

 吊されたアザトースは、なぜか身をよじって喜んでいる。


 クラリッサはゆっくりとアザトースを地面に下ろすと、自分も地面に立った。

 しかし疲れ切った顔をしていた。


「こんなに疲れたのはドラゴン退治以来じゃ」


「お疲れ様です。どうでした?」


「うまくいったのではないかの――もうしらん」


 クラリッサは、箒に結んだ糸を解くと、そのまま村へと戻っていった。

 残されたアザトースが地面をごろごろ転がって傍へ来た。

 ヴィクトリアを見上げて、にやりと笑う。


『ねえねえ、ヴィクトリアは何人の王子様にモテた?』


『私ですか? 一人ですけど』


 アザトースは口に手を当てて、ぷーくすくすと笑う。


『えー、たったの一人ぃ~? あたし5人からモテまくったんだけどぉ~?「こんな恵体見たことない!」「なんというわがままボディ!」「まるでスズメバチだ!」な~んて、取り合いだったのよぉ~? 罪な女だわぁ、あ・た・し』


「うっざ!」


 思わず本音が口から出た。

 ――いいのかオスバチ? こんなので。

 そもそも褒め言葉なのか?

 ミツバチの感覚や嗜好は、人間にはよくわからなかった。



 ヴィクトリアが、ほっとため息を吐いて言う。


『まあ、お姉様が役目を果たされたようで、なによりです』


『ぷぷー! あんたも、あたしを見習っていい女になりなさいよ~? 穀潰しギャルが今のトレンドなのよ、ぷーくすくす』


「やめろ。ヴィクトリアまで悪の道に引きずり込むな。てか、そんなもんトレンドになってたまるか!」


『なによー、ユート。あんたも嫉妬してるの~? これだからモテないオスは心にゆとりがないのよねぇ~』


 このデブミツバチがウザすぎる。

 でももう、これで問題は解決したんだ。

 拳を握りしめて怒りを堪え、言い返さなかった。


 ヴィクトリアが無言でそっと、僕の背中を撫でた。慰めるように。

 少し気持ちが晴れて穏やかになる。

 ほんとヴィクトリアの方が百倍、いい人だと思う。



 そのとき、ガラガラと村の方から音が響いた。

 見ればミツバチたちが台車を引いてやってきていた。

 アザトースを任せて僕らは村へ戻った。


 その後は宿屋のいつもの部屋で寝た。

 なんだか疲れていたので、速攻で夢の世界に旅立った。


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