第7話 予想外の出来事
亡霊の館の地下二階を攻略した僕は、地下一階の食料庫にいた。
ここでの用は済んだので、地上に向かっていた。
――が。
一階へ続く階段まで来たとき、上の階が騒がしいことに気付いた。
――なんだ?
階段の上まで昇って頭だけ覗かせる。
すると、リザードマンやゴブリン、背中に竜の翼を持つ竜人などが徘徊していた。
ゴブリンは木箱を持っていて、こちらへと向かってくる。
「――ッ!」
僕は慌てて首を引っ込めて階段を駆け下りた。
なんでいろいろなモンスターが!?
ここは亡霊の館で、アンデッドしか出ないはずなのに!
カツカツと靴音がして、誰かが階段を降りてくる。
さっきのゴブリンか!?
――って!
今は地下で戦ったから『ボックスハイド(透明)』の効果が切れてる!
完全に姿を隠せる場所――箱の中とか――に入らないと透明になれない。
身を隠せる場所もない。床に転がる木箱だけ。
僕は急いで地下食料庫を走った。
床に転がっていた一番大きな木箱に飛び込む。蓋がないので箱をひっくり返して姿を隠した。
箱の中は干からびた野菜が入っていた。
木箱の縁が床に触れたとき、カタンと小さな音がした。
そんな小さな音すら、地下に降りてきていたゴブリンには聞こえたらしい。
「ナンカ、オトガシタ!」
ゴブリンの足音が近づいてくる。
――ヤバい。見つかる!
僕は真っ暗な木箱の中で小さく縮こまっていた。
心臓がドキドキと高鳴る。
もちろん今のレベルと毒蛇のナイフならゴブリンぐらいなら倒せた。
でもリザードマンは割と強いし、竜人に至っては戦ったら間違いなく敗北する。
祈りながら待っていると、女性の高慢な声がした。
「何してる。さっさと荷物を置いて仕事しろ」
「ヘイッ」
どこかで聞いたことがある誰かの声がして、ゴブリンの足音が遠ざかっていった。
――助かった。
でもしばらくは身を隠している方が良さそうだ。
僕は木箱の中で、じっと身をすくめていた。
耳を澄ませていると、次々と荷物が運び込まれる音がした。
――いったい何が起きているんだろう?
前世のゲーム知識を持ってしても、いまいち状況が掴めなかった。
しばらくして音が止んだ。
食料庫に気配がないことを確認してから、そっと木箱を持ち上げた。中から出る。
周囲を見回すと、木箱が人の背丈以上に積まれていて壁になっていた。
魔物の姿はなかった。
前世の記憶に近い迷路となっていた。
僕は階段を昇って一階を確認した。
厨房にも魔物の姿はなかった。
ただ、遠くから話し声が聞こえる。
僕は透明状態のまま、忍び足で声のする方へ向かった。
声がしたのは館の前の庭からだった。
窓の一つから顔を覗かせて外を確認する。
すると夕暮れ時の赤焼けの中、真っ赤な長髪をした美女が魔物の集団の前で演説していた。
胸と腰を隠しただけのビキニアーマーに真っ赤なマントを羽織っている。
「いいか、皆の者! ここを拠点として中心地を攻略する。それまでは人に見られるな、関わるな!」
その女性、僕には見覚えがあった。MISOの広告イラストや二次創作で山ほどで見たことがある!
――魔王四天王の一人、ドラゴニュートのドラコじゃないか!
その瞬間、何が起きたかすべてを理解した。
魔王が生まれたから、魔王四天王が世界各地に拠点を作り始めたんだ!
世界各地に隠れた四天王を倒さないと、魔王城の結界が解けない。
ゲームではある程度の広さを持ったダンジョンや遺跡からランダムに選ばれる。プレイヤー全員で探し回ったものだった。
どうやらドラコは星魔の神殿を根城にするようだ。
その攻略ポイントとしてまずは亡霊の館を足がかりにしたらしい。
しかも魔王討伐イベントは、三種類のラスボスからランダムに選ばれた。竜王と邪神と魔族の王。
が、ドラゴニュートが四天王になるのは、ラスボスが竜王のパターンしかない。
貴族の知識的には、教会を乗っ取って世界を裏から支配する邪神が一番大変だと思っていたので、竜王で良かったとほっとする。
しかし竜王は竜王で、四天王を含めて敵の大半がドラゴンになるので、『竜殺』が付与された武器か防具を手に入れないといけない。
それはそれで面倒なので、装備を調えにくいこの世界では少し面倒だなと思った。
そこまで考えて、別の考えが浮かんだ。
――いや、まてよ?
僕は地下一階の食料庫に引き返した。
大量の木箱が雑然と積み上げられている。
「ここにある木箱の中身は、四天王の拠点で使用される食料や装備、または設置されるはずのアイテムじゃないか?」
僕は心が高揚するのを感じた。
四天王の拠点なんて中盤から終盤になってようやく攻略できる場所。
そこでしか手に入らないアイテムが、今ここにあるんじゃないか?
僕はさっそく木箱を調べていった。
階段から近い方は肉や野菜などの食料が多かった。
食事は毎日するから、取り出しやすい場所が多いのだろう。
となると。
武器や防具、宝物があるのは倉庫の奥に積まれた箱じゃないだろうか。
僕は奥まで行って、木箱を一つ一つ探していった。
予想は当たったみたいで、女性が夜会で着るようなドレスの詰まった箱や、装飾品が入った箱があった。
近くの箱にはクッションやぬいぐるみも入っている。
さすがドラコ。別名ポンコツちゃん。
ドラゴンだらけの魔王軍の中でたった一人、竜人だけど四天王に選ばれた彼女は虚勢を張って偉そうに振る舞っていた。
でも本当は可愛いものと、もふもふが好きな乙女。そのギャップがいい。
まあドラコの私物を取るのはなんだかイヤだったので、そのまま蓋を閉めた。
他の箱にはオーガやトロールサイズの大きな武器や鎧などがあった。巨大なこん棒や石斧。
装備できないし、売っても安いのでいらない。
そんな中、人が使うための弓を見つけた。
僕の記憶が確かならば『精霊の弓』だと思われた。
今は鑑定スキルがないけど、デザインは見たことがあるので覚えていた。
精霊の弓はユニークの武器。
僕は弓をアイテムボックスへしまった。
遊び人の僕には使えないけれど、売れば高値が付くはずだった。
その後も次から次へと木箱や宝箱を見ていく。
でも四天王の拠点なら、あのアイテムが確定で手に入るはずだった。
何十箱目かで狙いのアイテムを見つけた。
平べったい盾のような金属っぽい板が3枚。ゲームのデザインと同じだからわかった。
『竜の鱗』だ。
「よしっ」
僕は踊り出しそうになる喜びを抑えるのに苦労した。ニヤニヤ笑いは止まらない。
竜の鱗はアイテムを強化する素材の一つ。ドラゴンを倒すか高レベルのダンジョンの宝箱でしか手に入らないので、序盤で手に入れるのは無理だと考えていた。
――これであとは鉄か鋼鉄のインゴットがあればいい。竜の鱗より手に入れるのは簡単だ。
それからさらに僕は木箱を探っていった。
いつしかアイテム系の木箱が終わって、入り口近くの食料の木箱まで来ていた。
ドラコの拠点では、あまりいいアイテムは期待できなかったが、竜の鱗以外に一つだけ確定で手に入るアイテムがある。
それが『妖精の羽』。
妖精の背中にあるような、蝶の羽根の形をした透明な羽根だった。これも装備の強化に必要。
でも食料の箱すら終わりかけだった。
――ここにはないのかな?
そう思ったとき、木箱の蓋を開けたら、予想外の中身が現れた。
中に入っていたのは、緑のチェニックを着た17歳ぐらいの美少女だった。人間に似ている。
両手両足が縛られていて、口には猿ぐつわが嵌まっていた。目を閉じているので眠っている様子。
金色の長い髪に、長くて尖った耳。背中に透明な羽根が生えていた。
――フェアリーエルフだ!
MISOではNPCだった種族。
え……? なんで食料と一緒にフェアリーエルフが?
嫌な想像が膨らむ。
ひょっとして四天王の拠点で必ずフェアリーの羽根が手に入ったのは、フェアリーエルフが食べられていたから?
じゃあ、この子も……。
僕はいても立ってもいられなくなって、眠っているフェアリーエルフの少女を背中に背負った。
――ボックスハイドのスキルがあるなら、彼女一人ぐらい連れ出せるはず。
ついでにパンと干し肉をアイテムボックスにしまう。
僕は少女を背負ったまま、一階へ続く階段へ向かおうとした。
そのとき、ふとこの世界はゲームではないことを思いだした。
アイテムボックスに空の木箱を入れてみる。
そしたら木箱が目の前から消えて、アイテムボックスに入った。
「はいった」
ゲームでは入れられなかったものも入れることができるようだ。
ゲームと同じで生き物は入れられないけれど。
ボックスハイドをどこでも使用するために、僕は三箱ほど木箱を手に入れてから食料庫を後にした。




