第67話 フェアリーエルフ村の武闘祭!
フェアリーエルフの村に来てから五日後。
僕の時間経過の数え方が正しいなら五日後のはず。
ようやく武闘祭が開かれた。
シェリルに聞くと、三日も一週間も変わらないらしい。
さすが何百年も生きるエルフだ。時間感覚が人間とは違い過ぎる。
ただ、時間に余裕ができたおかげで、懸念だったマリーの強化もできていた。
村の外れにある高い木々が取り囲む広場に、エルフたちが集まっている。美男美女だが、それぞれ手に弓や細剣を持って武装している。
僕は村長アンリの隣にいた。
アンリが広場の真ん中へ進み出る。
「これより武闘祭を始める! 皆のもの、この日のために腕を磨いてきただろう。誇り高きフェアリーエルフの武勇を見せるのだ!」
わぁぁっと歓声が一斉に起こる。
そしてまずは個人戦が始まった。剣や槍、弓で戦うエルフたち。
フェアリーエルフは羽を羽ばたかせて飛べるので、空中戦が多くなる。
とても見応えのある戦いが繰り広げられた。
ただし落ちこぼれ組は個人戦に出ていない。
話し合ったけれど、個人戦は不利になるとの考えが一致して団体戦のみになった。
個人戦優勝は村長の息子ジャンだった。精霊術士として、多数の精霊を使役して相手を翻弄して勝利した。
ジャンは強気な笑みを浮かべて叫ぶ。
「どうだ! これが純血のフェアリーエルフの力だ! 落ちこぼれとは血統が違うんだ。次の団体戦も勝った暁には、落ちこぼれ組はすべて俺の奴隷にしてやる!」
シェリルが目を吊り上げて叫び返す。
「そんな勝手は許しません! 私たちが勝って、ユート先生の指導の正しさを示しましょう!」
「やれるもんならやってみろ! できなかったら奴隷だからな! 人間も出て行け!」
「構いませんわ!」
シェリルとジャンがにらみ合う。
アンリが長い髪を揺らして首を振った。
「どうしてこんな性格に育ったのか……養育に失敗したかもしれん。すまぬ、ユート殿よ」
「問題ありませんよ。落ちこぼれ組が真価を発揮して勝つでしょうから」
僕は平然と答えた。
そして団体戦が始まった。
16組によるトーナメント。
一つのチームは最大4人だった。パーティーを組んでいるのだろう。
試合が進んでシェリルたち落ちこぼれ組の出番となった。
広場の中、弓を持った三人の男たちと対峙する。
シェリルは矢筒を持たずに弓だけ、ピエールは包丁、ダントンは柄の長いハンマーを持っている。
マリーはぼーっと突っ立ている。傍には黒光りする大きなダンゴムシがいた。
相手の男たちはリラックスした様子で笑っている。
「初戦が落ちこぼれ組で楽できそうだ」「次戦のために力は温存だな」「シェリルにだけは注意しろよ」
それに引き換え、落ちこぼれ組は緊張した表情で立っていた。
審判のエルフが右手を挙げて叫ぶ。
「第八試合、開始!」
審判の声と同時にピエールが突進した。
包丁を横に振り抜く。二つの斬撃を同時に発動させる『三枚下ろし』だ。
しかし、相手三人は素早く空に飛び上がった。
空中から弓を引いて矢を放つ。
しかしシェリルがすらりとした足を前後に大きく開いて、弓を大きく引いた。
弓と弦の間に複数の光が集まる。
「スプレッドアロー!」
無数の矢が散弾のように飛んだ。
相手が撃ってきた矢を落とすだけでなく、空中にいる相手にもバシバシと当たる。
「うわぁ!」「ぐわ!」「ぎゃあ!」
彼らはコントロールを失って地面に落下した。
ダントンが駆け寄ってハンマーを振り上げる。
「ふんっ!」
ドゴォッ! とハンマーが地面を叩き、広場が激しく揺れた。中級スキル『ランドシェイク』だ。範囲内に立っている人の行動を制限する。
地面に倒れていた相手三人は立ち上がれない。
「いけー」
気の抜けたマリーの声が響いて丸まったダンゴムシがゴロゴロと音を立てて転がった。
「「「うわぁ!」」」
どごーん、とコミカルな音を響かせて三人は場外へ吹っ飛ばされた。
マリーがちっちゃく拳を握って頷く。
「やった」
審判が叫んだ。
「なんと! 落ちこぼれ組の勝利です!」
誰もが予想しなかった展開に、群衆は「わぁぁぁ!」と驚きの混じった歓声を上げた。
「すごいじゃないか!」「マリーがちゃんと戦ってるわ!」「落ちこぼれ組が落ちこぼれじゃない!?」「弓士じゃなかっただけなんだな」「むしろ戦いの幅が広がるぞ……?」
ただ一人、ジャンだけが歯ぎしりしつつ、怒りを込めた目で落ちこぼれ組を見ていた。
その後は順調に勝ち進んだ。
そして決勝。
審判が手を上げて叫ぶ。
「ついに決勝! まずは優勝候補ジャンパーティー!」
ジャンがローブを揺らし、取り巻きを三人引き連れて広場に入ってくる。
顔が険しい。ジャンの睨む先にはシェリルがいる。
「続きまして。今やもう落ちこぼれと言わせない、落ちこぼれ組パーティーです!」
歓声が上がる。
シェリルたちが手を振りながら広場に入ってくる。
ジャンがギリッと奥歯を噛み締めていた。
審判が叫ぶ。
「では、両者とも尋常に――開始!」
開始と同時にシェリルが大きく弓を引く。
無数の矢が散弾のように飛ぶ。
しかしジャンが杖を掲げて叫ぶ。
「スピリッツバリア!」
虹色の光がジャンたちを包む。シェリルの放った魔法の矢はバリアに当たって粉々に砕けた。
取り巻きの一人が細剣を腰溜めに構えて突進する。
ピエールが包丁を振るって立ちはだかる。金属音が響き、火花が散った。
ダントンがジャンに近づいてハンマーを振り上げる。
だがジャンは背中の羽を広げて飛ぶ。
「バカの一つ覚えが!」
ジャンパーティーは全員、空へと飛び上がった。
ダントンのハンマーが地面を揺らすが、相手に効果はなかった。
シェリルが上空へ向かって弓を引き、魔法の矢を放つ。
「レインアロー!」
上空へ放たれた矢が枝分かれするように複数の矢となって降り注ぐ。
しかしジャンたちは軽々と避ける。
というか、矢が彼らを避けていく。
ジャンが笑う。
「精霊の前に魔法の矢も無意味なんだよ!」
「知ってます――マリーちゃん!」
「ふぁぁぁい――いけー」
あくびと一緒に返事するマリー。
マリーがジャンたちを指さすと突然、マリーの後ろから白い糸が網のように広がった。
「なっ!?」「これは!?」「しまった!」
広がった網が彼らに被さって捕らえた。地面へとまとめて墜落する。
マリーが「よいしょ」と、空中にまたがった。
そしてゆっくりとジャンたちに向かって進んでいく。
観戦していたエルフたちから、どよどよっと途惑うどよめきが聞こえた。
「え、浮いてる……?」「どういうこと!?」「羽で飛んでないわ!」
地面にまとめて落ちたジャンたちを、シェリルたちが取り囲む。
シェリルは弓を引き、ピエールとダントンも武器を構える。
そして空中に浮かぶマリーが、眉をキリッと上げて言う。
「姿を現すのん」
その言葉に、じわーっとマリーの下にいた物体が色づいていく。
八つの目と、八本の手足が姿を現す。固有スキル『森林迷彩』で隠れていたのだった。
ジャンが、ぎょっとして目を見開いて叫ぶ。
「――ッ! 森林大蜘蛛!」
「そう。ジャンはこの子の晩ご飯」
蜘蛛がジャンたちへと爪の尖った前足を近づけていく。
ジャンが叫んだ。
「ちくしょうっ、……――参った」
「勝者、落ちこぼれ組!」
審判が割って入って宣言した瞬間、観客たちから「わぁぁぁ!」と歓声が上がった。
シェリルもピエールやダントン、マリーとハイタッチして笑顔で喜び合う。
ジャンだけは蜘蛛の網から解かれると「くそっ」と悪態をつきながら去っていった。




