第66話 マリーの初テイム
次の日の朝。
僕とシェリルはマリーを連れて森の中にいた。
マリーがついにテイマーの本命たるスキル『手懐ける(テイム)』を手に入れたので、従僕にする動物を探しに来たのだった。
森は下草が少なく、木漏れ日が心地よい。
しばらく歩くと大木が倒れてできた広場に出た。
切り株となった大木の上に柴犬ぐらいの大きさがあるリスと、シマエナガのようなずんぐりした小鳥がいる。
木の実をつついたりなんかしてて可愛い。
僕はほんわかした気持ちになりながらマリーに尋ねる。
「じゃあ、テイムしてみよっか。……やりかたはわかる?」
「手足をちぎって逃げられないようにする?」
「なんてサイコパスな発想! 君を鍛えるのが怖いよ!」
マリーは眠たそうな目で小首をかしげる。
「じゃあ、どうやる?」
「まずはゆっくり近づいて警戒を解く。あとは撫でて警戒を解いたら『手懐ける(テイム)』を発動するんだ――まずはやってみて」
「ふぁぁ~い」
気怠そうな顔をして、あくびをかみ殺して返事する。
マリーは切り株へとゆっくりと近づいていく。
テイマーは動物に愛される職業。小動物にも逃げられることはないはず。
しかし一歩ずつ近づくマリーに気付いた小鳥が「ぴゃ!?」と悲鳴を上げて固まった。
リスも体をこわばらせ、尻尾の毛がぶわっと逆立った。
「きゅるるる!」
リスは表情に怒りを見せ、鋭い前歯をむき出しにして威嚇する。
小鳥は目を血走らせ、奇声を上げてマリーへ突っ込む。リスも叫びながら続く。
「危ないっ!」
僕は素早く前に出つつ蛇剣を抜き放った。そのまま振る。
ドドンッとドクロが浮かんで複数の小鳥を即死させた。
リスはシェリルが光の矢で瞬殺する。
即座に解体されてアイテムボックスに入った。
あっというまに戦闘は終わるものの、僕は頭を抱えるしかなかった。
「なんでテイマーが動物に嫌われるんだ……」
――テイム成功率が50%上がる『まごころチャーム』も貸してあるのに。
「ほあー、死体が消えたー。人形遊びできなかったー」
口を半開きにして残念そうに言うマリー。
僕は呆れながら言うしかない。
「死体をもてあそぶって……もうそれネクロマンサーだろ……」
「こっちの子のほうがいい~」
マリーはとてとてと歩いて、倒れた大木の太い幹を両手で掘り始めた。朽ちているのでボロボロと崩れる。
何をしているのかと思ったら、黒い物体を掘り出した。
マリーの細い腕に抱きかかえられたそれは、鎧のような継ぎ目がある直径70センチメートルほどの球体。
見たことない物体だと思って即座に『鑑定』した。
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種族:ジャイアントピルバグ Lv11(従魔:主人マリー)
攻撃力30 防御力50
HP100 MP50
スキル:『噛む』『球体突進』『球状防御』
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「だんごむしか、こいつ! ――えっ、待って!? すでにテイムしてる!」
「まるまるーい」
巨大ダンゴムシをマリーは両手で抱えた。
――見つけたってことは、すでに『下僕探知』を取っていたのか。
テイム出来る動物を発見するスキル。
自分より弱い動物しか探知できないので、戦いには使えない。
「てか、虫系は中級スキル『以心伝心』を取ってからのはず。……いや、だんごむしは正確には昆虫じゃなくて海老やカニの仲間になるのか。しかし脊椎動物じゃない……」
「でもできたー」
「うーん。だんごむしかぁ。肉食だっけ? 落ち葉とか食べる草食だったような? 戦いには向かなさそう……」
「楽できるから、いいー」
マリーがダンゴムシを地面に下ろした。
丸まっていた体が伸びて、体長一メートルほどの半円状になった。
マリーは軽くジャンプしてダンゴムシの上にまたがる。
ダンゴムシは7対の足をわしゃわしゃと動かして進み出した。
「はわぁ~らくちん」
ダンゴムシの背中に両手をついて、マリーは頬を緩ませる。ゆっくり進む速度に合わせて、背中までの金髪が揺れていた。
――いいのか、これ? まあ、いいか。
シェリルが僕へ近寄ってきて心配そうな顔で言う。
「何か問題ありましたか? ユート先生」
「うーん。一匹目はレベルの上げやすい強い動物――例えば狼とか。もしくは村のためになるような動物――牛や羊、鶏が良いと思ったんだけど……」
あとは索敵ができるような鳥系も悪くなかった。この森にはいないけど、シャドウオウルというフクロウは索敵も隠密攻撃もできて、序盤ではかなり強かった。
MISOでもテイムする人は多かった。
しかし、だんごむし……。
シェリルが困ったように細い眉を下げた。
「マリーちゃんは昔から変わった子で……」
「だろうね。しかし落ちこぼれ組を全員、役に立たせるのは難しくなったかも……ごめん」
「ユート先生、諦めないでください! 私も指導を頑張りますからっ」
「うん……がんばるよ」
僕は少し気落ちしながら言った。
シェリルのためにも全員を一人前になくちゃいけないのに。
料理人ピエールも鍛冶師ダントンも日を追うごとに上達しているのに。
マリーだけがマイペースで我が道を行く感じ。
さすがに三日は無理があったかも知れない。
ビーストテイマーは三体使役できるから、あと二体が役立つ動物にできたら良かったんだけど。時間がなかった。
「まあ、最悪テイマーとして最初の一歩を踏み出せたからいいのかな……」
「本来なら長い目で見守っていきたかったですね……」
「だね」
僕とシェリルはマリーの移動――ダンゴムシの歩む速度に合わせながら村へと戻った。
夜。
シェリルの家で夕ご飯を終えた僕は、床の上に座って紙に全職業のスキルや育て方を書いていた。
シェリルが隣に座って紙をのぞき込む。胸元から豊かな谷間が見えた。
――豊潤の大地!
僕は必死に目をそらして書くことに集中した。
「なにをされているのですか、ユート先生?」
「シェリルに全職業の育て方を教えておこうと思って」
「えっ!? よいのですか?」
「僕はずっとこの村にいるわけじゃないからね。渡した指輪を合わせて使えばシェリルでも導いていけるよ」
「……ありがとうございます」
シェリルは『鑑定:人』の付いた指輪を見ながら、震える声でお礼を言った。
しかしその青い瞳には、なぜか決意の光が宿っていた。




