第62話 宿敵と再戦!
次の日の朝。
ソフィーから衝撃的な告白された僕は、しばらく村から離れようと考えた。
長く一緒にいすぎたからソフィーも勘違いしたんじゃないかと。
そこで僕は、装備や消費アイテムの点検、それからいらない指輪を大きな袋に詰めてポーチに入れた。
だいぶアイテムボックスがすっきりした。
僕は一階に降りた。
パンと炒り卵、昨日の残りの煮込んだ肉の朝食を食べながら、マーサさんへ言う。
「マーサさん。ちょっと遠出するので、今日までで宿泊代を払います。追加はありますか?」
「ん? 今日でちょうど一週間じゃないかい?」
「あれ、そうでしたっけ? まあよかった――じゃあ、しばらく出かけます。また帰ってきますので」
「あの部屋は気に入ったかい?」
「はい、過ごしやすかったです」
「じゃあ、空けとくよ」
「ありがとうございます」
それから朝食を食べ終えて宿屋を出た。
いつも掃除していたソフィーが道にいなかった。
――ま あ、いいか。
僕は村の入り口まではゆっくり歩いた。
すると、どこからかミツコが飛んできて頭に止まった。
「ん? ソフィーの傍にいなくていいの?」
大丈夫というように、ミツコは羽根をブブブッと鳴らした。
そして村の入り口へ来た。
「じゃあ頭にしっかり掴まっててね」
そう言付けると、僕は北東へ向かって移動速度240%で走り出した。通常の3.4倍の速度。
景色が後方へと飛ぶように流れていく。
風が頬に当たって、前髪が暴れた。ミツコが頭にしがみつき、足の爪が少し刺さった。
しだいに畑が消え、草原が広がった。
――向かうはシェリルの住む、フェアリーエルフの村。
来るときは4日かかったけど、山を越え丘を越えての西へ二日、南へ二日だから、直線距離の平原なら2日で行ける。
それに移動速度が上がったから、今日の夕方には着けると思った。
昼頃一度止まって、木陰に座って休んだ。
水を飲みつつパンと干し肉をかじる。
ふと見上げれば、ミツコは頭の上でぐったりしていた。
「ハチミツ、飲む?」
僕がクイーンから貰った小瓶を一本取り出すと、ミツコはよたよたと飛んで僕の膝の上に止まった。
小瓶を渡すと器用に蓋を開けて、ちびちびと舐めるように飲み始めた。
「うん、ゆっくり休んで。午後も夕暮れまで走るからね」
ブゥゥゥと文句を言うように、羽根を鳴らすミツコ。上目遣いの視線が恨めしそうだ。
「いや、帰ってくれてもいいんだけど?」
それは嫌だと言うように、ブンッ! と強く羽根を鳴らした。
何か目的があるのかなと思いつつ、僕は自分の食事をした。
午後の日差しが振る草原。
また風のように僕は走った。
朝よりもしっかりとミツコは僕の頭にしがみついている。
――と。
一瞬だけ、危険感知が反応した。かなり強い反応。
「うん?」
僕は走る速度を緩めて、そして立ち止まる。
周囲を見渡して確認したけれど、特に異変はないように感じた。
でも、危険感知の範囲ギリギリで、危険が反応したり消えたりしていた。
「なにかいる?」
僕が首をかしげると、頭の上でブブッ? とミツコが羽根を鳴らした。
「いや、なにか危険があるみたい――あっ! そうか。この草原、角ウサギがいた」
角ウサギと聞いて、ミツコは怯えたように羽根を鳴らした。
僕も毒竜の蛇剣を手に持って気合いを入れる。
――でも、あのときより僕は強くなった。
レベルは40あるし、装備も格段に良くなった。
角ウサギのレベルは20前後だから、勝てるはず。
「――よし! 戦おう」
ミツコが咎めるように、ブゥンと羽根を鳴らしたが、僕は空いた手で頭の上のミツコを撫でて落ち着かせた。
「大丈夫だから。きっと勝てるよ」
僕は自分に言い聞かせるように言った。
――まあ角ウサギの上位種、貫きウサギや辻斬りウサギだったら逃げるけど。
何が起きても即座に対応出来るように、僕は小走りで草原を進んだ。
膝ぐらいまで伸びた雑草が、さらさらと鳴る。
頭の上ではしがみついたミツコが小さく震えていた。
――そして。
強い反応に近づいた結果、白い悪魔の姿が見えた。
「よしっ! 普通の角ウサギだ」
僕はボックスハイドの『消滅』を発動させているので、運営に愛されたさすがの角ウサギでも僕に気付かない。
近くまで来て蛇剣を振り上げた。
「そいやぁぁぁ!」
気合いとともに振り下ろす。
「きゅっ!?」
角ウサギは突然現れた僕に、立ち上がって驚き途惑っていた。
ザンッ!
僕の蛇剣に切り飛ばされた緑の雑草が宙を舞った。
しかし、あり得ないほど早く、角ウサギは回避する。
ただ後ろ足を少しだけ斬った。即死は発動せず、微かな赤い血が葉を濡らした。
角ウサギが怒りに燃えた目で、僕を睨んで突進してくる。
「やべっ!」
襲ってくる角ウサギに向かって蛇剣を振るったが、まるでミサイルか立体起動装備かというぐらいに、空中で急転回して切っ先をかわして僕へ迫る。
――物理法則、仕事しろ!
僕は内心で毒づきつつ、角ウサギの突進を横に避けた。
さらに草原をかき分けて走り出す。
高速の鬼ごっこが始まった。
必死で逃げる僕。怒り狂って追ってくる角ウサギ。
――が。
この勝負は僕の勝ちだった。
一分ほど走った頃、後ろからドサッと音がして、肉や毛皮や角が飛んできた。
最初の一撃で、毒攻撃が入っていたのだった。
「勝った……」
僕は息を切らせて断ち染まる。
ぶんぶんとミツコが勝利をたたえて羽根を鳴らした。
「ありがと」
ミツコにお礼を言いつつ、僕は息を整えた。
アイテムボックスを見ると、手に入れた角がプラチナホーンだった。
「えっ!? 角ウサギからでもプラチナホーン出たんだ!」
ちょっと驚きつつ、いくらで売れるかなと考えた。
プラチナホーンは神器グンニグルやタイダルトライデントなどの神の槍に使う強化素材。
僕にはいらなかった。たぶん、イーリスもいらない。シェリルやソフィーもいらない。竜騎士や重騎士など、槍を使う職業の知り合いがいない。
「とりあえず、しまっとこ」
そして、もう一度木箱を出して入って『消滅』を発動してから、また北東に向かって走り出した。




