第61話 ソフィーとダンジョン攻略
地下一階。
僕は指輪狩りができるのでちょっとわくわくしつつ、通路を奥へ進んでいく。
ソフィーは急ぎ足でついてくる。
「……ゆ、ユートお兄ちゃんっ」
「ん? どうかした?」
「そんなに急いで大丈夫なんですか?」
「うん。地下一階と二階は、通路に敵は出ないから」
「そうなんですか、安心しました――って。さっきから思ってたんですけど、ユートお兄ちゃん、歩く速度速くないですか? なんか歩いてるのに、走ってるみたいに早いです」
「ああ、ごめん。この靴のせいなんだ」
僕は立ち止まって赤い靴を見せた。
ソフィーがまじまじと見て驚く。
「移動速度がいっぱい! すごい!」
「このダンジョンで出たんだ」
「へぇ~! やっぱりダンジョンってすごいです! ――いや、これを拾っちゃうユートお兄ちゃんがすごいのかな……」
「まあ、運に振ってるからね」
僕はまた歩き出しつつ何気なく答えた。
ソフィーは後ろでしきりに感心していた。
そして大広間に来た。
様子が少し変わっていた。
広間の四隅にリングラットが十匹なのは変わらず。
広間の真ん中にもリングラットが十匹いた。
僕は笑顔で言う。
「じゃあ、ソフィーは真ん中で、足止めしながら戦ってね。僕は周囲を周回してるから、危なくなったら呼んで」
「周回……? はい、わかりました?」
ソフィーは不思議そうに首をかしげつつ真ん中に向かった。
僕はにやりと笑いつつ、毒竜の蛇剣を構える。
「さあ、やるぞぉ! ――たぶん、ハピネスリングが出ると思うけど」
そして僕は狩り始めた。
走り回りながら蛇剣を振るう。
ドクロのエフェクトが出まくって、リングラットが次々と指輪に変わっていく。
しかも運がSになっているから、ノーマルレア以上がごろごろドロップした。
「わはははは――っ!」
僕は楽しい気持ちが抑えきれず、笑いながら周回した。
大広間の真ん中で、一匹ずつタゲを取っては怨霊呪縛と幽霊攻撃で倒していたソフィーが愕然とした表情で叫んだ。
「なんか、わたしの想像してたダンジョンの冒険と、全然違うんですけど! わたしの状況も、ユートお兄ちゃんの戦い方も!」
「えー、そうかなぁ? そのうち慣れるって!」
「一生、夢に見そうです……」
口を半開きにして呆れながらソフィーが言った。
僕は気にせず狩り続けた。
ちなみにこの距離だと、僕の倒した敵の経験値もソフィーに入った。
おかげでソフィーのレベルがガンガン上がっていった。
一時間ほど周回して僕は足を止めた。ソフィーのいる広場の真ん中へ行く。
マジックバックに入った指輪を整理しつつ、僕はソフィーに言う。
「やっぱり。ハピネスリングが3個も出た。バトルリングとスピードリングは1個かぁ」
「ユニークがそんなに……すごいです」
ソフィーは少し疲れ気味の声で答えた。
まだ一時間ぐらいなのに? と思いつつ尋ねる。
「もう疲れた? 少し休む?」
「まだ大丈夫って言いたいですけど、もうMPが……」
「ああ、そっか。じゃあ、これ貸すから今日一日装備して」
僕はクラリッサと交換した『MP吸収』が付いたハピネスリングを渡した。
ソフィーが目を丸くする。
「えっ、いいんですか? ユートお兄ちゃんが欲しがってた指輪なのに」
「大丈夫。普通のハピネスリングでも運がSになるから」
「ほぇぇ~ユートお兄ちゃん、すごいです」
ソフィーは感心しながら指輪を受け取って指にはめた。
僕はマジックボックスの整理を終えて、ソフィーを『鑑定』で見た。
そしたら新スキルが取れるようになっていた。
『侮蔑攻撃』相手の防御力と抵抗力を低下させる。
「おっ。毒舌攻撃がLv10になってる。侮蔑攻撃が取れるね」
「また変な攻撃ですかぁ?」
「ちょっと頭を使う攻撃だね。相手を侮蔑するんだ。相手を蔑んで下に見て、馬鹿にするというか。たぶん、ただのバカとかあほじゃ、発動しないかも?」
「うへぇ……なんだか、呪術師やってると性格が悪くなりそうです」
「そう言われれば、クラリッサさんがあんな性格になったのも影響があったのか……いや! その代わりとても強い攻撃だから! 頑張って!」
「ふぁい」
ソフィーは気の抜けた返事をして、また狩りに戻った。
僕もまた周回を始めた。
数時間たった頃。
突然、大広間に金色の光が満ちた。しかも強い光。
ソフィーが驚きの声を上げた。
「ふぇっ!? なんですかっ!?」
「ユニークレアが出たぁぁぁ!」
僕は喜色満面の笑みで叫び返す。
速攻でアイテムボックスを確認する。
そしてまた叫んだ。
「マジで――ッ!」
「ど、どうしましたか!? ユートお兄ちゃんっ!」
「イダテンリングが出たぁ!」
初の仏教系リング。
効果もすごい。
『イダテンリング 瞬間移動 攻撃速度25% 移動速度50%』
僕はソフィーに近づいて指輪を見せた。
ソフィーは『鑑定:物』で見たようで、目を丸くした。
「お兄ちゃんがさらに早くなった! ――この『瞬間移動』ってなんですか?」
「えーっと、見えてる範囲に移動出来るスキル、かな?」
――上級職の魔導師が取れるスキル。
僕は試しにイダテンリングを指はめて、視線を広間の壁際に向けた。
次の瞬間、シュンッという音ともに、僕の目の前に壁が現れた。
振り返ると、ソフィーが口に手を当てて驚いていた。
「すごいっ! 消えたと思ったら、いきなり遠くへ! すごいすごい!」
「これで狩りがさらに楽になるよ」
「おめでとうございますっ、ユートお兄ちゃん!」
手を叩いてはしゃぐソフィーに、僕は少し照れながら答えた。
少しMISOでのパーティー狩りを思い出した。
レアなアイテムが手に入ったら、パーティーメンバーから祝福された時のことを。
――これがパーティー狩りをする醍醐味かな。
と少し思った。
それからイダテンリングの機能を確認した。
一度使うと1分ほどのインターバルがあり、そう連発はできないようになっていた。
まあ、ゲームと同じ仕様で少し安心した。一日に一度とかだったら使えないところだった。
その後も刈り続けて、体感時間で夕方になった頃。
僕らは狩りを切り上げた。
効率的に狩った結果、ソフィーはレベル31、呪術師としての主要なスキルもだいたい取れていた。
僕はアイテムボックスを見ながら言う。
「あの後出たのはマジカルリングが2個だけかぁ」
「ユニークレアを拾った後でも、ユニークを拾ってるのがすごいですよ」
「運がSだから、むしろ引きが悪かったぐらいだね」
僕の言葉に、ソフィーは感心しながらも小首をかしげた。黒髪がさらっと横に流れる。
「わたしも運に振った方がいいのかなぁ?」
「いや~、やめたほうがいいよ。かなり大変だから。よほど強い目標があるとかじゃない限りね」
「ユートお兄ちゃんは、強い目標があるんですか?」
「うん。僕の幼なじみが、大変な運命に巻き込まれてね。助けたいんだ」
僕の言葉になぜかソフィーは「あっ……」と息を飲んで言葉を失った。
不思議に思って尋ねる。
「どうかした?」
「……その人が、ユートお兄ちゃんにとっての、大切な女性なんですね?」
「うん、そうなるかな? ――世界にとっても大切な人でもあるけど。勇者なんだ」
「そうですかぁ……」
ソフィーは気の抜けた返事をすると、とぼとぼと俯いて歩き始めた。
そのあとは何を話しかけても、生返事しか返ってこなかった。
村の夕暮れ。
僕とソフィーは村の入り口へ戻ってきていた。
どこに行っていたのか、ミツコが戻ってきてソフィーの頭に乗っている。
「じゃあ僕はオイゲンさんに用事があるから」
「あ、はい。――じゃあまた」
ソフィーは肩を落として俯きがちに村の中心、道具屋の方へ歩き出す。
僕はきびすを返して、村の外れにある鍛冶屋へ向かった。
――と。
後ろから、可愛い声が響いた。
「わたし、諦めませんからっ! なんなら二番目でもっ!」
「えっ!?」
僕が振り返ると、ソフィーは夕日をバックに拳を握りしめていた。
逆光になっていて、表情が見えない。
僕が何か答える間もなく、ソフィーは黒髪を乱して走り去った。
一人残された僕は、うーんと少し考え込んだ。
「二番目って……そんなことしたらゲイルやクラリッサに、血祭りに上げられるよ……」
なんだか面倒になったと思いつつ、でも遊び人の僕なんてどこがいいんだろうとも考えつつ、鍛治屋へ向かった。
その後、鍛治屋で強化を頼んでいた武器防具と、インゴットを受け取って店を出た。
ついでにフェアリーエルフの落ちこぼれを指導するときに必要になりそうなアイテムを買った。杖とかハンマーとか、ナイフとか。
あのときは『鑑定』がなかったから職業に確信が持てなかったけど、だいたいは想定出来ていた。それに合わせてアイテムを買う。
さらに冒険者ギルドにも寄って、今日の狩りと採集の成果を報告する。
獲物の換金はソフィーと折半にしておいて、ゲイルに受け渡しをお願いして宿屋へ帰った。
ブクマと評価ありがとうございます! 読んでくれる人が増えたのがとても嬉しいです!




