第60話 ソフィーと冒険
次の日。
僕は朝からソフィーと一緒に冒険者ギルドへ行った。
カウンターに座るゲイルを連れて解体場に入る。
僕は早速広いテーブル――作業台に倒した獲物を出した。
「これ全部、昨日狩りました。買い取ってください」
「イノシシにロングホーンディアー、ネズミもか。すごい量だな」
「全部ソフィーが狩りました。彼女に渡してください」
僕の言葉にソフィーが慌てて言う。
「待ってください! イノシシはほとんどユートお兄ちゃんです! てか、他のだってお兄ちゃんが手助けしてくれましたから……」
「まあ、半分ずつにしときな」
「そうですね。それでお願いします」
「ええっ! ……半分」
ソフィーだけが呆然としていたが、僕とゲイルは納得していた。
それからカウンターへ戻って、買い取り料がそれぞれに支払われた。一人10万ゴート。
僕はだいぶ金銭感覚が麻痺していたが、ソフィーは「こんなに……」と目を丸くして、手のひらに載る金貨10枚をじっと見つめていた。
ゲイルが冒険者カードを渡しながら言う。
「ユート、見つけたダンジョンはどれぐらい攻略した? わかってることがあれば聞いておきたいんだが」
「あ、ボス部屋も突破してクリアしました」
「早いな!」「すごいです、ユートお兄ちゃん!」
「いやいや。地下三階しかない下級ダンジョンだから。あっという間でした」
ゲイルが困り顔で頭を掻く。
「遊び人ってそんなに強い職だったかぁ? ――難易度決定の参考にならねぇなぁ。順路は一本道か? 複雑だったか?」
「少し迷いましたね。地図書きましょうか? 覚えていますので」
「そいつぁ、助かる! 頼むぜ。冒険者ポイントに色つけとくからよ」
「ありがとうございます」
「もうダンジョン攻略してたなんて、ユートお兄ちゃんはすごいです……」
「今日、行ってみる? 今のソフィーなら、敵の配置さえ気を付ければ余裕だと思う」
「え……? 大丈夫かな……?」
ソフィーはゲイルを見た。
ゲイルは、顔を大げさにしかめて唸った。
「う~ん! 初心者がダンジョンに挑むのは危険なんだが……ユートよ、もう危ねぇ場所はないんだよな?」
「はい。危険だったモンスターハウスもボス部屋も、普通に戻ったと思います。行くのは地下一階までですし」
「じゃあ、ソフィー。許可はするが、ポーションたくさん持っていきなよ」
「はい、わかりました!」
それからソフィーが昨日取った薬草を売ったり、店に戻ってポーションを買ったり、ついでに薬草採集の依頼をクラリッサから貰ってきたりしていた。
その間に僕はダンジョンのマップを四枚書いた。地上一階と地下三階まで。コロポックルのことは書かなかった。
僕の箴言を聞いているなら、今頃は隠し部屋を作って逃げ込んでいるはず。
ゲイルが依頼の処理をしていると、ソフィーが口をへの字に曲げて変な顔をしていた。
気になったので僕は尋ねる。
「どうしたの、ソフィー?」
「この薬草の依頼、うちのお店が依頼出して、うちのお店が買い取って、わたしがポーション作るんですよね?」
「そうなるけど」
「わたしが受けるんですから、間にギルド挟んじゃったら、手数料の分だけ損なのでは?」
「まあ、そうなるけど。その代わりソフィーの冒険者ランクが上がるから」
「ああ、なるほど……なるほど?」
納得したような、してないような、ソフィーは細い眉を寄せてうんうん唸っていた。
僕はゲイルに言う。
「じゃあ今日はソフィーとパーティー組みます」
「ほいよ。二人ともカード出しな」
僕とソフィーは冒険者カードを出した。昨日は組んでいなかったので。
受け取ったゲイルは、二枚を重ねて穴開けパンチのような機械に挟んで、ガチャッとレバーを下ろした。
これでパーティーに入ったことになる。経験値が分割される。昨日はソフィーに経験値を総取りしてもらうためにパーティーを組まなかったのだった。
「それじゃ、行ってきます」「行ってきます!」
「おう。気を付けてな」
挨拶を交わしつつ僕らはギルドを出た。
外は暖かな朝日が眩しいぐらいに降り注いでいた。
村を出て魔物を倒しながら森を目指す。
僕は口笛で敵を呼びつつ、毒竜の蛇剣を振るって敵を倒す。
ミツコが辺りを警戒するように、上空を飛ぶ。
ソフィーは僕らの後を着いてくるだけ。
亡霊を使った戦い方は、見た人がドン引きすると思うから。
――呪術師とバレると迫害対象になるというデメリットさえなければ、下級職最強なんだけどなぁ。
しだいにソフィーのレベルとスキルLvが上がっていく。
僕は微笑んで言う。
「いい調子だね」
「……いいんですか? なんだか役に立ててないような……」
「今は人目があるかも知れないから。森へ入ったらお願い」
「はい、頑張りますっ」
ソフィーは勢い込んでいった。目が真剣だった。
それから森へ入ると僕はソフィーとバトンタッチした。
僕が口笛を吹いて魔物を呼び寄せ、ソフィーが怨霊で縛って幽霊で倒す。
安全に、さくさくと倒していく。
ソフィーのレベルも10に上がっていた。僕はもうこの辺りではまったく上がらないけど。
そして薬草も採集しながら森を歩いた。
しばらくしてネズミダンジョンへ着く。
その頃には、ソフィーが次のスキルが取れるようになっていた。
その名も『毒舌攻撃インベクティブ』。敵の行動速度を下げて、HPとMPにダメージを与える。声が聞こえる範囲。中距離攻撃。
僕はソフィーに言う。
「ソフィー、次のスキルだ。相手を馬鹿にするんだ」
「ええっ!? そんなスキルだったんですか!?」
「うん、毒舌攻撃と言ってね。概要は――」
僕はスキルの説明した。
ソフィーは半信半疑のようで、口をへの字を曲げて嫌そうな顔をした。
「ほんとですかぁ……?」
「まあ、やってみたらわかるよ。行ってみよう!」
僕らは洞窟のようなダンジョンへ入っていった。
一階は外から魔物が入り込んでいて、複雑な生態系を組んでいる。
前はムカデが多かったけど、コロポックルたちに僕の意見が通ったからか、巨大なヤスデとダンゴムシがいた。
――普通のネズミじゃなく、ファットマウスを出すように言っておいた。
太って動きが遅いネズミなので、動きの遅い魔物の餌になる。だからムカデ以外が増えたようだった。
ソフィーが前に出つつ杖を振る。
まずは怨霊呪縛だ。黒いオーラと嘆く亡霊がヤスデの下から吹き上がって長い体を絡め取る。
僕は蛇剣を構えながら指示を出す。
「次、毒舌攻撃!」
「え、えっと――あほー、ばかー、長いのー!」
洞窟の岩肌やゴツゴツした高い天井に、ソフィーの可愛らしい声が響いた。
こんな可愛くて大丈夫かなと思ったけど、ヤスデの長い体に黒い霧がまとわりついた。
「――お! 一発で発動した! ソフィー、いいね!」
「は、はい――ほんとに出た……」
僕はダンゴムシを蛇剣で切り捨てつつ、叫ぶ。
「続いて、幽霊攻撃だよ!」
「あっ! はい! ――ゴーストバレット!」
ソフィーが少し焦りつつも、叫びながら杖を振った。
幽霊が身もだえしながら飛んでいき、ヤスデに当たった。
毒舌攻撃でHPを減らしていたので、一撃で地面に沈める。
僕は残りの魔物を倒しながらソフィーを褒めた。
「いいね! どんどん毒舌を吐きながら倒していこう!」
「ふぇぇ……頑張りますっ」
ソフィーは杖を両腕で抱えつつ、困った顔で答えた。
そして魔物を順調に倒しつつ、一階を突破した。




