第56話 ソフィーの育成
次の日の朝。
僕はソフィーと一緒に村の外にいた。
ソフィーの頭にはハニービーのミツコが乗っている。帽子みたいだ。
僕はソフィーと約束していた呪術師スキルの育成を手伝うつもりだった。
村が見えなくなる辺りの草原で、ソフィーに言う。
「まずはレベル上げだ。殴打をLV5にしてゴーストバレットを取れるようにしよう」
「はい、ユートお兄ちゃん!」
僕が『口笛』を吹いて、畑ネズミをおびき寄せる。
それをソフィーが杖で殴って倒す。
全身を使って真上から杖を振り下ろす。ちなみに使っているのは僕があげた『祝福の杖』だ。ユニーク指輪もワンセット装備している。
「えいっ!」「やぁっ!」
ぽこ、ぱこ、と可愛らしい音をさせてネズミを倒していく。
この世界の人は僕と違ってステータス画面でスキルを割り振れないから、動作を繰り返してスキルレベルを上げるしかない。
ただ僕は顎に手を当てて首をかしげた。
僕は『鑑定』でソフィーのステータスを見ていた。
ネズミを何匹殴っても、『殴打』のスキルレベルが上がらなかった。
逆にソフィーのレベルが3になった。
こんなに倒してるのに何でだろう? と考えてようやく思い当たった。
「モーションが違うのか」
「え? なんですか?」
少し呼吸を乱して立ち止まったソフィーが僕を見る。
僕は拾った枝を構えて、枝を振る。
「えっと、真上から振り下ろすんじゃなくて、少し横から斜めに振り下ろしてみて。足は前後に開く感じで」
「こうですか? ――えいっ!」
ヴォン! と豪快なスイング音がして、地面がばぁんと弾け飛んだ。
僕は笑顔で指さして言う。
「それ! その感じ!」
「は、はい! すごいです、ユートお兄ちゃん! なんか全然ちがいます!」
ブゥン――ヴォウンと轟音を立てて素振りするソフィー。
それだけで殴打のスキルが一つ上がった。
――そっか、素振りでも上がるんだ。でも実践ならならもっと早く上がるはず。
僕は『口笛』でネズミを呼び寄せ、ソフィーに攻撃させた。
ドゴォッ! と今までにない音でネズミが弾け飛んで死んだ。
「うわぁ……」
グロテスクに爆散した死体を見て、ドン引きするソフィー。
僕はネズミの死体をマジックボックスに回収しながら言う。
「呪術師の近接攻撃はなぜか攻撃%が高いからね。『殴打』で1レベルにつき15%、次の『死の刻印』だと1レベルにつき40%も上がる」
「そうなんですか……最大まで上げたほうがいいんですか?」
「いや、基本的にステータスは智慧を上げていくから使わなくなるよ。だから最低限でいい。次のスキルの条件分だけ上げるほうがいいよ」
「わかりました。殴打がLv5ですね」
ソフィーが杖を握りしめてまた構えた。
ミツコが頭の上で、頑張れとでも言うようにブブッと羽根を鳴らす。
またしばらくネズミ倒しが始まった。
一時間ぐらいした頃、レベルが4になり、殴打がLv5になった。
僕は周囲を見渡しながら言う。遠くに村が見えた。
「さて。次は幽霊攻撃を取ろう」
「ゆ、幽霊ですね……怖いです」
ソフィーが両手で肩を抱いて身をすくめた。
僕は南東にある森を指さして言う。
「戦う姿を見られると何か言われるかも知れないから、森で戦おう」
「は、はいっ。ユートお兄ちゃん」
おっかなびっくりな様子で歩くソフィーを連れて、僕は森へ向かった。
森の中に入ると、またモーションの指導をした。
「ソフィー、いいかい? 杖をこう持って、前に突き出すんだ」
僕は枝を持った腕の肘を引いて、枝先が肩に触れるぐらいから、前に突き出した。
ソフィーがマネをしながら杖を突き出す。
「こ、こうですか? ――え、えいっ!」
「杖の先に幽霊を集めて」
「ど、どうやってです!?」
「なんかこう、悲しい未練があって空中を漂っている幽霊を呼び寄せて、敵にぶつける、みたいな感じ?」
「悲しい感じ――えいっ」
突き出したソフィーの杖先が黄色く光った。
でもまだスキルは取れていない。
僕は頷くと指示を出す。
「その調子だ。じゃあ、ここからは僕が前に出るから。ミツコは周囲を警戒、魔物がたくさんいるときは教えて」
ブブッと了解の羽根を鳴らすと、ソフィーの頭の上から飛び立った。円を描くように周囲を周回する。
僕が口笛を吹くと、イタチが飛び出してきた。ネズミより一回り大きく体が細長い。
「――えい!」
ソフィーが杖を突き出した。
杖先から半透明の不気味な幽霊が、苦しみながら飛んでいき、イタチに命中した。
「グギャッ」
イタチが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。体をひねって地面に着地する。牙をむいて激しく威嚇してきた。
呪術師の攻撃エフェクトは全部、不気味だ。MISOをしているとき画面越しでも不気味だったのに、実際に見るとさらに不気味だった。
でも僕は首をかしげる。
――効きが悪いな? 今のスキルと装備、ステータスなら一撃で倒せるはずなのに。
「あっ、そうか。ソフィー、パッシブスキル『不調領域オン!』で」
「はいっ、パッシブスキル、ディスオーダー、おん!」
ドンッとソフィーを中心にして息苦しい空気が広がった。
ぐぐっとイタチがうめき声を上げる。
すかさず僕は言った。
「今だ! もう一回!」
「はいっ、ゴーストバレット!」
ソフィーが突き出した杖先から、苦しむ表情の幽霊が飛び、イタチにぶつかった。
そのままイタチは白目をむいて地面に倒れる。
鑑定で見ればHPが0になっていた。ついでにソフィーは『幽霊攻撃Lv1』を取得していた。
「倒したね。グッジョブ、ソフィー」
「ありがとうございます。さすがですユートお兄ちゃん」
「ソフィーが素直に聞いてくれてるおかげだよ」
「でも、敵より幽霊が怖かったです」
「あはは、それはもう慣れるしかないね」
「うぅ……できるかなぁ」
ソフィーは泣きそうな顔になって嘆いた。
僕は笑顔で気配探知に反応する方を指さした。
「さあ、次だ。頑張ろう」
「ふぇぇ……」
泣きそうな顔で肩を落とすソフィーを連れて、次の敵へと向かった。




