第55話 必死の交渉と新住人
村の夕暮れ。
僕はクラリッサが店番をする道具屋へ入った。ハピネスリングを手に入れるため。
早足でカウンターへ向かい、店番をしているクラリッサに直談判した。
「こんばんは、クラリッサさん! あなたの持つハピネスリングを交換させてください!」
「なんじゃ、いきなり。その指輪は持ってはおるがの……」
クラリッサはしわしわの顔に胡散臭げな表情を浮かべて言った。
僕はアイテムボックスから三つ指輪を取り出してカウンターに置く。
「僕が拾ったマジカルリングとバトルリングとスピードリングです。これで交換できませんか?」
「効果なしの、普通のユニーク指輪じゃの。こっちは優秀な効果が付いておるんじゃぞ?」
「じゃあ、もうワンセット出します!」
僕はユニーク指輪を三つ出してカウンターに置いた。
しかしクラリッサはあからさまに顔をしかめる。
「ユートは知らんかもしれんが、同じものを二つ装備しても効果は重複せんのじゃ」
「知ってます。でもソフィーも呪術師だから、お二人に必要になるかと!」
「むむっ! ――なるほど、考えおったな。よかろう、交換してやろう」
ソフィーをダシに使う作戦は上手くいった。英雄たちは孫みたいなソフィーには甘々だったから。
クラリッサは一度奥へ引っ込むと、手に指輪を握って戻ってきた。
「これじゃ」
「うふふ……ありがとうございます」
僕は念願のハピネスリングが手に入って、気持ち悪いぐらいの笑みを浮かべた。
しかしクラリッサが顔をしかめたまま、注意を促す。
「しかしの、運を上げても意味ないとされておるぞ?」
「それは運の数値が低いからですよ、ふふふっ」
僕は喜びに浮かれて話半分に返事した。装備すると運の表記がSになる。踊り出しそうになるぐらい嬉しかった。
ソフィーが僕の横で嬉しそうな笑顔になる。
「よかったですね、ユートお兄ちゃんっ」
「全部ソフィーのおかげだよ。ありがとう」
「そんな……お礼なんて……」
ソフィーは恥ずかしそうに俯いて照れていた。
彼女の腕の中でハニービーのミツコが、ブッブッと嬉しそうに羽音を鳴らしていた。
――と。
店の外から、ヴァヴァヴァ――ッと重い音が響いてきた。
「えっ、なんだ!?」
僕は急いで外に出た。ソフィーとクラリッサも後からついてくる。
見れば、東の空から何百匹もの大きなミツバチの集団が飛んできていた。
まるで黒い影の塊が飛んでくるよう。
「もう来た!」
僕は急いで向かいにある冒険者ギルドへ向かった。
なんだかんだで、この村ではゲイルが一番発言力がある。
その力を借りようと思った。
冒険者ギルドに飛び込んだ。
相変わらず人はいなくて、カウンターにゲイルが座っているだけ。
僕は駆け寄りながら叫ぶ。
「ゲイルさん! ちょっと来てください!」
「な、なんだぁ!?」
途惑うゲイルをカウンターから引きずり出して、外へと引っ張っていった。
村の入り口近くに、ハニービーたちの集団が来た。
村人たちが鎌や包丁を持って集まっていた。
僕は村人たちを押し分けつつ、ゲイルを連れて前に出る。
クラリッサも後から着いてきた。
「みなさん、待ってください! 大丈夫です、敵ではありません!」
「どういうことだ?」
ゲイルが不審そうに眉をひそめる。
僕は頭の上のミツコや、ミツバチの集団の前にいたヴィクトリアを指さす。
「彼女たちは、村に移住を希望したハニービーたちです」
「なんだって?」
「森の魔物が強くなったので安全なこの村に移住したいそうです。ゲイルさんたちが守る代わりに、ハチミツを提供してくれます」
「なっ! 勝手に話を進めてんじゃねぇよ」
「でも村の特産になる取引ですよ」
クラリッサが顔をしかめる。
「たいした防備もない村じゃぞ?」
「ですが、ミツバチたちを引き受けると、ローヤルドリンクを提供して貰えるそうですよ。エリクサーや媚薬、若返りの薬の材料のはず」
「な、なんと。それはおいしい申し出じゃの」
クラリッサは悪い笑みを浮かべて、にやりと笑った。
ゲイルが慌てる。
「お、おい。受け入れるって言うのかよ」
「なんじゃ? すかんぴんのくせに、儲け話に文句があるのかの? 少しは働け」
ぐぬぬっ……とゲイルは唸りながら唇を噛んだ。でも何も言い返せないようだ。
クラリッサ、強い。
僕はミツバチたちの先頭にいたヴィクトリアを村人たちに紹介する。
「こちらは新しく女王になられたヴィクトリアさんです」
『よろしくお願いします』
ヴィクトリアは念話で喋りつつ、ぺこりとお辞儀した。
僕は近寄って小声で話す。
「アザトースは? 姿が見えないけど」
『姉は太りすぎてて飛べなかったので、後日運ばれてくる予定です』
「どこまで迷惑な存在なんだ……でも、今は逆に良かった。話し合いはうまくいきそうだ」
僕は、ほっとして吐息を漏らした。
しかしゲイルが腕組みしながら、野太い声で訝しげに言う。
「村に住むって……住むスタイルが違うだろ。人間用の家でいいのか?」
「ああ、確かにそうですね。クイーンの巣は砦みたいに大きかったですが、ヴィクトリアはどのくらい大きくなるの?」
僕は疑問に思って尋ねた。
ヴィクトリアが手を頬に当てて考える。村の家を眺めながら言う。
『お母様は5000匹ぐらい率いていましたが、私たちは今100匹ぐらいですから、あの家ぐらいでも。将来的にはあの二階建ての家ぐらいあればよいかと』
「ゲイルさん、二階建ての家はいくつか空いてるから大丈夫じゃない?」
「まあなんとかなるな」
『それとお花畑が欲しいですね。どの花を育てるかでハチミツの味にも影響します』
「それは今後の課題だな」
「村の人たちも大丈夫ですか? 一緒に住めば、これが定期的に手に入りますよ」
僕は集まっていた村人たちに近寄って、百本あるハチミツの小瓶を配った。
すぐに一口舐めた村人たちが笑顔になる。
「甘ぇ!」「こいつぁすげえ!」「歓迎するわよ!」
特に女性たちが喜んだ。
魔物と一緒に住むことに否定的だった人も、甘味の暴力によって完全に黙らされたようだった。
僕は笑顔で言う。
「じゃあ、これからはお互い協力していきましょう。ヴィクトリアたちも、ハチミツだけじゃなくて、村の周囲の警戒もして貰えると村のためにもなるんじゃないかな」
『それはよい考えですね、さすがユートさんです。戦いは苦手ですが、偵察なら苦もなく出来ますし』
「それで危険を発見したら、冒険者ギルドにいるゲイルさんか、道具屋にいるクラリッサさん、もしくは宿屋のマーサさんに知らせるといいと思う」
『こちらの方たちですね。確かに強そうです』
ヴィクトリアが英雄たちを見ながら言った。
ゲイルが頭を掻きながら言う。
「まあ、なんだ。ようこそ レハーノ村へ」
その後は歓迎会となり、村の空き地で飲んで歌っての大騒ぎとなった。
僕の提供したヘラジカの肉がとても歓迎された。
ミツバチたちは果実を搾ったジュースを、ちっちゃいコップに入れて飲んでいた。
僕は会場の隅でクラリッサと声を潜めて話す。
袖の下でローヤルドリンクを一本渡しつつ。
「こちらがローヤルドリンクです」
「くくくっ、おぬしも悪よのう」
「いえいえ、魔女様ほどでは」
お互い悪い笑みを浮かべて取引をおこなった。
――これで一安心。
賄賂を渡したからもう受け入れるしかないよね!
僕は酔っぱらった村人たちへ言う。
「ハニービーの新女王はもう一人来ます。その子も受け入れてあげてください」
「おおっ!」「さらにハチミツが増えるのね!」「ありがたいわ!」
特に女性たちが喜んでいた。
こうしてミツバチの移住はうまく受け入れられたのだった。
……一番の問題であるアザトースも受け入れられていくんじゃないかな? と思った。知らんけど。
これ以上の妥協方法を僕は知らない。
順位が落ちて現在『[日間]総合 - 連載中170 位』ぐらいです。
でもランキング乗れただけで幸せです。ブクマも69、ポイントも326と大幅アップ。
とても嬉しいです。今後も頑張ります!




