第47話 次の目的
第二章の開始
「ユートよ。ワシを破産させる気かの?」
クラリッサが胡乱な目つきで僕を見てきた。彼女の隣にはソフィーが心配そうな顔で佇んでいる。
ここは道具屋の中。外は朝日が照らしている。
僕は指輪や剣、鎧を買い取ってもらおうとカウンターに出していた。
「ゲイルさんから、買い取りは道具屋でって言われたんですけど」
僕の言葉に、クラリッサはしわしわの細い指で、指輪を一つつまみ上げる。
『毒無効』と『防御5%』付いてるファイアリングだ。
「これ一つだけで最低1000万ゴートいくじゃろう」
「そんなに? 貴族に売れるかな~とは思ったけど」
いまいち僕は効果付きアイテムの価格を把握できていなかった。ゲームと現実で重要視される効果が違い過ぎるせい。
クラリッサが呆れつつカウンターの上の物品を眺める。
「ここにあるの全部で5000万ゴートにはなるかの。そんなにもっとらん」
「じゃあ、数個だけ、さらに半額で買い取って貰うのはどうですか?」
「誰に売るのじゃ? こんな村で売っても、村人が買うわけがなかろう」
「こう、クラリッサさんのつてを使って、うまい具合に捌くとか……」
「誰かを間に挟んでも、手間がかかるだけじゃろ。現金になるのがいつになるかわからんしの」
このままでは話が平行線なので、僕は尋ねてみた。
「じゃあ、買ってくれそうな商人か貴族はいますか? 僕が直接売りに行きます」
「それならミッドランド王国の王都にあるマドラス商会を尋ねるとよい。古くからの老舗で信用がある。もう引退した先代の商会長とは、ちょっとした顔見知りじゃ」
「ミッドランド王国かぁ……」
「なんじゃ? 隣国と言っても近いぞ?」
「知ってますけど……」
死んだ扱いになってるはずの僕が、母国に戻るとなかなかに面倒が起きそうだと思った。
家族と出会ってしまったら目も当てられない。
僕が判断を下せずにいると、クラリッサは言った。
「冒険者ランクがC以上なら、国境もほぼ審査されずに通れるはずじゃ」
「まだEです」
「それならもうこの国の王都か大きい街で買い取って貰うしかなかろう」
「そうですね。持っててもしかたないし。安くなってもいいから売りに行きます」
「そうした方が良かろうて」
クラリッサの断りの言葉に、僕はカウンターに出していた物品をアイテムボックスにしまった。
そのとき、買いたい物を思い出した。
「そうだ。着替え用の古着はあります? 着れればいいんで、安いのがあれば」
「それなら隅の箱に詰め込んであります! こっちですっ」
ソフィーが黒髪を揺らして元気よくカウンターから出てきた。
店内の角にある中古品コーナーへ案内してくれた。
ボロい服や鞄、革の鎧や籠手がある。
僕は『鑑定』で見つつ、一枚一枚見ていく。
そういや前回、閉店だから全部は見れなかったんだった。
横にソフィーがしゃがんで、一緒に選んだ。
「あっ、これなんかどうですか? 防御5%付いてますっ」
『鑑定:物』の指輪を渡したから、ソフィーも効果付きのアイテムがわかるようになっていた。
「うーん、効果としては微妙だし、しかも女性物じゃない? ピンク色でひらひらのフリルが付いてる」
「ならダメかぁ……」
僕はどんどん箱の中を掘り出していった。
すると、つーんとかびの臭いが鼻を突いた。
「くさっ」
「くしゃいっ!」
ソフィーが尻込みして、しゃがんだまま数歩下がった。
僕は臭さに目を細めつつ、それでもぼろきれを見ていく。
――と。
「え?」
複数の効果が付いた布を見つけた。布と言うより丸めた雑巾だ。
そのボロ雑巾を出して広げると、見た目だけでは用途がわからなかった。穴が空いているし、所々布が薄くなって向こう側が透けている。
だけど鑑定を通して名称が見えた。
『疾風のマント 防御+2 HP増加1% 回避5% 攻撃速度10% 移動速度15%』
「うっそ! ノーマルレアだ」
しかも今来ている『そよ風のローブ 回避5% 攻撃速度5% 移動速度5%』に比べて、強化したときの数値の幅が大きいマントだった。
そよ風~が2倍にしかならない――つまり5%が10%になるだけ――に対して、5倍10倍になる。
しかも強化素材は同じスパイダーシルクという。
「これ! これ買う!」
「そんなに臭いのを!? ですかぁ!?」
ソフィーが鼻を摘まみながら情けない声で言った。
僕はボロボロのマントを見る。
――確かに臭い。ものすごく黴びてる。
「追加料金払うから、洗って貰うことって出来る?」
「が、がんばりますっ!」
丸めた布を渡してお金も余分に払うと伝える。価格自体はボロ布500ゴート、洗濯代500ゴートらしい。
「効果付きだから、かなり乱暴に洗っても大丈夫だから」
「はいっ」
ソフィーは手を前に伸ばしてできるだけ布を顔から遠ざけつつ、店の奥に持って行った。
僕は続けて着替え用の古着と、掘り出し物を探す。
――そして見つけた。
これまた汚れが染みついてまだらになったポーチ。臭いはしないが見た目が気持ち悪い。
ないわーって感じのポーチだった。しかし見た目に反してマジックバッグだった。
アイテムは10枠しかないけれど。1枠で255個入るので、使いようによっては有効だった。
バッグと着替え、それにポーション。あとは大きな袋と、保存食と調味料を持ってカウンターへ行った。
しかし座っているはずのクラリッサの姿が見えない。
耳を澄ますと、店の奥――というより店の裏手から水音ともに声が聞こえた。
「くしゃい! ――ちょーくしゃい!」
「これはゲイルのマントじゃな。あんなところにあったとはのう」
「えっ!? 商品かと思って売っちゃったんですけど!?」
「どうでもよいわ。返す必要なぞないのじゃ」
「いいんですか?」
「酔っ払ってマントにゲロ吐いて、洗っといてくれと言いおったのじゃ。大きな依頼が成功して浮かれていたから仕方ないと引き受けたのじゃが……あやつ、何をしたと思う?」
「ゲイルさん、どうしたんですか?」
「次の日にはワシに頼んだことをすっかり忘れて、マントなくしたから新しいの買ったと新品のマントを見せびらかしおった」
「うわぁ。それはひどいですね」
「さすがの温厚なワシもブチ切れての。錬金術で素材を抜いてただのノーマルレアにした後、不要品入れに突っ込んでやったのじゃ」
「お酒飲む人って、さいてーですね」
「うむ。ソフィーも酒に飲まれるような大人にはなるでないぞ?」
「はい。お酒はたしなみ程度にしておきますっ」
僕は店のカウンターの前で立ち尽くしていた。
――なんだかとんでもない話が聞こえてきた。昔のパーティーで冒険してた頃の話かな?
これは聞かなかったことにしよう。僕のためにも、ゲイルのためにも。
てか、錬金術で怒りにまかせて素材解除したからボロボロになってたんだ。
効果付きのアイテムがあんなボロ雑巾になることなんて、ドラゴンとでも戦わない限りないはずだった。
しばらく待っていると、ソフィーは濡れたマントを持って帰ってきた。
「洗いましたー。前に貰った水てぶくろがすごく便利です。ありがとうございます」
「有効活用してもらえてよかった。あとこれらも買うから、会計してくれる?」
「洗濯したマントは干さなくていいですか?」
「うん、走って行くから、すぐ乾くと思う」
疾風のマントの効果も含めれば、移動速度が190%にもなるし。時速50キロぐらいで走れそう。
ソフィーは値札を見たりして計算する。
「じゃあ9600ゴートです」
「はい。おつりはいいや」
「ありがとうございます」
金貨を一枚出して支払った。
紺色の生地のマントは早速装備して、あとはマジックボックスに入れた。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃいませ、ユートお兄ちゃん! ――明日は一緒に訓練ですよっ」
「もちろん覚えてるよ。それじゃ、またね」
はにかむ笑顔に見送られて、僕は店を出た。
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