第45話 ソフィーを懐柔
本日2話目。
村の夕暮れ。
冒険者ギルドを出た僕は、斜め向かいにある道具屋へ向かった。
店の中では小さなソフィーがちょこまかと動いて、商品に埃除けの布をかぶせ始めていた。閉店作業だ。
店に入って話しかける。
「こんばんは、ソフィー」
「ユートお兄ちゃん! ――今日は無事だったんですね! お帰りなさい!」
幼い顔立ちに笑顔をいっぱいに浮かべて挨拶を返してくれた。
ちょっと嬉しく思いつつ、バッグからアイテムを取り出す。
もちろん『亡者の怨念』は出さない。『水てぶくろ』と『祝福の杖』を出した。
「これ、拾ったからあげる」
「なんですか、これ――って、レアなアイテムじゃないですか!」
どうやら『鑑定:物』で確認したようで、驚きの声を上げた。
僕は笑顔で答える。
「ソフィーにはいろいろ助けてもらってるから、そのお礼だよ」
「いや、でも! 高価すぎますよ!」
「いいって。手袋は水仕事が楽になるだけだし、杖に至っては呪術師として育つのに必須だと思うから」
僕の言葉にソフィーはうつむいた。幼い顔に暗い影が差す。
「ユートお兄ちゃんは呪術師すごいって言うけど……育ったら、もっと被害を与える存在になっちゃいそうで……」
「ああ、知識がないとそう思うかもね」
「でもクラリッサさんだって、呪術師として生まれて苦しんだそうなんです」
「そうだね。だったら、さっさと呪術師をマスターして、別の職業に転職しちゃえばいいんだよ」
「ええ!? そんなことが……?」
「できるできる、やれるやれる! わからないなら僕が手助けするよ!」
ソフィーは眉間に可愛いしわを寄せて考え込んだ。
「ううーん。そう言われても……クラリッサさんは薬草採集やポーション作りを頑張ればいいって言ってくれてます」
「なにそれ。まるで『薬師』みたいじゃないか――どれ」
そう言えば、ソフィーの詳しいステータスを見ていなかったと思って『鑑定』を発動させた。
現れたステータス画面を見て、あっと声を上げる。
ソフィーが心配そうに尋ねてきた。
「ど、どうされましたお兄ちゃん? なにか……」
「いや、ソフィーのステータスに驚いただけ。確かにクラリッサさんのやり方も間違いじゃないね」
僕はステータス画面を見ながら言った。
ソフィーのステータスはこんな感じだった。
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名前:ソフィー・サンクレシア
種族:人間 性別:女 年齢:13歳
職業:呪術師 薬師 Lv:5
筋力:F 敏捷:F 智慧:F 運:F
HP:40 MP:40
攻撃力:10 防御力:21
スキル(SP26)
攻撃スキル:
下級:『殴打Lv1』『斬るLv2』
補助スキル:
下級:『不調領域Lv1』『薬草採集Lv7』『薬草探知Lv5』
中級:『調合Lv2』
その他スキル:
『鑑定:物』『鑑定:犬』『呪い抵抗25%』
装備:
『村人の服』『ブロンズリング』『アースリング』『ゴールドリング』
称号:
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呪術師の初期スキルは『殴打』と『不調領域』。薬師が『斬る』と『薬草採集』。
――生まれながらにして職業二つ持ってる! とても珍しい!
MISOでも初期職業が二つは、リセマラを何度してもなかなか出なかった。
しかも片方が初期ランダム職業でしか得られない呪術師とは。
かなりレアな状態だった。
二職持ちは育て方には注意が必要で、Lvが上がるとSPが2倍入る。
しかし、片方だけに振ってるともう一つはマスターできずに、転職したとき片方しかマスターしていないことになってしまう。
特殊上級職が解放されなくなる。
そして『薬師』は攻撃に関しては弱く、調合なども上級職にはかなわない。
でも薬師は薬草採集したり調合したりするだけで経験値を得られる。
無理に魔物を倒さなくてもレベルが上げられるのだった。
「なるほど。薬師も持ってたのか、すごいね」
「えっ、なんで!? ――って、鑑定ですね! そうなんです! 薬師でもあるんです!」
「意味のある職業が揃ってるなんてすごい確率だよ」
「そうなんですか? でも薬師だけ頑張ろうと思ってます」
「えっ! もったいない!」
「だって、呪術師なんか伸ばしても、害があるだけじゃないですかぁ」
ソフィーは眉尻を下げて悲しそうな声で言った。
僕は力強く首を振って強く言う。
「でも呪術師もマスターすれば、クラリッサさんみたいな魔女になれるよ?」
「えっ、しわしわのおばあちゃんになっちゃうんですか?」
その時、カウンターの奥にある部屋の方から、パリーンとガラスの割れる音がした。
……クラリッサには会話が聞こえていたらしい。
僕は詐欺師のような快闊な笑顔になって両手を広げた。自分でも胡散臭いと思うが気にしない。
「何を言うんだい、ソフィー。クラリッサさんだって、昔はナイスバディで妖艶な魔女だったはずだよ? 今でもその片鱗がある。美魔女だったに違いないよ!」
「び、美魔女! しかもナイスバディな魔女! ちょっとそれ興味あります!」
「クラリッサさんも若い頃は男にモテて大変だっただろうねぇ」
「それ気になる! わたしも美魔女になりたいかも!?」
僕は勢いよくソフィーに近づいた。
大げさな声で言う。
「そこで、さっき渡した武器が必要になるんだ。祝福の杖は、杖なのに攻撃力が80もある。これで敵をボコすか殴ろう。村の周囲にいるネズミや蛇なら一撃だね!」
「た、戦うんですか……」
「スキルレベルを上げないとね。でも殴打はLv5まで上げたらいいから。そうすると『幽霊攻撃が取れるようになる、これをLv10まで上げたら次は『不調領域』をLv5にする。そしたら『怨霊呪縛』を取ってLv10まであげて……」
僕はまるでオタクのように早口でまくしたてた。いや、MISOオタクなのは否定しない。
僕の放つ言葉の奔流に、ソフィーが黒髪を乱して頭を振った。
「ちょ、ちょっと待ってください! いっぺんに覚えきれないです!」
「よし、じゃあ紙に書こう!」
僕は店の売り物だろう白い紙とペンを手に取ると、カウンターまで行ってガリガリと呪術師をマスターするまでのスキルツリーを書き込んだ。
横で見ていたソフィーが、呆れ顔で呟く。
「なんで呪術師じゃないのに、こんなに詳しいんですか……」
「まあスキルに詳しい家だった、ぐらいに思っておいて」
「はぃ……」
そして書き終えた。ソフィーに渡す。
僕は笑顔で言った。
「じゃあ、この通りにやってみて。なんなら、しばらく一緒に狩りをしてもいいし」
「ほんとですか! やりたいです!」
ソフィーが両腕で紙を胸に抱き締めながら言った。
僕はカウンターの奥へ呼びかける。
「いいですよね、クラリッサさん!」
「あんまり危ないことはするんじゃないよ」
クラリッサが微妙に顔をしかめつつ、奥の部屋から顔だけ出して言った。すぐに引っ込む。
僕は言う。
「じゃあ、明日――はちょっと用事があるから、明後日から狩りに行こう」
「はいっ。頑張ります!」
「それと指輪がまたいっぱいになったから、預かっておいて。お願い」
僕は商品棚から大きくて頑丈な袋を持ってきて、指輪を入れて渡した。
カウンターには大銀貨を一枚置いた。
ソフィーが指さしながら言う。
「えっと、紙とペンとインクの代金も。合計7000ゴートです」
「はいよ。細かいのないから、これで。お釣りはいいよ」
カウンターに金貨を一枚置いた。
そして紙とペンをマジックバッグに入れて、踵を返す。
「じゃあ、またね」
「はい。おやすみなさい」
ソフィーの明るい声を背に受けつつ、僕は店を出た。
本日もう一話更新。




