第44話 ご褒美指輪狩り
僕はネズミダンジョンを踏破した後、入り口まで戻ってきた。
空はまだ明るい。狩りの時間はまだまだあった。
「さて、指輪狩りするかぁ!」
僕は頬を緩ませながら、またダンジョンへ入っていった。
高速で走り抜けて、すぐに地下一階の大広間まで来る。
嬉々として毒竜の蛇剣を構えた。
「やるぞぉ――!」
僕は暴風となって、ネズミを狩りつつ隅から隅まで周回した。
飛ぶようにネズミが倒れて、光る指輪が次々と飛んでくる。
アイテム欄に各種指輪が入っていく。
「ひゃっはー!」
その後も僕は時間を忘れて狩り続けた。
◇ ◇ ◇
体感で数時間は過ぎた頃、僕は指輪狩りを終えてダンジョンを出た。
外は西の空が赤く染まる夕暮れだった。
――ほんとはもっと狩りたかったけど、優秀な効果が付いた指輪で鞄もアイテムボックスもいっぱいになってしまったので、泣く泣く狩りを終えたのだった。
「いやでも、ほんと入れ食い状態だった」
僕は自分の指にはまった指輪を見ながらニヤリと笑った。
まずユニークレアが手に入った。
しかも運が上がる指輪だった。
その指輪はこんなのだった。
『ラクシュミリング レアドロップ50% 運+50 運比率上昇×2 スキルレベル+1』
何度見ても驚きだった。
MISOではインド神話系の指輪は出にくかったのに。ブラフマーに続いて、またインドの神様の指輪が手に入るなんて。
今の僕が装備するだけで運が100以上も上がる。ほくほくする。
ただ『レアドロップ率』はMISOでは検証班が調べた結果「レアなアイテムがドロップする確率は変わらない、未実装と思われる」という結論が出ていた。
だから期待はしない。運が上がっただけでも十分だった。
なぜなら運が451を超えたため、表記がAになったからだった。
実際、運Aになったあとでは、さらにノーマルレアやユニークが落ちた。
3つ目のバトルリングと、2つ目のスピードリングが手に入っていた。他にも『氷撃』が付いたアースリングとか。鑑定とか。ハピネスリングは出なかったけど。
「嬉しい、楽しいっ」
村へと帰る足取りも、自然とスキップになっていた。
気付けば村の入り口まで戻っていた。まだ日は沈んでいない。
15分ぐらいで帰ってきた。さすが移動速度180%。
僕は立ち止まって少しだけ考えると、村の外れにある鍛冶屋へ向かった。
鍛冶屋ではオイゲンが工房でハンマーを振るっていた。
しばらく眺めて仕事が一段落した後、話しかける。
「オイゲンさん、こんばんは」
「おう、ユートか。なんだ?」
僕は耳飾りを外しつつ、マジックバッグから魔結晶とミスリルリングの束を出す。
「このイヤリングを強化して欲しいのですが、できますか?」
僕の言葉に、オイゲンがあからさまに顔をしかめる。
「また面倒な細かい作業かよ!」
「やっぱ錬金術師じゃないと、無理ですか?」
「無理じゃねえよ。そこに置いといてくれ」
オイゲンは作業台を指さした。
僕はその台にイヤリングと素材を置く。
「強化費用はいくらぐらいになります?」
「20万ゴートでいいよ。ミスリルも用意してるんだから」
「ありがとうございます」
僕はお礼を言って、作業台に大金貨を一枚置いた。
それから別れの挨拶をして、鍛冶屋を離れた。
その足で村の中心にある冒険者ギルドへ向かった。
依頼と、レア装備の買い取りをお願いするため。
「あっ、と。あの指輪は売れたりするのかな……?」
試してみようと思って、僕はアイテムボックスから『鑑定:うんこ』が付いた指輪を取り出した。
命の指輪を外して装備する。
すると、村のあちこちにウインドウが開いた。
『猫のうんこ』『ネズミのうんこ』『蟻のうんこ』『アーバインの、トイレまであと一歩だったのに間に合わなかったうんこ』まで見えた。
「ほんとにうんこだらけ――なんで猫のうんこは村の柵に沿って――って、そうか!」
動物は縄張りを持つ。その中で糞尿をして、自分の縄張りだと主張する。
これはクマや狼も同じ。
この鑑定指輪を使えば、危険な動物がどの辺りを徘徊しているか、その範囲がわかる。
蟻だってそう。蟻はうんこを巣穴のすぐ傍に捨てる。
魔物のジャイアントアントであってもその習性は同じ。潜るべき巣穴の入り口が一発で分かる。
それは人間だって同じだ。一日一度は排泄する。
もし村を襲おうとしている山賊がいても、隠れ家に住んでいても、そのすぐ傍でうんこをするだろう。
うんこの場所がわかれば、どこに住んでるのか、何人ぐらいの集団か、この指輪だけで分かってしまう。
もし相手が軍隊や騎士団なら、人数や部隊配置までわかってしまう。
僕は思わず独り語ちる。
「あれ? ネタアイテムに見えて、ガチで使える指輪じゃないか、これ?」
生き物はうんことの関係性を切れない。
うんこの場所と名前がわかることで、居場所も目的も知ることができる。
僕は指にはめた指輪を眺めてしばし黙考する。
そして結論を出した。
「うん、この指輪は使い道がある。売るのはもったいない」
『鑑定:うんこ』を売るのはやめて、当分しまっておこうと考え直した。
――あと、農夫のアーバインさん、強く生きて。と合掌しながら祈った。
そんなことを考えているうちに冒険者ギルドまで来た。
中へ入ると相変わらずゲイルしかいない。
僕は掲示板の前まで行って、依頼を眺めた。
「おっ、やっぱりある」
明日になるかと思っていたけど、すでに薬草採集の依頼が出ていた。6束分。
一束多いと思ったけど、そう言えば死にかけたときにポーション1本使って治療してくれたんだった。
紙を持ってカウンターまで行く。
冒険者カードともに、薬草の束と依頼の紙を出した。
「これでお願いします」
「ちゃっかり採集してきたのか。気が利くな」
ゲイルは感心しつつ依頼の処理をした。
手を動かしながら僕へいう。
「で、どうだったよ?」
「どう、とは?」
「ダンジョンだよ。レアなアイテム拾えたか?」
「あ、はい。――これとか、これとか」
僕はカウンターに『流血の半月刀』や『神秘のロザリオ』を置いた。
ゲイルが目を見開く。
「なかなかいいじゃねぇか。ロザリオなんてユニークだな」
「他にもレアな効果の付いた装備品があるんですけど、ギルドで買い取りってできますか?」
「悪ぃな。効果が付いてるようなのは、道具屋に売ってくれ」
「わかりました」
それから依頼処理が終わって、報酬の6000ゴートを受け取ると、ギルドを出た。




