第40話 レアアイテム回収しながらレベル上げ
地下三階は通路の幅も天井も高くなっていた。
道幅は15メートルぐらいだが、歩けるのは半分程度。
水たまりのような川が流れていて、モンスターが徘徊している。
黒や灰色の毛色に覆われたネズミが出る。
ドブラットやシティドブラットだった。
体格が大きく獰猛で、鋭い前歯で鉄でも何でも切り裂いて食べる。
ドロップが最悪でドブラットは『腐敗した○○』しか落とさない。
薬草も肉も全部腐っていて食べると病気や毒状態になる。
シティドブラットも似たようなものだが、高価な装飾品を落とすことがある。
それだけが救い。
ドブラットたちはだいたい通路の水辺側か水中にいて、近くを通ると飛び掛かって来るので注意が必要だった。
――が。
わかっていながら僕は透明や消滅を発動せずに、毒竜の蛇剣を構えて通路を歩きだした。
周りを警戒しつつ歩く。
すぐにズバッと水面を割って、ドブラットが飛び掛かってきた。鋭い前歯がギラっと光る。
僕は剣を振るって長く伸びた刃先で切り裂いた。
「ぎゅっ!」
どくろのエフェクトが発生し、詰まったような悲鳴とともにドブラットが床に落ちて死んだ。
すぐに別の水面からも二つ、黒い塊が飛び掛かってきた。
僕は体を回転させつつ、伸びる剣を鞭のように振るって迎え撃つ。
空中で切り裂かれたネズミは断末魔を上げて水面に落ちた。
でもまた次の敵が――。
斬っては倒しを繰り返して戦い続ける。
一度、背後から不意を打つような攻撃を受けて、鋭い爪が横腹を掠めた。
冷や汗をかきつつ、剣で切り捨てる。
焦るのもそのはず。
ドブラットは攻撃力が150~200、シティドブラットに至っては攻撃力が300~400ぐらいある。
レベルがまだ10台程度で装備もろくに整っていない初心者だと、一撃で死ぬ可能性が高かった。
僕もシティの方だとクリティカルが出たら死ぬ可能性がある。
じゃあなぜ戦うのかと言えば。
ドロップが期待できず、死ぬほど強い。
敵としては戦う意味がなさそうだけど、その分経験値が多かった。
僕は昨日のゴールデンキングラットでLv27になり、今日の地下一階と二階の戦いでLv28になっていた。
でも地下三階にいるダンジョンボスと戦うには、まだ足りていなかった。
特にソロで倒すつもりなら、Lv30が絶対必要だった。
ボスはカピバラが大きくなった『グレートカピバラン』という魔物でレベルは30。
こいつが『地揺れ地団駄』というスキルを使ってくる。
大きな巨体で地団駄を踏むと地面が激しく揺れて、しばらくの間自分のレベル未満――つまりLv29以下――は完全行動不能(スキルも移動もアイテムも使用不可。魔法や装備のバフ効果も消滅)に陥るという、厄介極まりないスキルだった。
ボス自体は強くないものの、回避も逃亡もできない状態でタコ殴りにされたらさすがに死ぬ。上級者でも死ぬ。
だからレベルを30まで上げる必要があったのだ。
ドブラットは危険だけど、経験値がおいしい。
今までの感触だと、一時間もすれば30になれると思っていた。
それにただレベル上げをするだけじゃない。
通路を移動しているのはこの階層にある宝箱を目指しているため。
宝を回収しつつ、レベル上げ。
それが僕の狙いだった。
通路を歩きながら戦っていく僕。
しかしまあ、今まで誰も訪れていない弊害か、一歩歩くたびに敵が襲ってきた。
川の中にはものすごい数がひしめいていそうだった。
蛇剣を振り回して撃退していく。
時々、『アクロバット』や『ジャグリング』が発動して冷や汗をかいたりしながら。
結果、一つ目の宝箱がある部屋たどり着いたときには、レベルがすでに29になっていた。
「いい調子だ」
レベルが上がってSTPを全部運に振る。
それから部屋に入った。
部屋の中には剣を持ったヌートリアンがいた。5匹ほど。
上位種の『ヌートリアン・ソルジャー』だ。
剣は使わずキックやパンチのままなのも一緒。
蛇剣を振って倒す。
そしたら杖が出た。ユニークだ。
『祝福の杖 攻撃力+80 回復 魔攻80% 魔防80% 智慧比率上昇×2 スキルレベル+1』
魔法職にはなかなか良い品。
さらに回復職でなくとも、回復魔法の『回復』が使えるようになるから、魔術師なんかには嬉しい装備。
それに指輪と違って、武器と防具は素材を使って強化できる。
『天使の杖(領域回復)』『大天使の杖(蘇生)』にランクアップしていく。各種数値も二倍三倍となる。
賢者にとっても悪くない装備だった。遊び人は杖を装備できないから意味ないけど。
でもなあ。
回復や領域回復は賢者になると自分で覚えられるから、意味のない効果となってしまう。
それならば唱えた魔法がもう一度発動する『やまびこの杖』のほうが最終装備だろう。
「まあ、しまっとこ」
結論を先伸ばしにして、さらにマジックボックスに入っていたアイテムを確認する。
ノーマルレアの『流血の半月刀』があった。
『流血の半月刀 攻撃力+45 出血ダメージ 攻撃速度15%』
そこまで強くない武器だけど『出血ダメージ』という、与えたダメージの数割分を持続的にダメージとして与える効果がある。
さらに強化すれば『血塗れの月夜』というユニーク武器になり、攻撃速度が90%に跳ね上がる。
中級の片手剣士や盗賊にうってつけな武器になる。
「でもイーリスもさすがに要らないかな。売ってしまおう」
ついでに今まで集めてきたアイテムを確認する。
ドブラットからのゴミで埋まっていたので、部屋の隅に捨てる。
装飾品では『虫の知らせ』というノーマルレアのイヤリングが手に入っていた。
『虫の知らせ 気配探知 回避12% 運+7』
パッシブスキル『気配探知』が使えるようになる。遊び人にはないスキルなので嬉しい。
しかも耳の枠に板状の輪っかを嵌めるイヤリングで、男女兼用だった。
なので装備する。何気に回避が上がるのも嬉しい。
それに魔結晶とミスリルがあればユニークに強化できた。
今はかなりの数のノーマルのミスリルリングを拾っている。
オイゲンさんは魔具鍛冶師だけど装飾品も強化できただろうか。できるなら楽しみだ。
さらに指輪ではユニークが出ていた。
僕は棒読みで喜ぶ。
「わーい、ユニークだ―」
『マジカルリング 知力+25 知力比率上昇×2 魔攻25%』
魔法職の最終装備の一つ。賢者には必須な指輪。
――でも2個目。
すでに手に入れているので無意味です。残念!
てか、考えないようにしていたのに。
ユニークで欲しかったのは運が上がる『ハピネスリング』。
ものの見事に物欲センサーに引っかかってしまったようだ。
こりゃ当分、運以外の三種のユニーク指輪ばかり出そうだと思った。
その後も整理をしながら思う。
「なんか急にユニークやノーマルレアばっかり落ちてる?」
ふとステータスを見ると、運の表記がBに変わっていた。
えっ! 301を超えた?
どうやらレベル29になって超えたらしい。
表記が変わる前後では、体感で倍ぐらいドロップ率が変わる。
これは……今日も帰りに大広間で指輪狩りをしないと!
僕は指輪狩りの収穫を想像して今からわくわくしつつ、部屋を出そうになった。
「おっと、宝箱」
宝箱に近づいて開けると普通のヒールポーションだった。
いや、本来はこれが出るダンジョン。今までがおかしかった。
気を取り直して、部屋を出た。
すぐに気持ちを引き締める。
部屋から出たとたん、またうんざりするドブラットとの戦いが始まったからだった。




