第38話 イダテン!
ネズミダンジョン地下一階。
僕は宝箱を回収するため、最奥のあたりまで来ていた。
目当ての部屋に入る。広い部屋の中には棒を持ったヌートリアンとハリネズミがいた。
――ハリネズミは厄介だ。
全身が長く鋭いとげに覆われていて、近接攻撃をするとカウンターで反射ダメージを喰らってしまう。
遠距離で攻撃するしかない敵だった。
まあ僕には毒竜の蛇剣があるから問題ないけど。剣ながら長距離攻撃扱いだ。
魔物たちは、ぽつぽつと離れて点在していた。全部で10体ほど。
部屋の奥には大き目の宝箱があった。
「さあ、敵が来たぞ! 戦え!」
僕は叫んで注目を集めつつ邪剣を振るった。広い部屋を早い足取りで駆け抜ける。
攻撃態勢を取って、魔物の方から寄ってきてもらうためだ。
密集させて攻撃した方が即死や毒ダメージで一気に倒せて効率がいい。
集まってきた魔物たちを、毒竜の蛇剣で薙ぎ払う。
「きゅい!」「ぎゃぎゃっ!」「ぎょわ!」
どくろのエフェクト共に、次々と断末魔の声を上げて倒れていった。
戦闘自体は一分もかからず終わった。
ヌートリアンから『魔結晶』が一つ、ハリネズミから『スパイクシールド』が出た。
魔結晶は実家で見たことがあった。
小指ぐらいの太さ大きさで、六角柱の水晶のような形をしている。
魔道具に魔力を供給するアイテムだった。
まあ、いわば魔力の電池みたいなものだった。
魔力が多い人なら再充填可能で、そのための使用人を専属で雇っていた。
魔結晶は意外とレアなアイテムだった。さらに色が付いていると激レアとなる。
逆に魔石は再充填不可の使い切りアイテムとなる。
家で見た魔道具を思い返して、ちょっと懐かしいとも思った。
もう一つのドロップ『スパイクシールド』はとげとげのついた盾だった。
『反射』が付いていて、受けたダメージを何割か相手に返す。
――って、この盾『魔法反射』の効果も付いてる!
物理攻撃と同じように、魔法攻撃のダメージも何割か相手に跳ね返すようだ。
……意外といい品かもしれない。
MISOでは全身を『自動回復』と『反射』で装備を固めて、放置狩りする人もいた。そういう特殊な狩り方をする人には需要があるだろう。
遊び人は盾を装備できないけど。
――ゲームだとできないけど、現実にはどうなるんだろう?
手に持って構えるぐらいならできるし。
試しに装備してステータスを見た。
でも、せっかくの『反射』『魔法反射』がステータスの装備スキルの欄に反映されてなかった。
「やっぱダメか」
ちょっと残念に思いつつ、スパイクシールドをアイテムボックスにしまった。
念のため持ち帰ることにした。
それから部屋の隅にある宝箱に近寄った。
特に期待してはいなかった。革製品か、鉄の武器だから。
下級ダンジョンだし、強化されていてもそんなにいいものは出ないだろう。
――が。
宝箱のふたを開けたとたん、目を見開いた。
真っ赤な色をした皮のブーツが入っていた。
見た目からしてノーマルの品と違う!
もう何かは知識で知っているけど『鑑定』を発動させて確認を取る。
そしてガッツポーズした。
『イダテンブーツ 防御+8 移動速度100% 移動速度50% 移動速度25%』
移動速度が175%も上がる、移動速度に特化したアイテム。
戦闘にはあまり効果がないけど、移動が大幅に短縮できるので欲しいアイテムの一つだった。
MISOでは移動速度が500%も上がる課金アイテムがあった(一ヵ月3000円)けど、フィールドでしか使えなかった。
ダンジョン内や建物内では普通に歩いたり走ったりするので、イダテンブーツは需要があった。
「いやー、これで探索がグッと楽になりますよ。他の装備と合わせたら実に3倍の速さですよ、3倍!」
僕は嬉しすぎて、誰もいないのにニヤニヤ笑いながら解説口調で言った。
もし3倍になるのなら、歩きは時速15キロぐらい、走りは時速50キロぐらいになるはず。
バイクや車並みの速さだ。
僕は頬を笑みで緩ませつつ宝箱に座り、さっそく靴を履き替えた。
……そう言えば、靴はずっと家から履いてきたままだった。ただの革靴はすでにぼろぼろだ。
捨てるのに忍びないので「お世話になりました」とお礼を言って、アイテムボックスにしまった。
赤いブーツを履いて立ち上がる。
トントンと床をつま先で叩いて履き心地を確認する。
「うん、いい感じ」
そして試しに歩いてみる。
いつも通り歩いただけなのに、ぶわっと周囲の景色が後ろに流れて、目の前に部屋の壁が迫った。
「はっやっ!」
そして僕は立ち止まって黙り込む。
早さとは別の問題に気付いたからだ。
……なんか気持ち悪い。どこかおかしい気がする。
歩いてるだけなのに走る速度というのが気持ち悪いのだけど。もっと根源的な原因がありそう。
――なんだろう?
もう一度、今度は一歩だけ歩いてみる。
すると、一歩の歩幅は75センチぐらいなのに、一歩分のモーションで3メートルぐらい進んでいた。
床を滑るように前進している。
これが気持ち悪さの原因だった。
しかもこれ、僕はまだいいけど。
本人すら気持ち悪いと思うのだから、周りで見てる人がいたらとても気持ち悪いと思われてしまうのではないだろうか。
滑るような歩きで、しかも高速で接近してくる男。
――ちょっとした魔物だよね。
夜中に道の正面からそんなのが近づいてきたら悲鳴を上げる自信ある。
ゲームだと気にしなかった仕様が、現実になると変になるなんて。
「……まあいいか」
当分は村暮らしだし、ちょっとひそひそ噂話されるぐらいだろうから。
ダンジョンでは人目を気にしなくていいんだし。
僕は気を取り直して部屋を出た。
地下一階の宝箱は取りつくした。
次は地下二階だ。
ついでに平らな通路を走ってみる。
風がびゅうっと顔に当たって、黒髪が激しく乱れて後方へ流れた。
「はっや!」
バイク並みの速さ。僕が前世で乗ってた原付より確実に早い。
風が顔に当たって気持ちいい。ただ曲がり角がちょっと怖いけど。
速さを実感して楽しみつつ、僕は下へと降りる階段を目指した。




