第36話 指輪のプレゼント
村の朝。
僕は依頼の処理を終えてギルドを出た。
道具屋へゆっくりと向かいながら、アイテムボックスの指輪をさらに見ていく。
ジュエルラットから手に入った100個の指輪をまだ全部調べられていなかった。
「おっ。『鑑定:人』が付いた指輪だ。MISOじゃゴミだけど、この世界じゃ国宝級の指輪だよね」
「ふむん。攻撃速度15%に筋力+10付いたウォータリング(水攻撃+8~10 水抵抗13%)があるぞ。MISOなら2000万ゴートで売れるはず」
「ほほう! こっちはファイアリング(火攻撃+15 火抵抗20%)に火抵抗25%ついてる! 500万ゴートでも即売しそう」
ジュエルラットはノーマルレアの指輪である『ファイアリング』『ウォータリング』『ウインドリング』『アースリング』が確定で落ちる。
そのため、効果が付いただけで百万以上の価値のある指輪がごろごろ手に入っていた。
ただちょっと困ったことにもなった。
数値が1違うだけで、アイテムボックスの枠を一つ取ってしまう。
アイテムボックスを整理しても、半分ぐらい指輪で埋まってしまうことになった。
「う~ん、困った。どうしよ?」
「どーしました? ユートお兄ちゃん? 困っちゃったんですか?」
道具屋の入り口になぜかソフィーが立っていた。
華奢な体ごと首をかしげていたため、黒髪がサラッと横に流れた。
そんな可愛い妹分に苦笑しつつ答える。
「うん、ちょっとね。捨てられないアイテムがいっぱい手に入ってさ」
「ありゃま。確かに、冒険する前から荷物がいっぱいだと、困っちゃいますね」
親身になって困惑顔になるソフィー。
そんな可愛い顔を見ていたら、名案が浮かんだ。
「あ、そうだ! ソフィー、お願いがあるんだけど?」
「なんでしょー?」
「まずは大きくて頑丈な袋を二つ売って欲しい。それから今はいらないけど将来必要になるアイテムを、預かっておいてくれないかな?」
「むむっ。あんまり場所を取らないなら、できると思いますけど……」
「アイテム自体は全部小さいから、大丈夫だよ」
「わかりました! 袋はこっちに売ってます!」
ソフィーに案内されて道具屋に入った。
日用雑貨の棚に、麻の袋や皮の袋が置いてあった。
僕は『鑑定』で丈夫な袋を選びつつ、約100個の指輪が全部入った上で余裕がある大き目の袋を選んだ。
「いくらぐらいだろ?」
「大きい袋は両方とも1000ゴートですよ」
「じゃあ、ヒールポーションと一緒に買うよ」
僕は別の棚まで行くと、ヒールポーションを5本手に取ってカウンターへ向かった。
ソフィーが素早く回り込んでカウンターの中で接客をする。
「じゃ全部で1万2000ゴートです」
「はい、これ」
金貨一枚と大銀貨一枚を出した。
いそいそとカウンターの下にしまうソフィー。
僕は狩ったばかりの袋に、アイテムボックスから指輪を出して流し込んだ。
ただ、3つだけ別にして。
袋の口を縛ってからソフィーに差し出しつつ言う。
「じゃあアイテムを預かってくれるお礼に、指輪をあげるよ」
「えっ、そんな! ――指輪だなんて……」
ソフィーは恥ずかしそうに、平らな胸の前でもじもじと指を交差させた。
確かに、と僕は納得する。
「気に入るデザインじゃないかもしれない。恥ずかしくなるような指輪だったら、ごめんね?」
「いえ! ユートお兄ちゃんがくれる指輪なら、どんな指輪だって大切にします!」
ソフィーは長いまつ毛の目で激しく瞬きしながら、感極まった声で宣言した。
僕は頷いてアイテムボックスから指輪を取り出す。
「じゃあまずこの指輪――」
手渡そうとしたら、ソフィーはなぜか左手の手の甲を上にして僕に差し出してきたので、なんとなく手を取って人差し指にはめた。
ソフィーが赤い瞳を潤ませて、甘えるような声で言う。
「わぁ……素敵な銀の指輪です。ユートお兄ちゃん……」
「うん『鑑定:物』が付いてるから、道具屋として役立つと思うよ」
「え?」
「続いてこれ」
僕は二つ目の指輪を左手の中指にはめた。
なぜかソフィーが戸惑う。
「え? え?」
「これは『呪い抵抗25%』が付いてるから、自分のスキルが暴走しなくなると思う――最後はこれ」
ソフィーの左手の薬指に、少しごつい金の指輪をはめた。
「これ『鑑定:犬』だって。犬の種類がわかるようになるから何かに役立つかも?」
「……」
さっきまで喜んでいたはずのソフィーが、なぜか無言のままジトッとした目で僕を見てきた。
――ちょっと怖いんですけど。
でも『鑑定:○○』なんて流通してないし、この世界ではどれも国宝級のはず。
お願いの報酬としては十分なはずだった。
ソフィーの変な態度に戸惑っていると、はぁっと呆れたような溜息を吐かれた。
「わかりました。これが報酬なんですね?」
「うん、そうだよ?」
「じゃあこの袋に入った指輪は責任を持って預かっておきますから、ご安心ください」
とても礼儀正しく、むしろ慇懃無礼なぐらいの態度でソフィーは言い切った。
これでよかったはずなんだけど、僕はもやもやした気持ちを抱える。
納得がいかないまま、ポーションをアイテムボックスにしまって店を出た。




