第3話 死の森で死闘!
本日3話目。
僕は崖下にある死の森の縁にいた。
茂みから灰色の巨体が現れたところだった。
慌てて僕は立ち上がる。
サイコロナイフを手に取って構える。
でも、絶望的だった。
茂みを掻き分けて現れたモンスターはイノシシ。
でもただのイノシシじゃなかった。
ゲームで見覚えのある敵。灰色の固い毛に覆われ、ナイフのような鋭い牙を持つ。
「タイラントボアかよ……」
イノシシ系のモンスターの中でも、中級上位に属する敵。
攻撃力が高い上、突進のスキルがやっかいだった。
ソロだとミスればAランク冒険者でも死ぬ可能性がある敵。
レベル1の遊び人では勝てるはずがない。
座り込んで考えてる場合じゃなかった。
さっさと死の森から逃げるべきだった。
でも、もう遅い。
今やれることは――逃げてタゲ(攻撃ターゲットの略)を外すこと。
僕はナイフを構えて後ずさりしつつ、遊び人が初期から持つ補助スキルである『みかわしステップ』を発動させた。
スキルレベル1では回避率5%しかないけれど。
しかしタイラントボアは前足で地面を掻いた。
――来る!
次の瞬間、岩のような灰色の巨体が一直線に向かってきた。まるで飛んでいるようだった。
――早すぎる!
「うわっ!」
僕は悲鳴を上げつつ、体をひねった。
地面に倒れ込んで、ぎりぎりで攻撃を避けた。
しかし起き上がろうとした途端、タイラントボアが方向転換して向かってくるのが見えた。
――終わった。
と思った瞬間、倒れている体勢なのにもかかわらず、体がコマのように半回転して攻撃をかわした。
――みかわしステップが発動した!
「助かった! ――うわ!」
駆け抜けたタイラントボアが、またすぐに駆け戻ってきた。
僕は横に飛んで突進を交わす。
そのまま勢いで逃げ出したけれど、すぐに横に倒れ込んだ。
背後から来たタイラントボアが目にもとまらぬスピードで駆け抜けていく。
――ダメだ。敵が早すぎる! 逃げ切れない!
戦うしかない!
ただ『鑑定』がないから正確なステータスがわからない。
しかし僕はMISOを十年もやった。ステータスもスキルツリーもアイテムも、ほぼすべて覚えている。
タイラントボアのステータスやスキルを思い返す。
確か攻撃力800防御力150、HPは1500ぐらい。
スキルは『突進』と『全力突撃』がある。
おそらく攻撃力15ぐらいの僕では1ダメージも通らない。最低でも防御力の半分以上あれば1ダメージは入るけど。
でも今、3回かわした。あと1回かわせば……。
僕は初期装備の袋から課金アイテムの『フォーチュンクッキー』を出して食べた。
五分間、運を+777にするアイテム。3個入りで500円。
なんで馬車の中で一個食べてしまったんだ。めちゃくちゃもったいない。
でも僕の運の初期値がわからないが、24以上だったら運が801になる。
そうすれば致命打や回避、ランダムスキルに大きな補正が付く。
タイラントボアが突っ込んでくる。
――頼む! 『みかわしステップ』発動してくれ! かわせ!
僕はサイコロナイフを構えつつ、タイミングを見計らって突きを出した。
タイラントボアの左目を狙いつつ、傾いていた体がぐりんと回転する。
――かわした!
さらに目を狙ったナイフが赤く光る。
ただの致命打じゃない、強致命打が出た!
ダメージ4倍。
そしてカラカラと音が鳴り、ナイフの柄に入った二つのサイコロが5ゾロの目を出した。
ダメージ+5だ!
基礎攻撃力が15だとしても、+5でさらに倍率4倍、80の威力。防御の半分だと1ダメージぐらい入る計算。
ただ目を狙ったから――。
「グガァァァ!」
タイラントボアが駆け抜けつつ頭を振って叫んだ。
左目が潰れている。
命中率50%低下が発生したはず。
しかしすごい速度で駆け抜けたので、追加攻撃はできなかった。
タイラントボアは潰れた左目から血を流しつつ、広場の隅で方向転換。
右目に怒りをみなぎらせつつ僕を睨む。
そして前足で地面を掻いた。
――きた!
『全力突撃』の準備モーション。
タイラントボアは攻撃が4回かわされると、5回目の攻撃では『全力突撃』を発動する。
前面の攻撃力が5倍で防御力は3倍になるかわりに後方の防御力が5分の1になる。
これが中級冒険者でも対処にミスれば一撃で死ぬ理由、捨て身の攻撃だった。
僕は後ろに下がりつつ広場の端まで来る。
「グラァ!」
タイラントボアが巨体から黄色い光を発しながら突進してきた。
僕はタイミングをはかってジャンプした。相手の後ろへ飛ぶように。イメージとしては軽自動車を飛び越える感じ。
しかしその瞬間、体が物理法則を無視して、ぐりっと宙返りした。
「嘘だろっ!」
思わず叫んでしまう。
ここで『アクロバット』発動かよ!
アクロバット中は当たり判定が大きくなる。というか最初に立っていた場所辺りまで当たり判定が残ってしまう。
当然、直進するタイラントボアの射線上にある。
最悪なゴミスキルであり、『遊び人』がゴミな理由。
しかもタイラントボアが時速百キロぐらいで突っ込んでくる。
左目から流れる血が帯を引く。
僕が着地する前に当たり判定を通過しそうだ。
――死んだ。完全に死んだ。
僕は諦めて体の力を抜いた。
その瞬間、ムーンサルトのように体がひねられた。
――みかわしステップが発動した!
僕は曲芸のようにタイラントボアの上を通過して地面に着地した。
そして間髪入れずにタイラントボアの後ろへ走る。
今は防御が5分の1になっているから、防御値は30前後。
クリティカルが発生するだけでダメージが通る。
そこへさらに、運マシマシのサイコロナイフがあれば――。
「でやぁぁぁ!」
僕は叫びながら、方向転換しようとするタイラントボアのケツに、突きを繰り出した。
ドスッと鈍い音ともに、腕に重みがかかる。
「グギャア!」
ケツにナイフを刺されたタイラントボアが首をのけぞらせて悲鳴を上げた。しばらく硬直する。
さらにカラカラと柄のサイコロが鳴って6ゾロが出る。
攻撃力+6だ。
――よし!
ゾロ目が出ている間は追加攻撃が発動する。
ただ、さっきは『突進』スキルを発動中だったから追加攻撃が発動しなかった。
でも今は足を止めている。このままゾロ目が出続ければ――ッ!
「やぁぁぁぁ――!」
僕は気合を込めて叫びながら、何度もナイフをケツに刺す。
「僕はケツを殺す暗殺者! ASS! ASS! IIIINNN!!」
3ゾロ、6ゾロ、2ゾロ、5ゾロ、刺すたびにナイフが白や赤に光った。
――さすが運801! 課金アイテムのフォーチュンクッキーのおかげ! 致命打が出まくりだ!
ゾロ目が連続で10回出たとき、攻撃力はおよそ50になっていた。
防御が30なので、20のダメージ。さらに途中で出た致命打や強致命打の倍率も加算される。
「これで終わりだ!」
僕はナイフを突いた。ズドンッという大砲のような音とともに、タイラントボアのケツが爆発した。
「グギャァァァ――ッ!」
タイラントボアが断末魔を上げて地面に倒れた。
その瞬間、体を燐光が包み、力が湧き上がった。
次話は明日更新
→「第4話 初めてのレベルアップ」




