第2話 短くも長い人生
本日2話目。
僕は崖から落下しながら、人生の走馬灯を見ていた。
僕は子供の頃から運動も勉強もできなかった。
小学校でも中学校でも底辺だった。(ん?)
志望校にも合格できず、Fラン大学をなんとか卒業した。(んん?)
就職先はブラックでサービス残業が多いのに給料は少なかった。
しかも仕事がうまくできなくて上司に叱責ばかりされた(誰の記憶だ?)
そんな僕の唯一の楽しみはオンラインゲームだった。
大学四回生の頃、卒論以外暇だったので、暇つぶしにダサい名前のMMORPG『MAGIC・SWORD・ONLINE(マジックソードオンライン・通称MISO)』を始めた。
そしてドハマりした。
僕は、現実では努力しても報われないことが多すぎた。
しかしゲームでは頑張れば頑張った分だけ成長できた。クランメンバーからも評価された。慕ってくれたし、頼りにしてくれた。それが何よりも嬉しかった。
結果、給料もボーナスも全額つぎ込み、空いてる時間はすべてゲームに費やした。
立派なゲーム廃人となり、サーバーでもトップ集団に所属していた。
RMTで百万円もするアイテムを購入したこともあった。
それぐらいハマっていた。
でもブラックな仕事と睡眠時間を削ってのゲーム。
廃人プレイは健康をむしばみ、僕はゲームをしながら意識を失った。
きっと死んでしまったのだろう。享年32歳ぐらい。もう自分の名前も思い出せない。
僕の人生は、MISOに捧げた人生だった――。
◇ ◇ ◇
僕は走馬灯から急速に覚醒する。
「えっ、僕は! この世界は!」
僕は焦りながらも、チラッと肩越しに地上を見る。
もう、すぐそこまで緑の木々が迫っていた。
――今は疑問を考えてる場合じゃない!
「遊び人なら、あのスキルで助かる!」
僕は神殿で渡された遊び人の初期装備の入った袋から、サイコロナイフを取り出した。
攻撃力は+6と低いながらも、ナイフの柄が透明になっていて中に六面体のサイコロが二つ入っている。
僕はナイフを右手に持つと、空中に向かって初期スキル『突き』を繰り出した。
柄に入ったサイコロがカラカラと鳴る。
――でも今はサイコロは関係ない! とにかくあのスキルを!
僕は夢中で突きを繰り出した。
ナイフは一番攻撃秒数が少ない。基本的に一秒間に二回、突きを繰り出せた。
しかし無情にも地上の木々が迫り来る。葉っぱの一枚一枚すら見えそうだった。
天に伸びる尖った木の枝に刺さる――ッ!
その瞬間、僕の体が宙を舞った。落下していた物理法則を無視して、くるっと宙返りする。
遊び人が攻撃時にランダムで発動するゴミスキルの一つ『アクロバット』。
遊び人のスキルツリーには入っている。
戦闘には何も関係が無いし、攻撃が避けられるわけでもない。
しかし今は落下速度が霧消して、僕の体はまた落下を始めた。
手を伸ばして木の枝を掴む。
しかし枝が折れて、僕は大木の枝を何本もへし折りながら地面へと落下した。
ドンッと地面に尻餅をつく。
「痛ってぇ!」
でも枝がクッションとなってくれたため、痛みはあるけど大きな怪我はなかった。
『アクロバット』は何の役にも立たないが、高所から落下したとき、タイミング良くスキルを発動させれば落下ダメージを無効化できた。仕様という名のバグらしい。
僕は荒い息を繰り返して息を整えつつ、胸に手を当てる。
「た、助かった」
気が抜けて地面にへたり込んだ。
空を見上げる。木漏れ日の向こうに見える崖の上に、もう人影はなかった。
――まさか遊び人になっただけで殺されるなんて。
僕は死んだと思われたかな。
「むしろ好都合かな?」
職業が遊び人だっただけで殺そうとする家族なんて、もうどうでもいいと思えた。
貴族としての僕は複雑な気持ちではあるけれど、前世の記憶を思い出した成果、冷静に受け止めていた。
「それよりも今はイーリスだ」
イーリスを助けなくては。
そのために今後どうするか計画を立てなくてはいけない。
いろいろと疑問もある。
でも今、前世の知識を思い出した。それに加えて貴族として学んだこの世界の知識を比較していく。
記憶と知識が混ざっていく。
思わず、僕は叫んでしまう。
「この世界、設定はMISOと一緒だ!」
そして僕のすべき道筋が見えていく。
MISOの『遊び人』は、激レアキャラだった。
しかもゲーム開始時の初期ランダム職業でしかなれない職業。転職の神殿やほこらでは、転職できない。
遊び人になるためには数千回のリセマラをしなくてはいけなかった。人によっては一万回やっても遊び人になれなかったと言われていた。
もちろん遊び人は役に立たない最弱最低キャラだった。
ただ遊び人だけは唯一、上級職『賢者』になれる。
賢者はMISOで最強チートキャラであり、すべての武器とすべての魔法を使うことができた。
――もちろん僕はイーリスを助けるために賢者を目指す。
しかし問題もある。
賢者は強いが、それは高額な装備が整っていることが前提。
貴族の知識に照らし合わせると、この世界ではその装備がほぼ手に入らない。国宝級ですら力不足。
MISOではどうしたかというと、サブキャラが4人まで作れるので、運極振りキャラを作ってお金を稼いだ。
でもこの世界では僕は一人。サブキャラなんて作れない。
そもそも運キャラは死にやすい。ゲームでは何回でも死ねたけど、一度死んだら終わりの現実で運キャラをやるのは無謀と言えた。
実際、この世界は下級職ばかりだった。死んだら終わりなのだから、普通の人たちは無理をしない。年齢=レベルぐらいで育つ。
「でも、イーリスを助けて魔王を倒すためには、激レア装備を手に入れないと」
そう。イーリスは勇者になってしまった。
MISOでは勇者という職業は基本的にはなかった。
夏と冬に魔王討伐イベントがおこなわれて、そのときだけ勇者という職業がプレイヤーの中から選ばれた。
ということは勇者が現れた以上、魔王も必ず出現している。
MISOではイベント期間中に魔王を倒さないと世界が滅んだ。そして世界の半分の国とダンジョンが消滅し、次のイベントまで利用できなくなった。また魔物からのレアドロップもなくなる。
あまりにもペナルティが大きいので、みんな必死で魔王を倒すことに協力したものだった。
僕は口に拳を当てて考える。
「ただ貴族の知識では、勇者は国が保護して、ある程度強くなるまで育てるはずだ。だからしばらくはイーリスと会えないし、逆にイーリスは安全と言える」
――じゃあ、僕は何をすべきか?
今いる場所は、MISOのマップに照らし合わせると『死の森』のはず。
死の森は周辺でも中級のモンスターが出て、中心へ行くほど上級のモンスターが出る。
ちなみに中心には、星魔の神殿という上級ダンジョンがあるはずだった。
――今行くと100%死ぬから行かないけど。
「ここから抜け出して……いや、あのアイテムを先に取りに行った方がいいかな。そのためにはここを出てレベル上げを――」
その時だった。
近くの茂みがガサッと鳴った。
ハッとして視線を向けると、灰色の岩が茂みから出てきたところだった。
僕の血の気が一瞬で引いた。
次話は今日か明日。




