第1話 聖判の儀(プロローグ)
「転生重騎士」と「たたうら」が好きなので書いてみました。
「お前は我が家の恥さらしだ! 育ててやったのに、恩を仇で返しおって! 死んで詫びろ!」
春の明るい青空の下。
崖の近くの道の傍で、僕ことユートは、父であるディセンドロス・モド・コメス・ド・ラランティウムと家来たちに、崖の端まで追い詰められていた。
僕の背後には数十メートル以上ある崖が広がり、下から風が吹き上げてくる。黒髪と貴族の服が風で乱れ、中肉中背の体と普通の顔を風が撫でていく。
僕は、なにがなんだかわからなかった。
今日は15歳になったら判明する自分の『職業』を判定した帰りだったのに。
殺気立った雰囲気の中、僕は命乞いをする。
「ちょっと待ってください、父上! 聖判の儀で『遊び人』という職業を授かっただけではないですか!」
僕の言葉に、がっしりした体躯を豪華な貴族服で包んだ父は顔を真っ赤にして激高した。
「その『遊び人』が問題なのだ! 遊び人と言えばレアな職業ながら、ギャンブルや女遊びで家を破滅させる職業と言われている! 我がラランティウム辺境伯家として、絶対に存在させるわけにはいかない!」
「そ、そんな……っ! ただ職業を神から授かっただけなのにっ!」
「お前の存在自体が、貴族として恥だ! 死ね!」
父は大きく前に踏み込むと、僕の胸を力いっぱいドンッと突き飛ばした。
おそらく騎士スキルの何かだろう。あまりの速さに避けられなかった。
「え……っ!」
僕は驚きで目を丸くした。
――本当に殺されるなんて!
体を支えるものが何もなくなり、数十メートルはある崖下へと落ちていく。耳元で風がもの凄い勢いで鳴る。
視界には白い雲の浮かぶ青空が果てしなく広がっていた。
その景色が涙でぼやける。
――なんで……なんでこんな目に!
僕の人生はいったい何だったんだ!
好かれてはいないと思っていた。妾の子だったから。でもさすがに殺すなんて!
その瞬間、僕の脳裏に様々な映像が流れた。
これが、人生最後で見る走馬灯か……。
◇ ◇ ◇
大聖堂の色鮮やかなステンドグラスが朝日を受けて輝いている。
僕は幼なじみの村娘イーリスや村人、町人とともに聖判の儀を受けていた。
聖判の儀は、神から与えられた『職業』を判別する儀式。15歳になると受けられた。
名前を呼ばれては、白い僧衣を着た司祭の立つ祭壇の前に行き、水晶玉に手を当てる。
そうすると、自分の職業がわかった。
司祭の大きな声が大聖堂にとどろく。
「ユーティウス・プエル・コムス・ド・ラランティウムよ。前に!」
「はいっ」
僕は貴族なので一番に呼ばれた。
緊張しつつも、わくわくしながら祭壇へ向かう。
父は『騎士』、アレン兄さんは『魔法剣士』だった。
――僕もきっとすごい職業に違いない。
僕が祭壇の前に立つと、司祭が言う。
「ではユーティウスよ、水晶玉に手を」
「はい」
僕は水晶玉に手を当てた。その途端、水晶玉が虹色に光った。
「え?」
おお~、と大聖堂の後方にある参列席から、どよめきが起こった。
それもそのはず。虹色はレアな職業の証。
否応もなく僕の胸は高鳴った。
――しかし。
司祭の眉間に険しいしわが寄る。そして厳かな声で言った。
「そなたの職業は――『遊び人』じゃ」
「え!?」
「なんだと!」
後ろにある参列者席から怒鳴り声が響いた。
父が足を踏みならして祭壇へ出てくる。
「遊び人だと! そんなはずはない、我が家は武勇に秀でたラランティウム辺境伯だぞ!」
「しかし、水晶玉に表示された職業は『遊び人』で間違いありません」
「そんなバカな!」
「そんな……」
僕は呆然とした。
遊び人は超レアな職業だけど、戦闘でも日常生活でも役に立たない職業と言われていた。
しかし辺境伯は国境を守る任を国から与えられた家柄。一家全員、戦闘に優れていなければならなかった。
なのに遊び人――目の前が真っ暗になる。
司祭が咳払いをして促す。
「次が控えております、辺境伯よ」
「う、うむ! 来い、ユート!」
僕は父に引っ張られて参列席へと連れ去られた。居並ぶ人たちが僕へ向ける視線が痛い。
その間にも儀式は続く。
「次、ラーラ村のイーリス。前に」
刺繍を凝らした民族衣装的な晴れ着を着たイーリスが進み出る。僕の幼馴染だった。
情熱的な赤髪をしたイーリスが緑の瞳に心配そうな色を浮かべて僕を見つつ、祭壇へと歩いて行く。
そして水晶玉を触った瞬間、大聖堂内に青白い光が満ちた。
眩しくて目が開けていられない。
父も立ち止まって目を手で覆う。
「な、何事だ!?」
疑問に答えるかのように、焦りに満ちた司祭の声が響いた。
「ゆ、勇者だ! 勇者が誕生いたしました! ――騎士たちよ!」
司祭の声に、壁際に控えていた騎士たちが慌ててイーリスを取り囲む。
イーリスが赤髪を乱して僕へと叫んだ。
「ユート! なにこれ!」
勇者が生まれたら即座に保護する、と義務付けられていた。
なぜなら昔は聖判の儀も、司祭が村々を回って行っていた。だがしかし、過去に勇者と判明した途端、魔王四天王が襲いかかって殺されたことがあった。
次の勇者が生まれるまで十年かかり、その間にいくつもの国が魔王軍によって滅ぼされてしまった。
そのため、聖判の儀は騎士団の護衛の元、大きな町だけでおこなわれることになった。
騎士たちの叫ぶ声が聞こえる。
「早馬で知らせろ! 王都の第一騎士団を呼べ!」「それだけじゃ足りない!」「第二騎士団も応援を!」
イーリスが騎士たちに守られながら、大聖堂の奥へと連れ去られていく。
遠く離れてしまった僕を見てイーリスが手を伸ばす。僕を見る緑の瞳が切ない。
「ユートぉ! 絶対だからね、絶対一緒だからね!」
「絶対迎えに行くよ、イーリス――ッ!」
僕は入口へ向かう父に引っ張られながら、愛するイーリスに叫び返した。
その後、遊び人の初期装備が入った袋を渡されて、大聖堂を出た。
荷物を詰め込むように馬車に乗せられ、どこかに向かった。
領都内にある邸宅じゃないのは確か。他の町にある別荘にでも幽閉されるのかもしれない。
馬車の中、ぼんやりと初期装備の袋を見ながら考える。
なぜか袋に入っていたクッキーをポリポリと食べつつ。
イーリスが勇者。
それも当然だったかも知れない。
イーリスは出会った頃から『いい人』だった。
仲良くなった後は村のため、人々のために行動した。そんなイーリスに僕は付き合わされた。
村の近くに出来たゴブリンの巣を退治したり、山賊に襲われる商人の馬車を助けたり。
何度も死ぬかと思った。
僕が文句を口にすると、イーリスは素敵な笑顔で言った。
「だって、やらずに後悔するより、やって反省した方がいいでしょ?」
そんなイーリスのまっすぐな優しさに、僕は一緒に行動するうちに惹かれていった。
僕は貴族とは言え、妾の子。兄に何かあったときのスペアとして育てられただけ。
家に居場所がなかった。しつけという名の暴力も頻繁に受けた。
暇なときには領都近郊にある村へ出掛けるようになり、イーリスと知り合った。
優しいイーリスの隣が心地よかった。
イーリスも最初は僕に同情し、そして友達以上に仲良くなった。
いつしか愛の言葉を伝え合うようになった。
聖判の儀が終わったら駆け落ちしよう、他の国で冒険者になろう! と誓い合うぐらいに。
イーリスだけが僕の生きる希望だった。
――それなのに。
◇ ◇ ◇
「イーリス――ッ!」
最愛の人の名を叫びつつ、僕は空を落ちていく。
崖下の森林へと向かって落ちていく。
――ああ、死んでしまう。
その時、また脳裏に走馬灯が浮かんだ。
本日2話か3話、更新予定。




