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道化の僕が勇者の君を救いたい~追放された転生遊び人はゲーム知識で無双する~  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第28話 試し切り


 次の日の朝。

 僕は宿屋の自室で目を覚ました。いつもより少し時間が遅い。

 朝食の時間は終わってしまったかな? と思いつつ、いつもの祈りを済ませた後、一階の食堂に降りた。

 するとカウンターにマーサがだらしなく座っていた。こめかみを抑えつつ、ちびちびと水を飲んでいる。


「おはようございます、マーサさん。朝食は終わりました?」


「作ってもいないよ。厨房に昨日の晩の残りがあるから、それですませといて」


「はい」


 何か言いたかったけど、機嫌の悪そうなマーサさんに何か言うのは悪手だと考え、素直に返事した。

 それから厨房に入ってパンに切れ込みを入れて猪の角煮を挟んで食べた。

 甘辛いタレがパンに滲みておいしい。



 軽い朝食を終えると、僕は宿を出た。

 ――さあ、今日からはレベルとアイテムを稼ぎまくるぞ!


 そんな決意を秘めつつ、通りを挟んだ向かいにあるギルドへ歩いた。

 すると道を箒で掃くソフィーと出会った。

 道具屋は宿屋の隣だけど、かなり宿屋側まで来て掃除している。


 ソフィーは僕を見て、はにかむ笑顔で言う。


「おはようございます、ユートお兄ちゃんっ」


「おはよう。朝から綺麗にしてるなんて、ソフィーはえらいね」


「綺麗だなんて、そんな……」


 ソフィーは箒を両手で抱きしめて身をよじった。

 テレテレと照れて頬を染める態度が、小動物のようで可愛らしい。

 ――いや、掃除してることを褒めたんだけど……容姿を褒めたと間違われるとは。


 それにしても。

 いつも店の奥のカウンターにひきこもっていたはずのソフィーが外に出てるなんて。

 心情が良い方向へ大きく変わったんだなと思った。

 そんな変化が嬉しい。



 僕も笑顔で言う。


「じゃあ、行ってくるよ」


「はいっ。お仕事頑張ってくださいっ」


 可愛い笑顔で見送ってくれた。

 何気ない朝の挨拶だけど、心がポカポカと温まる心地がした。


 こんな可愛い妹、一家に一人欲しい。

 間違っても「くそ野郎の唐揚げの方が大きくて、超ムカつくんですけど?」とか言ってくるギャルの妹はいらない。

 ――あれ? これも前世の記憶か? 実の家族? それとも何かの作品か?


 何の記憶だったか判然としないまま、ふらふらと歩いてギルドに向かった。



 冒険者ギルドに入ると、相変わらずの人気のなさだった。

 ゲイルがカウンターにボーっと座っている。無精ひげが一段と濃くなっていた。


「おはようございます、ゲイルさん」


「……うぃ」


 えずきか返事かもよくわからない返事をされた。

 気にせず掲示板の依頼を見ていく。

 昨日とほとんど変わりはなかった。


 僕は『薬草採集』と『毒消し草』と『星月草』の採集。

 あとは『ブッシュボア討伐』の紙を選んで手に取った。


 ゲイルの所まで行き、依頼の紙と冒険者カードを出す。

 ほとんど死んでいるゲイルが、言葉もなくのろのろと動いて依頼を処理した。

 それとは別に2万ゴートがカウンターに置かれた。


「え? これは」


「買い取り」


「あ。昨日の査定の残りですか。ありがとうございます――では、行ってきます。戻るのは明日になるかもです」


「……」


 ゲイルはカウンターに突っ伏してしまい、返事は聞こえなかった。

 僕はギルドを出ながら、飲み過ぎには注意しよう、と秘かに思った。



 村を出て、南東の森へと向かう。

 僕は毒竜の蛇剣を手に持ちながら歩いていた。

 陽光を受けて黒光りする刀身。

 新しい武器を試したい気持ちが募っていた。


 途中見つけた畑ネズミに対して蛇剣を振るう。

 鋼糸で繋がった刀身が長く伸びて、鞭のようにうねる。

 そして切っ先がネズミを掠めた。遠心力が弱まると手元で剣に戻る。


「キキーッ!」


 鋭い声を発して、ネズミが僕へと向かってくる。

 しかし辿り着く前に毒ダメージで地面に倒れて死んだ。

 死骸が解体されながら、各種素材としてアイテムボックスに収まる。


 僕は黒い刀身を眺めつつ、ニヤつく。


「圧倒的に強いわ、この剣。うふふ」


 自分でも気持ちの悪い声だなと思いつつ、ニヤける声が止まらなかった。



 その後、森を進みつつ薬草と毒消し草を採集した。

 群生地は覚えているので、少し回り道しただけで一時間もかからず終わった。

 それから森の中をさらに奥へ向かって歩く。


 途中、ブッシュボアを見つけたのでサクッと倒す。

 さらに奥へと向かう。



 森に入って二時間後。

 僕は森の中の岩山にあるダンジョンの入り口近くまでやってきた。

 MISOの記憶では、ここに通称ネズミダンジョンがあった。出てくる敵の大半がネズミ系のモンスター。


 しかし鬱蒼とした緑に覆われている山肌にはダンジョンの入り口が見当たらない。


「えっ!? まさかダンジョンが存在しない!?」


 もしネズミダンジョンがなかったら、予定が大幅に狂う。

 僕は焦りながら、枝を打ち、藪を払って辺りを探した。



 数分後。

 蔦と茂みに覆われた空洞を見つけた。


「ああ、よかった」


 そうか。

 冒険者がいなくてダンジョンに誰も出入りしていないから、草木で覆われてしまったのか。

 自然の生命力の強さに呆れつつ、僕はダンジョンへと入っていった。


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