第27話 絶体絶命の、その後
本日2話目。
夜の村。
明かりの灯る道具屋で。
僕は痛む体をさすりつつ、床に正座している剣聖ゲイルと怪盗マーサと魔女クラリッサを見下ろしていた。
近くのカウンターでは、上に立ったソフィーが腕組みしつつ仁王立ちしていた。
ソフィーは泣いて腫れた目を釣りあげて怒っている。
「なんてことするんですか! ユートさんは恩人なのに! 謝ってください!」
「正直すまんかった……」「悪かったわね……」「あれだけ泣いてたら、心配するじゃろ……」
英雄三人に寄ってたかって攻撃されたが、何とか『みかわしステップ』が発動して、致命傷だけは避けることができた。
そして乱闘になった状況に、ソフィーがもう一度『不調領域』を発動させて、その場を収めたのだった。
――いっぺんにソフィーのことが好きになった。
僕は肩をすくめつつ言う。
「まあ、誤解は解けたからいいですよ、もう。それよりソフィーちゃんのスキルはもう自在にオンオフできるようになりましたから、安心してください」
僕はすでに呪術師の事や、パッシブスキルのオンオフの仕方を説明していた。
「まさか、そんな呪文があったとは」「すごい知識だわね……」「わしも知らん方法があるとは」
三人は恐縮しながらも感心していた。
ソフィーが睨みながら言う。
「じゃあ、今後はもうユートさんをいじめないでください! いいですね!」
「「「はい」」」
三人は背筋を伸ばし、声を揃えていい返事をした。
僕は言う。
「申し訳ないですから、もう立ってください」
ゲイルがすまなそうに背を丸めて立ち上がる。
「いや、ほんと、悪かったな」
「いいですよ、もう。わかってもらえたので」
マーサとクラリッサも立ちあがる。
クラリッサは黄色く濁った眼で僕をまじまじと見てくる。
「しかし、どこで知ったのじゃ? 長く生きておるが、聞いたこともない方法じゃて」
「生まれ育った環境が、職業やスキルに詳しい家柄だったので。ということにしておいてください」
僕の言葉にゲイルが肩をすくめる。
「まあ、冒険者はいろんな過去を持ってるもんだ。詮索はしねぇよ」
マーサが僕へと笑顔を向ける。
「お詫びに今日の夕飯はおごるよ」
「おっ、いいな。ついでに今からみんなでお祝いするか!」
「なんの祝いじゃ?」
「そりゃあ、もちろん。ソフィーのスキルが収まった記念だ!」
ゲイルの強い笑みと声に、僕らは苦笑した。
僕はソフィーに話しかける。
「ソフィーも来るよね?」
「はいっ、行きます!」
僕らは連れ立って店の入り口へと向かった。
みんなで店を出たところで、村の道をどたどたと走って来る音が聞こえた。
砂埃を立ててドワーフのオイゲンが短い手足を振って走ってくる。
オイゲンは近くまで来ると、手に持った短剣をソフィーの前に突き出した。
「これ! ソフィーの剣だ! スキルが発動しても封じれるぞ!」
息を切らせて言い切ったオイゲンに、ゲイルが情けない声で叫んだ。
「遅ぇ! お前はいつもワンテンポ遅ぇんだよ!」
「なんだよ、ゲイル! 必死で磨き上げて、鞘も作って、すぐ持ってきたんだぞ!」
オイゲンは髭面の顔を真っ赤にして怒鳴ったが、誰も擁護しなかった。
戸惑うオイゲンのがっしりした肩を、マーサが太った手でポンポンと叩く。
「今からお祝いするんだ。お前も飲みな。タダ酒だぜ?」
「おっ、いいのかい? そいつは嬉しいぜ」
タダ酒と聞いて、オイゲンは相好を崩した。
みんな苦笑しつつ、隣の宿屋へと向かう。
その後はもう、派手な宴会となった。
まずはゲイルが宿屋の食堂に集まっていた村人たちに「ソフィーのスキルはもう大丈夫だ」と伝え、乾杯の音頭を取った。
そして飲めや歌えの大騒ぎ。
特に四人の英雄たちは、肩の荷が下りたかのように終始笑顔だった。
僕は思う。
――彼らのこんな笑顔を見ることができるなんて、驚きだと。
僕はMISOの公式設定資料集を買って読んでいたので、彼らにまつわる裏設定も知っていた。
本当は6人パーティーで、回復担当の上級職『聖女』と、聖女に純愛を誓った上級職『聖騎士』の男がいた。
もちろんパーティーは4人なので、4人と2人や、3人二組に分かれて冒険していた。
なぜ4人になったのかについて悲しいサブストーリーがあるのだけれど、現実で会ったばかりの僕が知っているのはおかしいので黙っておく。
さらに思う。
――しかし、ゲームでよくやっていた「パッシブスキル『○○』オン・オフ」が、この世界に伝わっておらず、Sランクの英雄たちすら知らなかったとは。
ひょっとして僕以外の転生者はいないんじゃないだろうかと思った。
それはそれで、僕だけがゲーム知識を使ってレアアイテムや裏技を使っておいしい思いができそうだと考える。特に隠しアイテムが確実に手に入る可能性が高いというのは嬉しかった。
まあ遊び人という不遇職なのに勇者を助けて魔王を倒さなくちゃいけないんだから、これぐらいの役得はあってもいいんじゃないかと思った。
そんなことを考えながら猪の塩焼きや猪の角煮を食べていると、隣に座ったソフィーが僕に身を寄せつつ囁いた。
「ユートさん。ほんとにありがとございます。おかげで、これからは安心して生きていけます」
「いやいや、そこまで深く思わなくていいよ。みんなが知らないことを知ってただけだから」
「でも初めてなんです。私の職業を恐れず、怖がらなかった人って。むしろ褒めてくれて、とても嬉しかったですし」
「まあソフィーは可愛い妹みたいなものだからね。怖がるはずがないよ」
僕の何気ない言葉に、ソフィーが身を乗り出す勢いで反応した。
「妹!? しかも可愛い!? ……えへへ。じゃあ私は、ユートお兄ちゃんって呼べばいいですか?」
「ぶほっ!」
唐突なお兄ちゃん呼びに、僕は飲んでたジュースをむせてしまった。
はわわ、と隣のソフィーが慌てる。テーブルにあった雑巾で零れた液体を拭いていく。
「ごめん、ありがと」
「大丈夫です、お兄ちゃん。――あれ? お兄ちゃんって呼んじゃダメでしたか?」
テーブルを拭き終えたソフィーが、心配そうに細い眉を下げた。
上目遣いの赤い瞳がうるうると潤む。
そんな守りたくなるような顔をされたら、快諾するしかない!
「いいよ! とってもいい! どんどん呼びたまえ、我が妹よ!」
「お任せあれ、ユートお兄ちゃんっ」
笑顔で言うソフィー。僕らはしばし見つめ合う。
それからどちらからともなく噴き出した。
とめどのない笑いが続いていく。
なんでもない会話に、心が躍るように楽しい。
遠くのテーブルの笑い声も、心地よく耳に届く。
今日という長い夜は、まだまだ続いていきそうだった。




