第25話 恐怖のソフィー
本日2話目。
夕暮れ時の村。
宿屋の一階にある食堂からは、村人の楽しげに騒ぐ声が聞こえてくる。
僕は宿屋の隣にある道具屋に入った。
魔女がやってる、隠れた名店的な道具屋だった。
元Sランク冒険者で最後の一人。当然『魔女』も上級職だ。
ただ店に入って少し途惑った。
MISOよりも店内が広く、置いている品数が多かったからだ。
入ってすぐは野菜や燻製肉、塩壺や調味料。雑巾や鍋、おたま。
あとは木のお皿やスプーンなどの食器があった。
日用品だ。村人のための雑貨らしい。
まあ村で一件しかないお店だから、いろいろ取り扱っているのだろう。
奥にカウンターがあって、店番らしき華奢で小柄な少女が座っている。年齢は10代前半ぐらいかなと思った。
この子がソフィーだろうか? 肩で切り揃えた黒髪に、奥二重のすっきりした瞳。人形のように可愛らしい顔立ちだ。
ただ、見知らぬ僕が入ってきたことに驚いているのか、小動物のようにおどおどしていた。
僕は気にせず『鑑定:物』を使用しながら商品を見ていく。
店内は棚によって仕切られている。
真ん中の棚辺りは、ポーションや匂い袋があった。
匂い袋はお洒落のためじゃなく、魔物よけのアイテムだ。
ヒールポーションは2000ゴート、毒消しポーションは3000ゴートだった。
奥の棚には中古の手袋や短剣、外套などがあった。
短剣は鞘を抜いて確認。外套も裏地を見て鑑定。付与付きの品を見逃さないようにするため。
が、だいたい全部ノーマルの品だった。
掘り出し物はないかといろいろな品物を『鑑定:物』で見ていると、ソフィーが震える声で話しかけてきた。
「あ、あのぅ。そろそろ閉店でしゅ――あ」
噛んだ。恥ずかしそうに俯いてしまう。黒髪がさらさらと震えていた。
閉店しようとしたところに見知らぬ男が入ってきたから途惑っていたのか。
夕食の時間だろうし、迷惑になってしまう。
僕は店内を移動してヒールポーションと毒消しポーションを二本ずつ手に取ると、和やかな笑顔を浮かべてカウンターへ向かった。
「これ、お願いします」
「はぃ……えっと、全部で1万ゴートになります」
「ちょうどだね」
僕は金貨を一枚出した。
ソフィーは小さな手で受け取る。
「ありがとうございます」
「それから、君がソフィーさん?」
「え、はい。ソフィーでしゅ」
また噛んだ。
僕は気にせずポーションを仕舞うと、アイテムボックスから人形を取り出した。
「これ、君のじゃない?」
ソフィーは赤い目を見開いて、驚きの声を上げた。
「ふわぁぁぁっ! ありがとうございますっ。どこかに行っちゃってて、探しても見つからなくって……」
「農業水路に落ちてたよ」
「えっ、そんなところに――っ!? どうして……」
ソフィーは悲しそうに眉尻を下げた。苦し気に服の胸の辺りをぎゅっと掴む。
何か事情があったのかもしれない。
僕は首を傾げつつ何気なく答えた。
「どうして、って。落として風に飛ばされたか、誰かに捨てられたとか?」
「うっ……ううっ!」
ソフィーが苦しそうに胸を押さえて前かがみになる。
――なんだか調子が悪そう。
良いニュースを伝えてあげたら気分も良くなるかなと思い、あの事を言った。
「そうそう。お母さんの形見の短剣? も、水路で見つかったから安心して」
「どうして、そこにぃ――っ!」
ソフィーの黒髪がブワッと逆立った。
次の瞬間、ドンッと体に衝撃が走った。
――えっ!? なに!? 攻撃された!?
なにこれ、魔法? それともスキル?
僕はソフィーから放たれた衝撃を受けて、後ろへ倒れるように尻餅を着いた。
その間にも、ソフィーから不穏な空気が放たれ続ける。
――え!? なんだこれ!? 心臓がバクバク言ってる!
体に寒気と震えが走り、こめかみ辺りに頭痛がし始めた。
まるで風邪をひき始めたかのよう。
ソフィーが目の端に涙を浮かべて、ハッと顔を上げた。
鋭い声で僕に向かって叫ぶ。
「出てって! 出てってください!」
そんなに嫌われることを言ったかな!? と僕は理解できずに戸惑っていた。
でも、心のどこかで冷静に判断していく。
――なにせ僕はMISOの十年プレイヤーだ。僕が知らない魔法やスキルは存在しない。
そして、ソフィーの年齢からレベルやスキルが育っていないと推測した結果、一つの答えに辿り着いた。




