第20話 村での所用
昼過ぎの、のどかな村。
村の外れに平屋建ての横に広い建物があった。煙突から煙が出ている。
近づくにつれてカンッカンッと金属を叩く音が聞こえてきた。
建物の手前の部屋をドア越しに覗く。
中は店になっていて、武器や防具が置いてあった。鍬や鋤などの農具、包丁や鍋も置いてある。
でも人はいなかった。
僕は金属音がする奥へ向かった。
鍛冶の仕事場だった。
年配で髭面のドワーフが炉の前に座り、やっとこで熱された金属を掴み、ハンマーを振り下ろしている。
この人も元Sランク冒険者で『鍛冶師』の上級職『魔具鍛冶師』のオイゲン。
魔剣や魔法が付与された防具を作ることができた。
しばらく鍛冶の様子を見ていた。今は忙しそうだったので。
オイゲンがナイフのように薄くなった金属を桶の水に浸けた。ジュワァと水が蒸発して激しい音を立てる。
頃合いかなと思い、声をかけた。
「すいません、仕事を頼みたいのですが」
オイゲンが手を止めて僕を見た。訝しそうに顔をしかめる。
「ん? 誰だ?」
「僕は冒険者のユートと言います」
「俺はオイゲンだ。冒険者が何か用か?」
「今使ってる武器を強化して欲しいです。素材はもう持ってきてあります」
「用意がいいな。だが扱えるかどうか見せてもらおう」
「はい、こちらの武器です」
僕は毒蛇のナイフをアイテムボックスから出して、オイゲンに見せた。
オイゲンがいかつい顔で目を細める。
「ほう、こいつは毒蛇のナイフだな。だがユニーク武器だから、これ以上強化するなんて無理だぞ?」
「これとこれを使えば、長剣にできるはずです」
僕は竜の鱗と鉄のインゴットを出した。
オイゲンが目を剥いた。
「ドラゴンの鱗だと! ――まさか『毒竜の蛇剣』に鍛え上げろ、と言うのか!」
「あなたならできるんじゃないかと思いまして」
「俺の事は誰から聞いた?」
「えーっと、ギルドマスターのゲイルさんに」
僕は、嘘は言ってない。ただの鍛冶師として紹介してもらっただけで。
ナイフを鍛え上げるとかいう話はオイゲンが勝手に勘違いしただけ。
まあゲームの知識で、オイゲンならできると知っているのだけど。
オイゲンは鼻の頭にしわを寄せて、むむむっと唸っていた。
それから息を吐いた。
「大仕事になるが、ゲイルの紹介ならやらないとダメか――よし、ナイフと鱗とインゴット。そこの作業台に置いててくれ」
「どれぐらいでできます?」
「丸一日もらおうか。明日の夕方にはできてるだろう」
「お金は?」
「ミスリルが少量必要だし、めんどくさい作業が多いからな。30万ゴートは貰わないとやってられないな」
「わかりました。じゃあ前金で金貨10枚。あとは引き取るときに支払います」
「失敗しても文句言わないでくれよ。とにかく面倒くさいんだ」
「わかります。どうなってもお金は支払いますので。それではお願いします」
「おう、任せとけ」
僕はナイフやお金を作業台に置くと、礼を言ってから鍛冶場を出た。
――さて。武器の強化のめどはついた。
そろそろ宿も暇になったころだろう。
今日はもう休もう。
僕は宿屋のある村の中心に向かった。
冒険者ギルドの向かいにある二階建ての建物に入った。
入ってすぐは食堂だった。テーブル席がいくつもあり、半分ぐらいは食べ終えた食器が乗ったままになっていた。
太った女将さんがテーブルの間をすいすいと移動しながら空いた食器を奥へと運んでいる。
そんな女将さんが僕に気付いて声をかけてきた。
「おや、いらっしゃい。ランチかい?」
「いえ、宿に泊まりに来ました」
「冒険者さんかい? 珍しいねぇ。ちょっと待っておくれ」
今まで以上に女将さんは素早く動いて食器をかたずけてしまった。
そしてカウンターの中に入って帳面を取り出す。
僕もカウンターの対面に立った。
「何泊の予定だい?」
「とりあえず一週間でお願いします」
「一泊2000ゴート朝食付きだよ。1万4000ゴートになるね」
「ではこちらに」
カウンターに金貨一枚と銀貨40枚置いた。
それから帳面に名前を記入する。
「ユートって言うのかい。私はマーサ」
「よろしくお願いします、マーサさん」
この人も元Sランク冒険者だ。太っているけど実は盗賊の上位職『怪盗』。
今は肝っ玉母さんのように豪快な性格だが、昔はナイスバディな美女だったらしい。
その後、二階の客室に案内された。
ベッドが二つある個室だった。客がいないから一人で泊まっていいらしい。
ベッド二つとテーブル、小さなクローゼットがあるだけの部屋。
僕はベッドに腰掛ける。
一人きりになって疲れが出たのか、ほっと息を漏らした。
でも夕食までにはまだ時間がある。
何をしようかと考えた。




