第17話 別れと鑑定
本日2話目。
二日後。
僕はエルフの村の入り口にいた。
シェリルと母親のミレーヌ、そして村長のアンリが見送りに来てくれていた。
何人かのエルフたちもいる。
僕はみんなに向かって頭を下げた。
「それでは、お世話になりました」
「こちらこそ礼を言う。村だけでなく、シェリルとミレーヌを助けてくれた本当にありがとう」
「いえいえ~。むしろお土産のお酒まで貰っちゃって、ありがとうございました――では、また来ます」
僕は笑顔でお別れを言った。
するとシェリルが胸に手を当てて一歩踏み出した。金髪が揺れる。
「ユート先生。助けていただき、ありがとうございました。また会える日を、ずっとずっと待ってますから」
「うん。シェリル、またね」
「はいっ」
シェリルが泣きそうな笑顔で頷いた。
控えていたエルフたちも声を上げる。
「必ず来いよ!」「ありがとうね」「元気でな」
僕は優しい声に手を振って別れ、背を向けて歩き出す。
仕立て直した服の裾がひらひらと動き、もらった外套が風になびく。
ボロボロだった貴族の礼服は、布で補強されたうえに民族衣装のような刺繍が施されていた。たぶんそこそこ良い防具になっている、はず。
今は鑑定がないからわからないけど。
さらに若草色の軽い外套を貰ったので羽織っている。フード付き。
色と形的に多分『そよ風のローブ』だろう。
防御力はないけれど、攻撃速度と移動速度と回避に5%の補正が付く。
初級の運キャラにとっては、ありがたい装備だった。
フェアリーエルフの村では、そこそこ有意義な時間を過ごせた。旅の疲れも完全に取れた。
嫌味な男ジャンは鬱陶しかったけど。
でも母親のミレーヌの病気を治したことで、村長のアンリから完全に信頼された。
取引所を利用してもいい許可がもらえた。
ただ落ちこぼれ組は、育てられなかった。
ジャンの薄ら笑いがムカつくけど仕方ない。
鑑定がないせいだった。育てようにも、なんの職業かわからなかった。
例えば魔法剣士と剣士と騎士は、初期のスキルがほぼ同じなためモーションだけでは区別できない。
またレアな職業っぽいエルフもいて、モーションだけでは判別できなかった。
――やっぱり、今後のためにも『鑑定』か『鑑定:人』が付いた装備が必要だ。
ただ、ドロップアイテムを判別するためにも『鑑定:物』が手に入れなくてはいけない。
僕はそれを確定で手に入る場所へと向かった。
◇ ◇ ◇
数日後。
僕は海岸沿いの砂浜を西に向かって歩いていた。エルフの村から南西にある海岸。
片側が崖、片側が海。白い波が砂浜に打ち寄せては引いていく。
僕は海には近づきすぎないように注意しつつ砂浜を歩いていった。
海に住む魔物に引きづり込まれる可能性があったからだ。
一応、ボックスハイドによる『透明』を発動しているけれど、用心していた。
数時間後。
目の前に崖が海へとせり出して、砂浜が消えているところまで来た。
白い砂浜を振り返ると、後ろに点々と足跡が付いている。
「さて、アイテムがあればいいんだけど」
僕は崖に取りつくと、ロッククライミングのように岩肌を登った。
岩壁の上まで来ると、隠された入り江が目に入った。
そして目当てだった難破船の残骸がある。
「お。宝箱も残ってそうだ」
僕は浮かれながらも、岩壁の崖を乗り越えて入り江へと降りた。
同時に目当てのアイテムが残っているか不安も感じる。
そして甲板が壊れて、船底だけになっている難破船へと入った。
フジツボや貝がびっしりと覆う船底。
船底の隅に朽ちかけた宝箱があった。
まずは宝箱を開ける。
中にはびっしりと銀貨が詰まっていた。確か1200枚。
大金に見えるけれど銀貨は100ゴートなので、12万ゴート。安い。四人家族の生活費1~2か月分。
たぶん今持ってる魔物の素材全部売った方が高い。
そして銀貨をアイテムボックスにしまい終えると、底から金属のインゴットが出てきた。
金、銀、銅、鉄の各種インゴットが数本ずつ。
「よしっ、鉄だ」
金じゃなく鉄に喜ぶ僕。日本でなら金に喜んだだろうけど。
鉄のインゴットがあって良かった。これで毒蛇のナイフを強化できる。
金や銀は安いので後で売り払うつもり。
というか、この世界は金と銀が安い。ただの金と銀は魔法効果が乗らないせい。
魔法の効果が乗る魔銀や聖金が高値で取引されているため、相対的に通常の金と銀の価値が低くなっていた。
僕はインゴットをアイテムボックスに入れると、次は宝箱から後ろに14歩下がり、右横へ7歩移動した。
しゃがみこんで船底を調べる。
「え? ない!?」
目当てのアイテムが見当たらない。
もう誰かが持って行ってしまったのか。それとも波にさらわれてしまったのか。
――ここにあのアイテムがないと、予定が狂う!
僕は焦りを募らせつつ、必死で床を探した。額に嫌な汗が流れる。
――と。
船底の板と板の隙間にある何かが、キラッと銀色の光った。
僕は毒蛇のナイフを取り出して、木の板を削る。
そして、板の間に挟まった指輪を掘り出した。
蔦の模様が彫り込まれた銀の指輪。
指輪を指にはめて、毒蛇のナイフを見る。
すると『毒蛇のナイフ』と半透明のウインドウが開いた。
「やった!」
これこそ求めていた『鑑定:物』が付いた指輪だ!
ゲームの通りにあってよかった。
『鑑定』の下位版とはいえ、この世界では国宝級の品物。
我が辺境伯家でも『鑑定:魔物』が家宝に設定され、代々伝わっていたぐらい。
「でもこれで今後がずっと楽になった。あって良かった」
僕は、安堵の息を吐きながらも喜んだ。
そのほかの装備も見る。
やはり外套は『そよ風のローブ』だった。
服も『エルフの礼服』と表示され、防御力5に防御25%、魔防25%もついていた。
初期装備としては十分強い。
それから僕は難破船を出て、今度は南へと向かった。
海岸からは丘をいくつか越えれば平野部に出るはずだった。




