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道化の僕が勇者の君を救いたい~追放された転生遊び人はゲーム知識で無双する~  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第13話 対立と和解


 夕暮れになって、山脈の麓にたどり着いた。

 山の麓から中腹までは木々が生い茂っていた。山脈の山頂辺りは白く輝いている。万年雪が積もっているようだ。


 シェリルが先に立って歩き出す。


「ここからは私が先導します。迷いの結界が張ってあるので」


「うん。わかった」


「まずは結界ぎりぎりを通って販売所の家まで行きます」


「なんでギリギリ?」


「魔物が一番出にくくて安全だからです。たいてい結界に迷い込んで出てこれなくなりますから」


「なるほど。それだと僕も迷い込むと危なそうだね」


「ですので私の足跡を踏み外さないようにしてくださいね」


「わ、わかった」


 僕は少し緊張しつつ、シェリルの後について山肌の森の中へ入っていく。

 頭上に生い茂る葉が青空を隠していて、薄暗い森を吹き抜ける風が肌寒い。

 肩を両手で抱くようにして歩いた。

 ――今は破れて穴の空いたぼろぼろの貴族服だから、丈夫な冒険者装備を整えないとまずいなぁ。



 そんなことを考えながら歩いていると、ヒュッと風を切る音がした。

 一本の矢が僕をかすめる。透明が解除されて姿が現れた。

 ――この矢、普通の矢じゃない。精霊弓士のスキルが込められた矢か。


「誰だ!」


 僕が叫ぶと、大木の影から長い金髪を腰まで垂らした痩身の男性が現れた。足下まで届く長いローブを着ている。

 弓は持っていないが、耳が長いのでエルフだ。見た目は二十代。美形だが目つきが鋭かった。


「人間がなぜいる! シェリルを解放しろ!」


 男は僕を睨んできた。武器は構えていないが、周囲の森に気配がする。

 シェリルが金髪を乱して僕を守るように両手を広げた。


「待ってください! この方は命の恩人です!」


「なにい!」


「魔物にさらわれて食べられそうになったところを助け出して、ここまで連れてきてくださったのです!」


「信じられないな! そんな弱そうな人間に何ができる!」


「本当です! ユート先生はとても強い知恵者なのです!」



 まあ、そうはいっても実際『遊び人』は弱いし。

 熱弁しても信じて貰えないだろうなと思った。


 それよりも僕はエルフたちの職業に注意を払っていた。

 エルフやフェアリーエルフには、人間にはなれない固有の職業があった。

 それが精霊弓士と精霊術士、それに精霊僧ドルイド。


 ローブを着た男は精霊術士だろう。

 主なスキルを思い浮かべて、どういう攻撃をしているか予想を立てておく。


 ――ただ、一つ問題があった。

 遊び人は弱すぎるため、勝つためには手加減できない。取り囲んでいるエルフの半数は命を落とすだろう。

 穏便に事態を収束させるためには、シェリルに頑張ってもらうしかない。



 僕は前に立つシェリルの背中に声をかける。


「シェリル。この場は任せた」


「はい、先生!」


 シェリルは自信に満ちた声で返事した。

 ローブの男が声を荒らげる。


「シェリルは騙されている! 皆の者、その男を捕らえろ!」


 周りの木々がザザッと蠢くように鳴る。茂みの向こうにちらほらと、僕を囲むように動くエルフの姿が見え隠れした。 

 シャロンは眉間に深いしわを寄せると、妖精の弓を構えて弦を引いた。


「ユート先生に危害を加えるなら許しません!」


「矢もつがえずに何をしている?」


「これがユート先生の教えです! ――レインアロー!」


 シャロンが真上に向かって光る矢を放った。

 

「うわっ」「なんだ!?」「ぎゃっ!」


 周囲から次々と悲鳴が起こった。

 シャロンが仁王立ちして、凜々しい声で言い放つ。


「やじりは生成していませんわ。皆さん命拾いしましたね!」


 教えて数日で応用まで使いこなすとは。

 シャロンの成長ぶりに驚くばかりだった。



 ローブの男は、愕然としながらうずくまって痛みに耐えるエルフたちを見る。


「そんなばかな……シェリルは里で一番未熟だったはず……」


「ユート先生のおかげです! ――それに先生はとっても強いんですから!」


 シェリルは手で僕を示した。

 ――そう口で説明しただけでは、説得は難しいだろう。

 でも、あと一押しって感じ。


 そこで僕はアイテムボックスから角ウサギの角と毛皮と肉を取り出した。


「まあ、そこそこ強いっていう証明にはなるかな?」


「見てください! ユート先生は、あの! あの白い悪魔を倒したんですよ!」


 シェリルが胸を反らして偉そうに言った。着ている短衣の胸元が大きく揺れる。

 うずくまっていたエルフたちが目を見開いて驚く。


「な、なんだと……!」「あの化け物を……!」「信じられん!」



 ローブの男が目を見開いて手を伸ばす。


「み、見せてくれ……」


「どうぞ」


 僕は両手を突き出した。


 ローブの男が震えながら近づいてきた。

 角や毛皮を指先で触り、呻くように声を絞る。


「まさしく、あの角ウサギだ。精霊も正しいと言っている」


 エルフたちが「うおぉぉぉ!」と歓声を上げた。

 その声に僕は驚いた。

 彼らは口々に喜びを口にする。


「あの白い悪魔を倒すとは!」「これで取引所に行商人が来られる!」「村が助かった! ありがとう、人間!」


 どうやら角ウサギのせいで困窮していたらしい。


 まあ弓士だと攻撃が当たらないよね。

 回避不可能な魔法の範囲攻撃じゃないと倒せない。火炎嵐ファイアーストーム氷刃吹雪アイスブリザードなどでドカドカ攻撃して殺すしかない。

 逆に精霊術は精霊に頼んで力を発動して貰うという設定上、発動が遅いから避けられてしまう。

 エルフが困窮するのも道理だと思った。


 

 ローブの男が僕に向かって頭を下げた。


「人間の男よ、すまなかった。不幸が重なって疑い深くなっていた」


「信じて貰えたなら、いいですよ。実際、僕は弱いですし」


「そうなのか?」


「ええ、弱いからこそ、強い相手には手加減できないんですよ」


 僕が角ウサギを突き出しながら言うと、ローブの男は頬を引きつらせて頷いた。


「わ、わかった。私の名はアンリ。村長をしている」


「僕の名前はユートです。よろしく」


「こちらこそよろしく。さあ村に招待しよう」


 隣にいるシェリルが笑顔で言う。


「よかったね、ユート先生」


「シェリル、説得してくれてありがとう」


「はいっ」


 シェリルは嬉しそうに目を細めて頷いた。

 そんな仕草がちょっと可愛いと思ってしまった。


 その後はアンリに案内されてフェアリーエルフの村へ向かった。


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