第12話 草原の覇者!
次の日。
朝早くから草原を渡った。腰まで伸びる雑草をかき分けつつ、小走りに進んでいく。
途中、大きなバッタやネズミ、たまに蛇がいたけど難なく進んだ。
僕は『ボックスハイド』で透明になっているから敵のタゲを取らないし、シェリルは『気配探知』を取ったらしく、敵の姿を見る前に藪越しに魔法の矢で打ち抜いていた。
シェリルが弓を放った姿勢のまま、笑顔で言う。
「すごいです、先生! とても強くなれました!」
「シェリルが頑張ったからだよ」
「先生の教えがよかったからです! さすがです」
目をキラキラ輝かせて褒められると、さすがに照れた。
前世でゲームに没頭しただけの、ダメ人間なのに。
――いや、でも。そうか。
大学生の時に始めて32歳で死ぬまで10年以上ほぼ毎日プレイして、バイト代も給料もすべてつぎ込んだ。考察班にも加わり、攻略ウィキの更新も手伝った。
ある意味この世界のスペシャリストと言えるかも知れない。
僕は誇らしさと恥ずかしさで変にニヤつく顔をしながら、草原を歩く。
しかし、気が完全に緩んでいた。
ズザザザザ――ッ!
と、激しい音を立てて高速で近づいてくる存在に気付くのが遅れた。
「先生っ!」
僕はシェリルに突き飛ばされた。
二人の間を小型の白い影が通り過ぎて、また背の高い雑草を貫いて消える。
背筋に冷たい物が走った。
「角ウサギだ!」
Eランクのくせに敏捷がバカみたいに高くて、攻撃が当たらない敵。
シェリルが片膝を突きながら、角ウサギが消えた先へと弓を引く。
「ダメだ、シェリル! 範囲攻撃で!」
「はいっ! ――レインアロー!」
シェリルは青空に向けて弓を構えた。
ヒュッと風を切って魔法の矢が放たれる。
高く上がった矢は空中で輝きながら、数十本の矢に分かれて降下する。
茂みの向こうで「キュキュッ」と小さな悲鳴が聞こえた。
――当たった!
しかし喜んだのも束の間、よく通る金切り声が高速で突っ込んできた。
「ピュィィ――ッ!」
恐ろしさには似合わない、世界一可愛らしい声が向かうのはシェリルの方向だ。
僕はとっさにシェリルの前に飛び込むと、仰向けになって毒蛇のナイフを上に突き出した。
ここが角ウサギの通り道のはず。
――当たってくれ!
次の瞬間、茂みを割って猛烈な勢いで白い物体が飛び出してきた。
回避など不可能な速度。しかも狙い通りに毒蛇のナイフが通り道にある。
よしっ!
――が。
空中を飛んでいた角ウサギはナイフの刃に当たる寸前、90度の角度で曲がった。
ズザザッと、また草原の茂みに消える。
「なんでだよっ!」
思わず僕は叫んでツッコミを入れていた。
物理法則を無視した動きにもほどがある。
見た目は額に角があるだけの可愛らしいウサギなんだけど。運営に愛されているモンスター、恐るべし。
シェリルが焦る声で叫ぶ。
「白い悪魔からは逃げられないと聞きます! どうされますか、先生!」
「位置はわかるよね!? バーストアローで進路の手前の地面を撃つんだ!」
「はい、先生!」
シェリルが大きく弓を引いた。構えた姿勢で茂みの向こうを狙う。
僕はシェリルの足下に毒蛇のナイフを、刃を上にして埋めつつ、アイテムボックスからチェーンベルトを取り出して手に持った。
シェリルは足下のナイフに首をかしげる。
彼女の疑問は無視して命令する。
「奴が来たら、寸前で横に飛ぶんだ」
「わかりました――きた!」
草を割る高速移動の音が向かってきた。
シェリルが燃える矢を放つと、茂みの中で爆発した。
白い物体が青空に飛ぶ。空中で加速しながら、シェリルに向かって突っ込んでくる。
当たる寸前、僕は左へ、シェリルは右へ飛んだ。
僕はベルトを振って攻撃しているように見せかけ、シェリルは弓を放つ。
角ウサギは空中をジグザグに落下しながら(だからなんでだよ!)、すべての攻撃を避けて地面に降り立った。
だが、地面に降りた角ウサギが驚きで叫ぶ。
「ぴゃい!?」
角ウサギの体に緑色の煙がまとわりつく。
僕はガッツポーズで喜んだ。
「――着地狩り成功だ!」
「きゅいいい!」
角ウサギはのたうつように飛び跳ねまくり、それでもシェリルの矢を避ける。
僕は毒蛇のナイフを拾い上げて攻撃したが、それもかわされる。
でも、時間の問題だった。
毒蛇のナイフは攻撃力自体は+24と低いものの、0.5秒ごとに毒ダメージが24も入る。
秒間48ダメージで角ウサギのHPをごりごりと削っていった。
そして十数秒後。
「ぴゅぃぃぃいいい!」
と、可哀想になるぐらいの可愛い断末魔を上げて角ウサギは地面に倒れた。
緑の煙が晴れ、角ウサギの体が僕へ向かって飛んでくる。解体ナイフの効果で自動的にアイテムボックスへ収まった。
一息ついて、僕はステータスを見た。
角ウサギとたくさんの魔物を倒したおかげで、レベルが21になっていた。
ステータスのポイントはすべて運に振る。運が101を超えたのでDの表記になっていた。
SPはまたあとで考えながら振ろう。
シェリルが呆然と僕を見て言う。
「倒した、のですか?」
「うん。毒ダメージで倒せたよ」
「さすがです、ユート先生」
シェリルは顔に疲労を浮かべながらも微笑んだ。
僕も肩をすくめつつ答える。
「警戒しつつ、山の麓を目指そう」
「山には迷いの結界が張ってありますので、麓に着いたら案内代わりますね」
「お願いするよ」
僕たちはさっきよりも警戒しながら、北西にある山脈へと歩き出す。
道中、僕はゲームの知識と違う部分が気になったのでシェリルに尋ねてみた。
「でも確か老エルフの住む家があって、そこでエルフ特有のアイテムを買えるよね?」
「取引所ですね。村で足りない物資を商人から買うために作った場所です」
「エルフの家かと思ったらフェアリーエルフだったとはね」
「村の暮らしは自給自足ですけど、それだけでは生活が苦しいですから。姿を変える魔法を使ってでも手に入れているんです」
「僕でも利用できる?」
「個人の旅人も売買できますし、特にユート先生なら利用できて当然です!」
シェリルはこぶしを握って力強く答えた。心なしか鼻息も荒い。
MISOでは老エルフが出すクエストをいくつかこなして信頼度を上げないと利用できなかったけど。
どうやらシェリルを助けたことが信頼獲得につながったようだ。
――これで装備強化に役立つエルフの貴重素材が手に入る!
僕は内心で喜びつつ、麓へと向かった。




