第10話 古き良き夢
本日2話目。
僕は夢を見ていた。それは古い記憶だった。
西の空が赤く染まる夕暮れ時。
僕とイーリスは村を見下ろす小高い丘の上にいた。12歳か13歳ぐらいの時だった。
二人とも村人が着るようなボロい服を着ている。しかも泥や返り血で汚れていた。
イーリスの赤い髪が夕日を浴びてあかね色に輝いていた。風に吹かれるたび、髪から粒子が舞うように見える。
隣に座るイーリスの端整な横顔に見とれていたら、流し目で僕を見てきた。フフッと微笑んで言う。
「なに? ユート」
「いや、その……」
なんだか恥ずかしくなって頬が熱くなるのを感じる。
イーリスが白い歯を見せて微笑む。
「なんなのよ、ユートったら」
僕は意を決して、いつもは言えない言葉を続けた。
「今日のイーリスはとても綺麗だよ」
「ふへ?」
イーリスが目を丸くして、ぽかんと口を開けた。
それから恥ずかしそうに目を伏せて、ボソッと呟く。
「あ、ありがと」
また風が吹く。
イーリスの赤髪が燃えるように逆巻いた。
優しい無言の時間が流れる。
しばらくして、僕は口を開いた。
「今日は散々だったね」
「あー、うん。まあね」
「助けたのにさ『来るのが遅いぞ、弁償しろ!』だなんて」
僕とイーリスは村の近くの森で山菜や薬草を取っていたら、魔物に襲われる商人の馬車を見つけたので二人で助けたのだった。
「仕方ないよ……実際、遅れたんだし」
イーリスは微笑んだ。でも生気の無い、寂しい笑みだった。
――いつも笑顔だけど、悲しい笑顔をするときがある。
僕だけが気付く彼女の素顔。
僕は諭すように言う。
「イーリスは頑張りすぎたんだよ」
「頑張って悪いの?」
「イーリスが頑張ることが当たり前になってしまったんだ。それで頑張っても当たり前で感謝されず、頑張らないとサボってると非難される」
「そうね、そうかもね」
イーリスは力のない笑みを浮かべ、諦めたように独り語ちる。
僕も赤焼けに染まる村を見ながら呟く。
「嫌な思いをするぐらいなら人助けなんてやめればいいのに」
「やらずに後悔するより、やって反省したいから」
「イーリスはすごいよ」
「そんなことないよ」
寂しそうに笑うイーリス。
その笑みを見ているだけで僕の心が締め付けられるように辛くなる。
「またその笑顔。辛いなら辛い顔をしてもいいんだよ?」
「そんなの。みんなが悲しむからできない」
「きっとイーリスは、道具屋の娘とか、冒険者である父の娘とか、ラーナ村の娘だとか。村娘としてのしがらみがあるから、正当な評価がされないんだと思う」
「じゃあどうしろって言うの? どんなに頑張っても、私はラーナ村のイーリスだよ」
「イーリスのことを誰も知らない場所で頑張った方が、正しい評価をされるんじゃない?」
「誰も知らない場所……」
イーリスが顔を上げて遠くを見た。はるか遠く、赤焼けに染まる雲を見つめる。
僕はそっと船を出すように言葉をささやく。
「ねえ、イーリス」
「ん、なに?」
「一緒に国を出ない?」
「え?」
「聖判の儀を終えたら、二人で遠くへ行こうよ」
「ユート……」
僕を見るイーリスの緑の瞳が、心なしか潤んでいる。
その目を見て僕は強い気持ちを込めて言った。
「僕は、イーリスと、ずっと一緒にいたい」
「私も、いたいかも……」
夕焼けに染まるイーリスの頬が、いつもより赤く染まってる気がした。
その表情に僕は勇気づけられる。
「じゃあ、そうしようよ。駆け落ちだ!」
僕が明るい声で言うと、イーリスもフフッと笑った。
「ほんとにやる気?」
「もちろん! 駆け落ちしても生きていけるように準備しなきゃね」
「なんだか楽しみになってきたかも?」
「僕も。生きる希望が湧いてきた!」
「ユートったら」
イーリスが赤髪を揺らして笑った。
心から楽しそうに笑っていた。
そんな彼女の姿を見ると、僕まで嬉しくなった。
――この笑顔を守りたい。ずっと笑顔でいて欲しい。
ううん、僕がするんだ。
僕がイーリスを笑顔にすればいいんだ。
夕焼けの下、笑い続けるイーリスを見て、僕は静かに心に誓った。
ブクマが増えて嬉しかったので夜にも更新します。出かけるので少し遅めになるかもですが。
次話は「第11話 貢献ポイント」




