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第35話 残された時間

 数日後。


 美代は体調を崩し、入院していた。


 病室の窓からは、やわらかな秋の日差しが差し込んでいる。


 ノックの音がした。


「失礼します」


 病室へ入ってきたのは、佐伯とリサだった。


「美代さん」


「こんにちは」


 美代は穏やかに微笑む。


「来てくれたのね。ありがとう」


 佐伯は少し安心したように笑う。


「顔色いいですやんか」


「ちょっと安心しました」


「心配してくれてありがとう」


 リサは持ってきた花束を差し出した。


「お部屋が少しでも明るくなればと思って」


「きれい……ありがとうね」


 病室に柔らかな空気が流れる。


---


 少し世間話をしたあと。


 美代は静かに言った。


「今日は、2人にお伝えしたいことがあります」


 佐伯とリサは顔を見合わせる。


「驚かれると思います」


「でも最後まで聞いてください」


 そう言うと、美代は静かに目を閉じた。


(お願いします)


(はい)


 2つの意識が重なる。


 ゆっくりと目を開いた美代の瞳には、どこか別の光が宿っていた。


---


「佐伯さん」


「リサさん」


 2人は、その空気の変化に息をのむ。


「私は……未来のひまりです」


 静かな病室に、その言葉だけが響いた。


---


 佐伯は目を見開く。


「……未来?」


 リサも驚きながら美代を見つめる。


「私は未来から、この時代へ意識だけを送ってもらっています」


「今は美代さんと意識を共有しています」


 しばらく誰も言葉を発せなかった。


---


「信じられないですよね」


 未来のひまりは少し笑う。


「私も最初はそうでした」


「でも、本当なんです」


 佐伯は何度も瞬きを繰り返す。


「……ほんまなんか」


「はい」


「全部、本当です」


---


 未来のひまりはリサへ向き直った。


「リサさん」


「お願いがあります」


「……はい」


「春人さんを、導いてあげてください」


 リサは戸惑った。


「私が……ですか?」


「はい」


「未来の春人さんは、リサさんの研究を継承し、その研究を完成させて私をここへ送ってくれます」


「でも」


「そこへ辿り着くまでには、支えてくれる人が必要なんです」


「私は」


「リサさんなら、春人さんを信じ続けてくれるって思ってます」


「だからお願いしたいんです」


 リサは静かに頷いた。


「……私にできることなら」


「ありがとうございます」


---


 その時だった。


「花、お水に入れてきますね」


 リサは花束を持って病室を出て行った。


 病室には佐伯と未来のひまりだけが残る。


---


 未来のひまりは静かに佐伯を見た。


「佐伯さん」


「はい」


「今は理由が分からなくてもいいんです」


 佐伯は黙って聞いている。


「でも」


「どんな時も」


「リサさんを支えてあげてください」


「隣にいてあげてください」


 佐伯は少し困ったように笑う。


「そんな大層な男やないですよ」


「それでもです」


 未来のひまりは優しく微笑んだ。


「あなたならできます」


「佐伯さんしかできないんです」


 佐伯は静かに頷いた。


「……約束します」


---


 リサが病室へ戻る。


 未来のひまりは、ほっとしたように笑った。


「ありがとうございます」


 その笑顔は、どこか安心したようだった。


---


 数日後。


 佐伯は春人とひまりを連れて病室を訪れた。


「こんにちは!」


 ひまりはいつものように元気いっぱいだった。


「こんにちは」


 春人も少し照れながら頭を下げる。


「来てくれてありがとう」


 美代は、微笑んだ。


 未来のひまりのことは、2人には話さない。


 それでいいと思った。


---


「佐伯さん」


「はい」


「未来を諦めないでくださいね」


 佐伯は少し笑う。


「俺なんか、まだまだ迷ってばっかりですよ」


「それでも」


「前へ進もうとする佐伯さんは、とても素敵です」


 佐伯は照れくさそうに頭をかいた。


---


「春人くん」


「はい」


「受験はどう?」


「不安?」


「……少しだけ」


「大丈夫」


「あなたならできます」


「自分を信じてください」


 春人は力強く頷いた。


「はい」


---


 そして、美代はひまりを見る。


「ひまりちゃん」


「なぁに?」


「私はね」


「いつも笑っているひまりちゃんが大好き」


 ひまりは照れながら笑う。


「えへへ」


「でもね」


「辛い時は無理に笑わなくてもいいの」


「紬さんや」


 一度、佐伯を見る。


「佐伯さんみたいに」


「あなたを大切に思ってくれている人がいるから」


「ちゃんと頼ってね」


 ひまりは何も分からないまま、大きく頷いた。


「うん!」


---


 病室には、穏やかな時間が流れていた。


 窓の外では秋風が木々を揺らしている。


 美代は3人の笑顔を見つめながら、静かに思った。


(これでいい。)


(あとは、みんななら大丈夫。)


 その微笑みは、誰にも気づかれないほど静かで、そして優しかった。


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