第33話 相談とアドバイス
秋風が、公園の木々を静かに揺らしていた。
ベンチには佐伯と美代が並んで座っている。
「今日は春人くん、受験勉強よね」
美代が空を見上げながら言う。
「そうですね」
「今が踏ん張りどころやから」
佐伯は缶コーヒーを開ける。
「春人が来んと意外に寂しいもんですね」
美代は優しく笑った。
「きっと今頃、一生懸命頑張っていますよ」
「あいつはできる子なんで心配ないですわ」
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少しして、ひまりが公園へ駆けてきた。
「こんにちはー!」
「こんにちは」
「おっ、ひまり」
ひまりはいつものようにベンチへ座る。
「春人くん、いないの?」
「そうや」
「受験やからな」
「受験?」
「春人くんはたいへんなの?」
「そやな、たいへんな時や」
ひまりは首を傾げてから笑う。
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しばらく3人で他愛もない話をしたあと。
佐伯がぽつりと言った。
「そういや前な」
「リサさんと飯行ってきてん」
ひまりが目を丸くする。
「えっ!」
「デート?」
「そうやといいんやけどな」
佐伯は照れくさそうに笑う。
「ちょっと話ししたくてな」
美代は穏やかに微笑んでいる。
「どんなお話をされたんですか?」
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佐伯は少しだけ照れながら頭をかく。
「俺の今までのことを話してきたんです」
「将来は勝手にそうなると思ってたこと」
「結婚や家族についてのこと」
「みんなやリサさんのこととか」
美代は静かに聞いている。
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「気づいたら全部しゃべってて」
「なんか照れくさかったですわ」
「でも」
「言わんままやったら後悔する気がして」
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美代は優しく頷く。
「きっと」
「リサさんは嬉しかったと思いますよ」
「そうなんですかね」
「佐伯さんは飾らずに、ご自分の言葉で話されたのでしょう?」
「はい」
「俺にはそれしかできへんので」
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美代は静かに微笑んだ。
「それが佐伯さんの一番素敵なところですよ」
佐伯は照れくさそうに笑う。
「そんな大したもんちゃうで」
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ひまりは話の内容までは分からなかった。
でも一つだけ分かることがあった。
「佐伯さん」
「リサさんのこと好きだよね」
「ぶっ!」
佐伯は思わずむせる。
「ひ、ひまっ……」
「そんな真っ直ぐ言うなや」
ひまりは首をかしげる。
「違うの?」
「……」
「いや……」
「まぁ……」
「この感情を好きやとするなら」
「好きだと思う」
照れ笑いを浮かべる佐伯を見て、美代も小さく笑った。
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その時だった。
「ひまりー!」
優しい声が公園に響く。
振り向くと、紬が歩いてくる。
「紬ちゃーん!」
ひまりは嬉しそうに駆け寄った。
「お待たせ」
「今日も待たせちゃってごめんね」
「大丈夫、待ってないよ」
「一緒にベンチ座ろ」
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紬もベンチへ加わる。
「こんにちは」
「こんにちは」
「紬ちゃん、お疲れさん」
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少し話したあと。
佐伯が照れながら言った。
「紬ちゃん」
「ちょっと相談ええか?」
「はい?」
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「俺な」
「リサさんに伝わったかわからへんけど気持ちは伝えたんや」
「でも」
「これからどうしたらええんか分からんくてな」
「恋愛とか、そういう駆け引き全然分からんし」
「これから、どうしたらええと思います?」
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紬は深く考えてから微笑んだ。
「意外でした」
「でも、お話を聞いて納得しました」
「佐伯さんって、すごく真っ直ぐな方なんですね」
「そうですか?」
「はい」
「でも」
「無理に何かしなくていいと思います」
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佐伯は首を傾げる。
「そうなんですか?」
「リサさんは」
「ちゃんと佐伯さんを見てくれてると思います」
「だから」
「今まで通り、一緒にいる時間を大切にしていけば大丈夫な気がします」
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「一緒に笑って」
「一緒にご飯を食べて」
「困った時は助け合って」
「他愛ない話しをする」
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「恋って」
「特別なことじゃなくて」
「毎日の積み重ねなんだと思います」
「あくまで私の個人的な思いなんですけど…」
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佐伯は少しだけ笑う。
「積み重ねか」
「はい」
「佐伯さんは、もう積み重ねてると思いますよ」
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美代も優しく頷いた。
「私も同じことを思ったわ」
「佐伯さん」
「あなたの未来には、きっとリサさんがいるわ」
「だから」
「焦らなくて大丈夫」
「一緒にいる時間を、少しずつ積み重ねていけるといいわね」
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佐伯は驚いたように美代を見る。
「……未来に?」
美代は微笑むだけだった。
「きっと、大丈夫よ」
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秋風が静かに吹き抜ける。
その空気が、どこか優しかった。
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「さて」
紬が立ち上がる。
「そろそろ帰りますね」
「ひまり、帰ろっか」
「はーい!」
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ひまりは元気よく返事をする。
立ち上がった2人を見て、美代が静かに紬へ声を掛けた。
「紬さん」
紬が振り返る。
「はい?」
「もしご都合がよろしければ」
「今度、2人で少しお話しする時間をいただけませんか」
紬は少し不思議そうな表情を浮かべた。
「もちろんです」
「私でよければ」
美代は安心したように微笑む。
「ありがとうございます」
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秋の夕暮れが、公園を優しく包んでいた。
それぞれが少しずつ、自分の未来へ向かって歩き始めている。
その中で、美代だけが静かに次の約束を胸に抱いていた。




