第27話 いつもの公園
秋風が少し冷たくなってきた頃だった。
公園の木々も少しずつ色づき始めている。
いつものベンチには、美代が座っていた。
しばらくすると。
「こんにちは!」
元気な声が響く。
ひまりだった。
「こんにちは」
美代が微笑む。
「今日は一番乗り!」
ひまりはそう言って、勢いよくベンチへ座った。
「みんな遅いなー」
足をぶらぶらさせながら言う。
「そうね」
美代は空を見上げた。
「みんな忙しくなってきたのかもしれないわね」
「みんな忙しいんやなぁ」
その言葉に、美代は思わず笑った。
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少しして。
「こんにちは」
春人がやって来た。
「あら、こんにちは」
ひまりが元気よく手を振る。
「春人くーん!」
春人も笑って手を振り返した。
「何か楽しいことあったの?」
ひまりが聞く。
春人は少し照れくさそうに頭をかいた。
「実はね」
「うん?」
「大学へ行こうって決めた」
ひまりは一瞬きょとんとする。
「だいがく?」
「うん」
ひまりは美代を見る。
美代は優しく微笑んだ。
「決められたのね」
「はい」
春人は頷く。
「受験はこれからですけど」
「やりたいことが見つかった気がします」
「そう」
美代は嬉しそうに頷いた。
「それが一番大事よ」
ひまりは首を傾げながらも笑った。
「春人くん、がんばれー!」
「ありがとう」
春人は少し照れながら笑った。
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3人で話していると。
遠くから慌ただしい足音が聞こえた。
「遅れましたー!」
ネクタイを少し緩めた佐伯が歩いてくる。
右手にはいつもの缶コーヒー。
「お疲れさま」
美代が笑う。
「今日はちょっとバタバタでした」
佐伯は苦笑しながらベンチへ腰掛けた。
「佐伯さん!」
ひまりが笑う。
「今日はさいご!」
「仕事や仕事」
「忙しいんやなぁ」
さっきと同じことを言うひまりに。
美代は思わず笑った。
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いつものように。
他愛のない話が続く。
仕事のこと。
日常のこと。
ひまりの今日あった出来事。
そして。
春人の大学の話。
「大学かぁ」
佐伯は缶コーヒーを飲みながら笑う。
「春人の一大決心やな」
「そんな大げさな話じゃないんですけどね」
「いや、なんか嬉しいわ」
春人は少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます」
美代は3人を見渡した。
「みんな少しずつ前へ進んでいるのね」
誰も言葉は返さなかった。
でも。
その言葉を、それぞれが静かに受け止めていた。
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やがて空が夕焼け色に染まり始める。
「紬ちゃんが迎えに来る!」
ひまりは立ち上がった。
「またね!」
「またね」
美代が手を振る。
春人も立ち上がる。
「僕も帰ります」
「受験、頑張れよ」
佐伯が笑う。
「はい」
春人は頭を下げ、公園をあとにした。
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公園には。
美代と佐伯だけが残った。
秋風が静かに吹く。
落ち葉が一枚、足元を転がった。
しばらく黙って缶コーヒーを飲んでいた佐伯が、小さく口を開く。
「美代さん」
「なあに?」
「ちょっと聞いてもらってもええですか」
美代は穏やかに頷いた。
「もちろん」
佐伯は少し照れくさそうに笑う。
「最近、気が付くとリサさんのこと考えてしまうんですよ」
「そうだったのね」
美代は優しく微笑んだ。
「最近、連絡とったり会ったりできてなくて」
「研究、忙しいんやろなぁとは思うんです」
少し間が空く。
「でも」
缶コーヒーを見つめたまま続けた。
「なんか寂しいんですよ」
その言葉を口にした瞬間。
佐伯自身が少し驚いたような顔をした。
「会えへん日が続くと」
「今日は返信来てるかな、とか」
「そんなことばっかり考えてしまって」
苦笑する。
「45のおっさんが、何やってるんでしょうね」
美代は静かに首を振った。
「年齢なんて関係ないわ」
風が優しく吹き抜ける。
「その人に会える日が楽しみ」
「笑っていると安心する」
「そんな人がいるって、とても素敵なことよ」
佐伯は少し照れくさそうに笑った。
「……そうなんですかね」
「ええ」
美代は穏やかに頷く。
「焦って答えを出さなくてもいいの」
「心はね、案外もう答えを知っているものよ」
佐伯は小さく息をついた。
「なんか……」
「美代さんに話したら、少し楽になりました」
「あら」
美代は優しく笑う。
「それなら良かった」
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夕暮れの空は、ゆっくりと茜色に染まっていく。
忙しくなっても。
それぞれが違う道を歩き始めても。
帰って来たくなる場所がある。
公園には今日も、変わらない秋風が吹いていた。




