第24話 紬ちゃん
その日は久しぶりの休日だった。
紬はひまりと一緒にショッピングモールへ来ていた。
「紬ちゃん!」
「見て見て!」
ひまりが嬉しそうに駆け寄ってくる。
手には小さなぬいぐるみ。
「かわいいね」
「やろー!」
満面の笑みだった。
その顔を見ると。
紬も自然と笑ってしまう。
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昼食を食べて。
本屋へ行って。
雑貨屋を見て。
ゲームコーナーを少しだけ覗く。
特別なことは何もない。
どこにでもある休日だった。
それでも。
ひまりはずっと楽しそうだった。
「紬ちゃん!」
「次あっち!」
「はいはい」
紬は苦笑しながら後を追う。
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ふと。
姉のことを思い出した。
ひまりの母親。
自分の姉。
あの日から。
生活は大きく変わった。
仕事。
家事。
子育て。
何もかも初めてだった。
正直。
今でも正解なんて分からない。
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「ちゃんとできてるのかな」
誰にも聞こえない声だった。
母親ではない。
それでも。
あの子を守るのは自分だと思っている。
だからこそ迷う。
これで良かったのか。
ひまりは幸せなのか。
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「紬ちゃん?」
気づくと。
ひまりが不思議そうに見上げていた。
「どうしたん?」
「なんでもないよ」
そう言って頭を撫でる。
ひまりは安心したように笑った。
「よかった」
「?」
「紬ちゃん、たまに困った顔するから」
紬は思わず苦笑した。
「そんな顔してた?」
「してた」
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夕方。
二人は家へ帰る。
ひまりは途中で眠そうになりながらも、今日あったことを楽しそうに話していた。
「ぬいぐるみ可愛かったなー」
「そうやね」
「また行きたい」
「また行こうか」
「やったー!」
その声を聞きながら。
紬は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
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夜。
ひまりが眠ったあと。
紬は少しだけ外へ出た。
夜風に当たりたかった。
考え事をしたかった。
そんな理由だった。
気づけば足は公園へ向かっていた。
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公園は静かだった。
街灯だけがベンチを照らしている。
そして。
ベンチには美代が座っていた。
「美代さん?」
紬は驚く。
「こんばんは」
美代が穏やかに笑った。
「こんばんは」
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「こんな時間にどうしたんです?」
「ちょっとお散歩よ」
美代は微笑む。
「紬ちゃんは?」
「私も散歩です」
2人は並んでベンチに座った。
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しばらく沈黙が続く。
風の音だけが聞こえる。
やがて。
美代が静かに聞いた。
「ひまりちゃん、楽しそうだった?」
紬は少し驚いた。
「え?」
「今日、お出かけだったんでしょう?」
紬は笑う。
「楽しそうでしたよ」
「ずっと元気でした」
美代は安心したように頷いた。
「そう」
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再び静かな時間が流れる。
街灯の灯りが落ち葉を照らしていた。
すると。
美代がぽつりと言った。
「紬ちゃん」
「はい?」
「頑張りすぎてない?」
紬は少しだけ笑う。
「まぁ、それなりに」
「それなりに、ね」
美代も小さく笑った。
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「でもね」
美代は前を見たまま続ける。
「ひまりちゃんは、ちゃんと分かっていると思うの」
「え?」
「紬ちゃんが自分のために頑張ってくれていること」
「大切にしてくれていること」
「ずっと一緒にいてくれること」
紬は黙って聞いていた。
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「だから」
「頑張りすぎなくても大丈夫よ」
風が静かに吹く。
「ひまりちゃんのために生きることも大切だけれど」
「紬ちゃん自身が幸せでいることも大切なの」
紬は少し目を伏せた。
「私が幸せで?」
「ええ」
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美代は穏やかに微笑んだ。
「紬ちゃんが楽しそうにしているとね」
「ひまりちゃんは安心すると思うの」
紬は少し首を傾げる。
「そうですかね」
「そうよ」
美代はどこか懐かしそうに空を見上げた。
「子供ってね」
「思っている以上に、大好きな人を見ているものなの」
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「だから」
「紬ちゃんは紬ちゃんのままでいて」
「無理に何かになろうとしなくていいの」
紬は黙ったままだった。
その言葉は。
不思議なくらい胸に残った。
誰かに言ってほしかった言葉だった。
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しばらくして。
紬が小さく笑う。
「なんだか今日」
「元気をもらいました」
「あら」
美代も笑った。
「それなら良かった」
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立ち上がる。
「そろそろ帰ります」
「ええ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
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紬はゆっくり歩き出す。
振り返ると。
美代はまだベンチに座っていた。
優しい顔で夜空を見上げている。
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紬は少しだけ笑った。
明日も頑張ろうと思った。
いや。
頑張りすぎなくてもいいのかもしれない。
そんなことを考えながら。
家路についた。




