第19話 時間・未来・公園
大学見学の日から数日後。
春人は、一人で大学へ来ていた。
駅から続く坂道を上りながら、小さく息を吐く。
「……また来てしまった」
理由は、自分でもよく分からなかった。
ただ。
あの日見た研究室の景色が、頭から離れなかった。
時間。
時空。
未来。
意味は分からない。
でも、不思議と気になっていた。
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「Haruto?」
研究室の前で立ち止まっていると、リサが驚いたように目を丸くした。
「あ……こんにちは」
「また来ましたか?」
「はい」
春人は少し照れくさそうに笑う。
「この前の話、もう少し聞きたくて」
「未来の研究って、どういうことなんですか?」
リサは少しだけ考えてから、小さく笑った。
「難しいですよ?」
「それでも知りたいです」
その真っ直ぐな言葉に、リサは少し嬉しそうだった。
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研究室のホワイトボードには、今日も難しい数式が並んでいる。
春人には理解できない。
けれど、不思議と目が離れなかった。
リサはペンを持ちながら言う。
「Physicsは、“世界がどう動いてるか”を考える学問です」
「世界が?」
「はい」
「時間も、その一つ」
春人は静かに聞いていた。
「未来を予測する」
「時間を理解する」
「未来へ近づこうとする」
リサはホワイトボードに小さく線を書いた。
「全部、少しずつ繋がってます」
春人はその言葉に反応する。
「未来へ近づく……」
「もちろん、簡単じゃないです」
リサは苦笑した。
「でも、人はずっと考えてます」
「どうしたら、時間を越えられるか」
春人は少しだけ黙った。
未来を考える。
将来を考える。
どう生きるか考える。
でも。
“未来へ行く”という発想は、今まで自分の中になかった。
「……なんか、それ面白いですね」
リサは嬉しそうに頷いた。
「未来は怖いです」
「でも、知りたいです」
春人はホワイトボードを見つめる。
数式の意味は、まだ分からない。
でも。
その先に、自分の知らない世界がある気がした。
未来を考えることが。
少しずつ、“未来へ行く”という興味に変わっていく。
そんな感覚があった。
⸻
話が一段落した頃。
リサがふと聞いた。
「Haruto、よく公園いますね」
「あー、はい」
春人は少し笑った。
「変な場所なんです」
「変?」
「佐伯さんと、美代さんと、ひまりちゃんがいて」
「なんか……居場所みたいな感じで」
リサは静かに聞いていた。
「進路とか、将来とか」
「分からないことあっても、公園行くと少し楽になるんですよね」
リサが小さく微笑む。
「いい場所です」
春人は少し考えてから言った。
「……来ます?」
「公園」
リサは少し驚いた顔をした。
「いいですか?」
「たぶん、みんな喜びますよ」
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夕方。
いつもの公園。
ベンチには、佐伯と美代、ひまりが座っていた。
佐伯は缶コーヒーを開けながら、空を見上げる。
「春人、今日遅いな」
「いつもならもう来てるのに」
その時だった。
「こんにちはー」
春人の声が聞こえる。
そして。
その隣にいる人物を見た瞬間。
佐伯の動きが止まった。
「……は?」
リサが小さく手を振る。
「こんばんは」
数秒。
佐伯の思考が完全に止まる。
「なんでリサさんおるん!?」
春人が吹き出した。
「大学で会ったんです」
「いや、そういう問題ちゃうやろ!」
美代は楽しそうに笑う。
「あら、いらっしゃい」
「こんばんは、美代さん」
リサは丁寧に頭を下げた。
ひまりは嬉しそうに駆け寄る。
「りささん!」
「Himari!」
リサもぱっと笑顔になる。
「また会えました」
「やったー!」
ひまりはいつの間にか懐いていた。
佐伯だけが、まだ状況を理解しきれていない。
「……なんでそんな仲良くなっとるん」
春人は楽しそうに笑う。
「物理学の話聞いてたんです」
「急に賢そうなこと言うな」
リサが小さく吹き出した。
夕暮れの風が、公園を静かに吹き抜ける。
いつもの場所。
けれど。
少しずつ、色を変えていく。
少しずつ、未来へ繋がっていく。
その変化を見ながら、美代はどこか嬉しそうに目を細めていた。




