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第17話 佐伯の返信

 その日の公園は、夕焼けがやけに綺麗だった。


 風は少し涼しくて、秋の匂いがする。


 ベンチには、いつもの4人が集まっていた。


 そして今日は――。


 佐伯が、少しだけ機嫌が悪そうだった。


「なんでそんな顔してるんですか」


 春人がニヤニヤしながら聞く。


「お前がニヤニヤしとるからや」


「つまりリサさん関係ですね」


「エスパーか!?」


 即座に返されて、春人が吹き出した。


 美代もくすくす笑っている。


 ひまりだけは話についていけず、不思議そうに首を傾げていた。


「りささん?」


「この前、佐伯さんがごはん行った外国の人」


 春人が説明する。


「おおー!」


 ひまりはなぜか嬉しそうだった。


 佐伯は缶コーヒーを開けながら、観念したように話し始める。


「……この前、お礼の飯行ったんや」


「どこに!?」


 春人が勢いよく立ち上がる。


「春人落ち着け」


「すみません……それでどうだったんですか?」


「どうって……」


 佐伯は困ったように頭をかいた。


「最初、高級なレストラン連れて行かれて」


「うわぁ」


「俺ずっと緊張しっぱなしや」


「でしょうね」


「ナイフとフォーク両サイドにある系の……」


 春人が笑いをこらえている。


 美代は優しそうに微笑んだ。


「でも、そのあと焼き鳥屋さん行ったんでしょう?」


「えっ!なんで知っとるんですか?」


「顔に書いてあるもの」


「あれから顔洗ったはず?」


 佐伯は本気で困った顔をした。


 ひまりが目を輝かせる。


「やきとり!」


「やきとりは世界を救う食べ物や」


 佐伯は少しだけ笑った。


「リサさんも喜んどったし」


「いい感じじゃないですか」


「そうなんか」


 佐伯は照れ隠しみたいに缶コーヒーを飲む。


 その時だった。


 ピコン。


 スマホが鳴った。


 佐伯が画面を見る。


 そして、固まった。


「……どうしたんです?」


 春人が覗き込もうとする。


 佐伯は慌ててスマホを隠した。


「見るな!」


「絶対リサさんじゃないですか」


「なんて来たんですか?」


 佐伯は露骨に困った顔をする。


「……“今日、ごはんどうですか?”って」


 一瞬。


 空気が変わった。


「行ってくださいよ!」


 春人が即答する。


「即答すな!」


「行かないとでしょ!」


「どうしたらいいかわからんのや!」


 ひまりが佐伯を見上げる。


「ごはんたべるの?」


「いや、まだ返事してへん」


「なんで?」


「なんでって……急やし……」


 美代が優しく笑った。


「佐伯さん、誘われて嬉しいんでしょう?」


「……まぁ、そら」


「なら、素直に嬉しいって思えばいいのよ」


 佐伯は言葉に詰まる。


 春人は完全に面白がっていた。


「なんて返します?」


「知らん!」


「“ぜひ行きましょう”ですよ」


「急に距離近いねん!」


 春人が爆笑する。


 その時。


 またスマホが鳴った。


 佐伯は恐る恐る画面を見る。


「……“今どこですか?”って」


「うわ来た!」


「声でかい!」


 春人は楽しそうに身を乗り出した。


「なんて返すんです?」


「ん~~……」


「公園って言えばいいじゃないですか」


「なんでや」


「呼びましょう」


「なんでや!」


 ひまりまで嬉しそうに言う。


「りささんくる?」


「いや、来んやろ……」


 美代が静かに微笑んだ。


「でも、来たいから聞いたのかもしれないわね」


 佐伯はスマホを見つめたまま固まる。


 しばらく悩んでから。


 観念したみたいに、小さく打ち込んだ。


『公園います』


 送信。


「送った……」


「うわ送った!」


「実況やめろ!」


 春人はずっと楽しそうだった。



 それから十分ほど経った頃。


「Saeki-san!」


 聞き慣れない声が、公園に響いた。


 振り返る。


 そこには、リサが立っていた。


 ベージュのコート姿だった。


 少しだけ息を切らしている。


 春人が小さく「ほんまに来た……」と呟いた。


 ひまりは嬉しそうに手を振る。


「りささーん!」


 リサも笑顔で手を振り返した。


「こんばんは」


 少しぎこちない日本語。


 美代が穏やかに微笑む。


「こんばんは、リサさん」


「こんばんは」


 リサは丁寧に頭を下げた。


 春人も慌てて頭を下げる。


「は、はじめまして」


「Haruto?」


「え、なんで名前」


「Saeki-san、話してました」


 春人が一気ににやける。


「佐伯さん僕の話したんですか」


「余計なとこ食いつくな」


 佐伯は顔をしかめた。


 ひまりはリサを見上げながら聞く。


「りささん!」


「はい?」


「さえきさんと、ごはんたべた?」


 一瞬。


 佐伯の動きが止まる。


「ひまっ……!」


 リサは意味を理解したのか、小さく笑った。


「はい。食べました」


「じゃあデート!」


「ひまり、それはやな!?」


 公園に笑い声が広がる。


 佐伯は限界みたいな顔をしていた。


「……ほら、行きますよ」


 佐伯は慌てて立ち上がる。


「え?」


 リサがきょとんとする。


「ここおったら、俺がずっといじられるんで」


 春人が爆笑した。


 美代も楽しそうに笑っている。


 ひまりは元気よく手を振った。


「ばいばーい!」


「またねー!」


 リサも笑顔で手を振り返す。


 そして。


 佐伯と並んで、公園をあとにした。


 少し早足の佐伯。


 その隣を、楽しそうに歩くリサ。


 夕暮れの風が、静かに吹き抜けていく。


 その背中を見送りながら、美代は小さく微笑んだ。


「佐伯さん、がんばって」


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