第15話 よくわからん縁
その日の公園は、少し風が強かった。
落ち葉がカサカサと地面を転がっていく。
ベンチには、いつもの4人が集まっていた。
けれど。
今日はいつもと空気が違う。
佐伯が、ものすごく疲れた顔をしていた。
「……なんやろなぁ」
缶コーヒーを握りながら、魂の抜けた声で言う。
春人が吹き出した。
「例のパーティですか?」
「例のやつや」
「どうでした?」
「神は乗り越えられない試練しか与えない」
即答だった。
美代がくすりと笑う。
「そんなに大変なの?」
「もうって言いたなります」
佐伯は遠い目をした。
「趣味は何ですかとか、休日何してますかとか、急に聞かれても分からんのですわ」
「佐伯さん、なんて答えたんですか?」
「缶コーヒー飲みながら公園来てますって」
一瞬、沈黙。
春人が腹を抱えて笑い始めた。
「それはやりましたね!」
「なんでや!」
「もっとこう……あるじゃないですか!」
「あるを俺はしらん!」
ひまりが不思議そうに首を傾げる。
「さえきさん、困ってるの?」
「困ったちゃんや」
「テストみたいやねぇ」
「ほんまそれや」
佐伯は深く頷いた。
美代は優しく微笑む。
「でも、ちゃんと足掻いてるの、素敵だと思うわ」
「結果出てませんけどね……」
「そういうものは、すぐ答えが出るものじゃないもの」
その言葉に、佐伯は少しだけ肩の力を抜いた。
風がざわざわ吹き抜ける。
その時。
「あ、でも」
佐伯が何かを思い出したように呟く。
「帰りに、変なことあったわ」
「変なこと?」
春人が食いつく。
「駅前でな、外国人の人がめちゃくちゃ困っとって」
「スマホ無くしたみたいで」
「へぇ」
「英語なんか全然分からんのに、なんか放っとけんくてな」
佐伯は苦笑した。
「片言で一緒に探したんや」
春人が楽しそうに前のめりになる。
「佐伯さん英語しゃべったんですか?」
「しゃべってへん。ほぼ勢いや」
「それで?」
「スマホ見つかった」
「よかったじゃないですか」
「そしたらな」
佐伯は缶コーヒーを見つめながら言う。
「なんか、お礼に飯誘われた」
一瞬、空気が止まる。
「……は?」
春人が固まる。
美代は軽く微笑んだ。
ひまりだけがよく分からず首を傾げている。
「え、待ってください」
春人が勢いよく身を乗り出した。
「それ、すごくないですか?」
「なにがすごいんや」
「どんな人なんですか!?」
「どんなって……」
佐伯は困ったように頭をかいた。
「目が淡いブルーの綺麗な人やったな」
春人の顔が一気ににやける。
「うわぁ」
「その反応やめろ」
「いやだって!」
美代もどこか楽しそうに笑っていた。
「素敵なことじゃない」
「いや、ただお礼の飯行くだけですって」
「それが出会いなのよ」
佐伯は露骨に気まずそうな顔をした。
ひまりが佐伯を見上げる。
「さえきさん、およめさん?」
「ちゃうちゃう!」
佐伯は慌てて手を振る。
「飯行くだけや!」
「ごはんたべるん?」
「そうやけど」
「じゃあデート!」
ひまりが嬉しそうに言った。
春人が吹き出す。
「ひまりちゃんデートだね」
「違うからな!?」
佐伯は完全に振り回されていた。
けれど。
その顔は、少しだけ楽しそうだった。
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数日後。
駅前。
佐伯はガラスに映る自分を見ながら、落ち着かない様子でネクタイを直していた。
「……なんで俺こんな緊張しとるんや」
待ち合わせ場所には、仕事帰りらしい人たちが行き交っている。
佐伯は深く息を吐いた。
すると。
「Saeki-san!」
明るい声が聞こえた。
振り返る。
そこには、笑顔で手を振るリサがいた。
秋の夜風が、静かに吹き抜ける。
佐伯は少しだけ困ったように笑って、小さく頭をかいた。
「……ほんま、なんやわからんな」




