第14話 パーティは辛い
その日の夕方、公園の風はいつもより冷たかった。
ベンチには、佐伯と春人、美代、ひまりの4人が集まっていた。
佐伯は缶コーヒーを握りしめたまま、深いため息を吐く。
「正解がわからん……」
「佐伯さん、なにかありましたね」
春人はスマホを片手に、ニヤニヤしている。
「婚活パーティっていうのに行ってきた」
「すごいじゃないですか!」
「どうでした?」
「この感じでわかるやろ」
即答だった。
美代が肩を揺らして笑う。
「出会いのきっかけって、そういう場所に行かないと案外ないものよ?」
「美代さんまで……」
その時だった。
ひまりが不思議そうに首を傾げる。
「さえきさん、およめさんつくるの?」
一瞬、佐伯の動きが止まった。
「お、おう……いや、むずいんや」
「むずいの?」
「ひまりみたいに、まず勉強からはじめるとこや」
ひまりは数秒考えてから、素直に頷いた。
「たいへんなんやねぇ」
春人が吹き出す。
美代もくすくす笑っていた。
「笑い事ちゃうぞ……」
佐伯は頭を抱える。
けれど。
そのどこか温かい空気に、少しだけ救われてもいた。
⸻
数日後。
佐伯は、また婚活パーティへ参加していた。
「なんで来てもうたんや俺……」
駅前のホテル。
綺麗に並べられたテーブル。
笑顔の男女。
場違い感がすごかった。
周囲は慣れた様子で会話している。
「趣味は旅行です」
「休日はカフェ巡りしてます」
「最近ゴルフ始めて〜」
佐伯は一人、烏龍茶を見つめていた。
(何しゃべればええんや……)
順番に女性と話していく。
けれど。
「お仕事は?」
「営業です」
「ご趣味は?」
「……缶コーヒー飲みながら公園行くことです」
空気が止まった。
(終わった)
佐伯は静かに心の中で死んだ。
⸻
翌日の公園。
佐伯はベンチに深く座り込み、魂が抜けたみたいな顔をしていた。
「……無理や」
「またですね」
春人が苦笑する。
「開始30分で帰りたなった」
「何話したんですか?」
「わからん。忘れた」
「なんでですか」
「知らん!」
春人が吹き出した。
ひまりは心配そうに佐伯を見上げる。
「さえきさん、だいじょうぶ?」
「だいじょばない……」
その時、美代が静かに口を開いた。
「佐伯さん」
「……はい」
「あなた、“選ばれること”ばかり考えていたんじゃない?」
佐伯が目を瞬かせる。
美代は穏やかに続けた。
「でもね。本当に素敵な人って、“どう見えるか”じゃなくて、“どう生きているか”だと思うの」
風が静かに吹き抜ける。
「私は、困っている人に自然と手を差し伸べられるあなたのそういうところ、素敵だと思うわ」
佐伯は言葉に詰まった。
「……いや、そんなん普通やないですか」
「その“普通”を、ちゃんとできる人は少ないのよ」
美代は優しく笑った。
佐伯は照れ隠しみたいに缶コーヒーへ口をつける。
「……そういうもんやといいんやけど、なかなかね」
春人が小さく笑った。
⸻
数日後。
佐伯は三度目の婚活パーティへ来ていた。
「……足掻くって言ったしな」
前より少しだけ、背筋を伸ばす。
笑顔をつくる。
会話パターンも考えてきた。
結果は――。
「本日はありがとうございましたー!」
惨敗だった。
「……あかんかったなぁ」
夜風が冷たい。
駅前の灯りが滲んで見えた。
佐伯は苦笑しながら歩き出す。
その時だった。
「あ……excuse me!」
少し焦ったような女性の声。
振り返ると、外国人の女性が困った顔で辺りを見回していた。
長い金髪。
知的そうな眼鏡。
そして、泣きそうなくらい困っている顔。
「Smartphone……lost……」
誰も声をかけない。
佐伯は一度だけ迷って。
結局、放っておけずに口を開いた。
「……えっと、大丈夫ですか」
女性は必死に英語で説明する。
けれど、佐伯にはほとんど分からない。
「……あーもう」
佐伯は頭をかいた。
「困っとるんやんな?」
女性は不安そうに頷く。
佐伯は大きくため息を吐いた。
「……しゃあない」
片言の英語。
身振り手振り。
めちゃくちゃ不格好だった。
でも。
佐伯は、その人を無視できなかった。
駅前の冷たい夜風が吹き抜ける。
その小さな出会いが。
これから少しずつ、誰かの未来を変えていくことを。
まだ佐伯は知らなかった。




