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で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?  作者: Debby
本編

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22 迷子のオリーブ


とても受け入れることの出来ない現実から逃れるためにオリーブがやって来た裏庭には、先客──ヴェルトとエボニーがいた。


「え?ヴェルト、あそこにいたの!?」


『ヴェルト』


本来ならオリーブのみに許されたはずの呼び方を、この平民は何のためらいもなく口にする。

貴族のルールを知らない?

否。エボニーは一年間学園に通っているはずだ。

それに、以前貴族は特別な相手にしか名を呼ばせないと物語で読んだと言っていたのだ。知らぬはずはない。


オリーブも興味本位でその手の本を読んだことがある。

その本には平民である主人公が、貴族に近付くために敢えて貴族のルールを知らないふりをし、令息と馴れ馴れしく接することでその警戒心を解き、落としていく手法が、その心理描写と共に赤裸々に綴られていた。

相手の貴族令息は平民のやることだからと気にせずにいる間にその毒牙にかかってしまうのだ。


オリーブも先日の訓練場では逸る気持ちを抑えられず、咄嗟にヴェルトの名を呼んでしまったが、当然オリーブが彼から咎められることはなかった。

そう、オリーブこそが、その名を呼ぶことを許されている存在なのだ──。彼の名を呼ぶ正当な権利を持っているのはオリーブだけなのだ。


エボニーは年老いた男爵を伴侶にすることを厭い、物語に出てくるような無知な平民を装ってヴェルトに近付こうとしているに違いない。そしてその計画を遂行するために、邪魔者であるオリーブを惑わし、誤った認識のもと行動するように仕向け、レィディアンスから咎められるよう画策したのだ。


(思い通りにはさせない・・・)


オリーブはそう思い、二人の元に向かうため足を一歩踏み出した。


その時だった。

エボニーが俯き、それを心配した様子のヴェルトがエボニーの前に膝をついた。

その瞬間、エボニーがヴェルトに抱き着き、耳元で何かを囁いたのだ。

エボニーに抱き着かれたヴェルトは身動きがとれずにいるようだ。それもそうだろう。いくら不快だからと言っても女性を振り払うわけにはいかないのだから。

こちらに背を向け首元に抱き着かれているヴェルトがオリーブに気付くことはない。


オリーブはヴェルトとエボニーの抱擁に耐えられず、木々の間にその身を隠すように駆けだしてしまった。

そこは今日の会議で獰猛な個体が増えていると報告のあった国境の森に続く林だった。






あの娘は学園でもあんな風に身体を使い、公爵令息を籠絡してその婚約者の怒りを買ったに違いない。


既に、ヴェルトも奪われてしまったのだろうか。


「嫌っ!!」


しばらく走ったところでオリーブの足が止まる。

二人を見ていたくなくて逃げてしまったが、逃げていては何も手に入らないのではないか。

それどころかエボニー(あの悪魔)の思うつぼなのではないだろうかと、そう思ったのだ。


まだ、間に合うだろうか。


オリーブは今からでもエボニーからヴェルトを取り戻せるだろうか──いや、そうじゃない。取り戻さなければ、オリーブとヴェルトの未来は失われてしまうのだ。


そう思ったオリーブは邸に引き返すため、踵を返した。

が、


「え?ここは何処?」


しかし、オリーブが通ってきたはずの道には、林の木々が行く手を阻むように立ちふさがっていた。




*――*――*




オリーブが林の中へ駆けていく姿を目撃したのは四人。

オリーブに背を向けていたヴェルトに抱き着いていたエボニー、そしてマルーン伯爵が立ち去った後の執務室の窓からその一部始終を眺めていた三人である。




(国境の森は危険だって言われていたのに、何故!?)


何の躊躇いもなく林の中に走り去って行ったオリーブを見て、エボニーの目に滲んだ涙など一瞬で引っ込んでしまった。


自分と違い、オリーブは貴族令嬢だ。走る機会などほとんどないためすぐに追えば、連れ戻せるだろう。

そう思ったエボニーは何も言わずにヴェルトから離れると、一人林に向かって走り出した。


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